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Amnesia Doll  作者: 黒宮杳騏
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ⅩⅡ 回想

ここ最近、悪夢が続いていた。

きっと、ガラテイアの森に近付いてきたせいだろう。

俺はただ、あいつの傍にいてやることしか出来ない。

それがもどかしい。


夢を共有することしか出来ない俺は、あいつが目覚めた時に淋しくないよう、いつもそっと髪を梳いてやる。

そうすれば、むずがってたいていは起きるから。


あいつがガラテイアの森へ行くと言い出した時、俺は猛反対した。

こんな風に意見が真っ二つに割れたのなんて、『デュオ』になってから初めてだった。

ガラテイアの森へ行って無事に願いを叶えて帰ってきた人間の話なんてごく少数だし、森へ行くということは、つまり過去を遡るということだ。

俺はあいつに過去を思い出して欲しくなかったし、特に人間になりたいとも思っていなかったから、反対するのは自然な流れだった。

それでも、あいつの決心は固く、「お兄ちゃんが反対しても行く」と言って頑として譲らなかった。


すっかり旅支度を終えたあいつを見て、俺は仕方がないと諦めた。

俺は『ペア』だ。

基本的に『ペア』は常に『マスター』の傍にいなければならない。

俺も簡単に荷物をまとめると、あいつは期待に満ちた瞳で俺を見上げた。

「やっと一緒に行ってくれる気になったんだね!」

「仕方ないだろ、『ペア』なんだから」

多少ぶっきらぼうに返事をすると、あいつは少しだけ俯いて申し訳なさそうに口を開いた。

「うん…我儘に突き合わせちゃってごめんね?」

しおらしいあいつの態度が珍しくて、なんだか俺も申し訳ない気持ちになってくる。それは多分あいつの感情が流れ込んできているせいもあるだろうけど、俺も強く言い過ぎた部分があるので、一応謝っておくべきだと思った。

「俺も、強く反対して悪かったな」

そう言って頭を撫でてやると、あいつは猫のように目を細めてくすぐったそうに笑った。


これは『人形』が『ペア』になる時に聞かされる話だが、ガラテイアの森へ行けば必ず幸せになれるのかと訊かれれば、答えは否だ。

どちらかと言えば、試練の途中で精神に異常をきたしてしまう方が圧倒的に多い。

だから、普通多くの『ペア』はガラテイアの森へは行きたがらない。

『マスター』の心が壊れてしまうのを防ぐためだ。

記憶を辿る旅というのは、否が応にも過去のトラウマと向き合うことになる。

俺にはあいつが試練に耐えられるかが不安だった。

『マスター』となる人間の精神安定剤として、俺達『ペア』は存在する。


本当は、ガラテイアの森の入り口で一瞬躊躇ったあいつに「引き返そう」と言おうと思ったし、森の中を進む最中も、何度繋いだあいつの手を握って森の出口へ走りそうになった事か。


この森は、嫌な気配がする。

試練に耐え切れず『収容所』送りになった人間達の怨念めいた何かが渦巻いているような気がして、俺は決してあいつの手を離すまいと密かに誓った。

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