二人の決意
三人でMサイズ二枚はさすがに食えず、残った分は宇佐見姉妹にあげることにした。
「いいんですか? 麦さんも少し持って帰ったらどうですか?」
トリちゃんがすまなそうにそう言ったが、俺は遠慮した。
「いいよ。久し振りにたっぷりピザ食ったから、当分いいくらいだ」
「じゃあ、いただきます。ありがとう」
玄関で別れを言って、俺は宇佐見家のアパートを後にした。階段を下り、隣の自宅へと向かう。
「……今日は、貴重な出会いだったな。あんな美少女姉妹と知り合えるなんて、すごい幸運だ」
空を見上げると、夕暮れの空に少しだけかけた月が浮かんでいた。白く輝く月を眺めながら、俺は決意を固めた。
「翼も美少女だが、トリちゃん……十四歳の天使のような少女……ロリコンの俺がJC美少女とお近付きになれるなんて、神が与えたもうた奇跡に違いない。よし、決めた。俺、あの二人と仲良くして、翼に取り入った上で、トリちゃんが十六歳になったら結婚しよう」
☆
「くしっ」
麦が帰った後、ピザの香りが漂う部屋の中で、トリは可愛らしくくしゃみをした。
「どしたの、トリ? カゼ?」
「ううん、ちょっと鼻がむずっとしただけ。誰か噂でもしてるんだよ」
トリは鼻をこすった。本当はちょっと悪寒も走ったのだが、黙っていた。体調はいいのに、何でだろうと思った。
「麦さん、いい人だったね」
「いい人か~? あれ?」
翼が口を波線にして言った。
「ロリコンで百合好きの変態よ? どこがいいのよ?」
「でも、結局何もしなかったし、お姉ちゃんに援助交際やめさせるし、ピザおごってくれるし、いいことしかしてないよ? わたしわかるの、あの人絶対悪い人じゃないよ」
「そうかしらねえ……」
翼はあごに手を当て、思案顔をした。
「まあ、お金持ってるし、気前はいいし、顔も結構イケてるし……あれでトリに変なことさえしなければ、いい物件かもしれないわね」
「物件て、お姉ちゃん」
呆れ顔をするトリ。翼はなおも考え中だ。
「あいつはいい金づるだから、どのみちこれからも付き合っていかなきゃならないわよね。トリとハグするだけで200円くれるんだから、こんな美味しい話はないわ。身体を売る気はないけど、うまく距離感保って、お金を落とさせなくちゃ……」
「お姉ちゃん、言ってることがいやしいよ」
トリがたしなめたが、翼の耳には入っていないようだった。翼は、ぽん、と手のひらにこぶしを打ちつけた。
「よし、決めた。これからの付き合いであいつの正体見定めて、そこそこまともなやつだったら、お姉ちゃん将来麦と結婚するわ」
「お、お姉ちゃん!?」
トリが眼を丸くして驚いた。
「お姉ちゃん、そんな、結婚とか簡単に決めちゃダメだよ! ほとんどお金目当てでしょ!?」
「わたしね、玉の輿に乗るのが夢だったの」
翼はしっかりとトリの眼を見据えていった。冗談で言っているのではなさそうだ。
「愛なんてね、最初は燃え上がってもいずれ冷めちゃうものだし、そこそこ好き合ってれば、それでいいのよ。それよりも、あたしはいい暮らしがしたいの!」
こぶしをグッと握りしめる翼。眼に力があった。
「ガス止められたりその日食べるのにも困るような生活はもううんざりよ! お金持ちなのは麦の両親だけど、あいつも金持ちの遺伝子を受け継いでる顔をしてるわ! いい暮らしができれば、『ああ、こんな贅沢な生活ができるのも夫のおかげだわ』って、愛情も湧いてくるわよ!」
翼の勢いにトリはたじたじとなったが、意外と正論だったので反対できなかった。
「うう、そうかもしれないと思い始めてきた……でも、麦さんいい人だし、お姉ちゃんと相性良さそうだし、お金を抜きにしてもお姉ちゃんの結婚相手としていいかもしれないね」
「でしょう? まあ、あいつがトリに手を出すようなゲス野郎だったら論外だけど、あたしたちみたいなリアル月一万円生活してる困窮者があんな金持ちと知り合えるなんて、貴重な出会いだわ。これはきっと、神様の思し召しよ。トリ、一緒にお金持ちになりましょう」
「うん、お姉ちゃん、応援するよ。頑張って」
翼とトリは、固く手を握り合った。かくして、ここにいびつな三角関係ができあがったのだった。