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援交に値段をつけた

「怒ることはないだろう、おまえが自ら足を踏み入れたくせに」

「さっきまで援交をやめろと滔々と話してたのはなんなのよ!? 脅されて輪姦まわされたくないから援交はしません!」

 頭から湯気を出して怒る翼だった。

「そうカッカするな。俺とあのおっさんでは明確な違いがあるんだ。俺は、身元がバレている」

「それがどうしたのよ……」

 翼の怒りが少し収まった。その期を逃さず、俺は説得にかかる。

「俺は捕まりたくないから、君に無理やり性行為を求めることはしない。あくまで合意の元で、君が了解した分しか手を出さない。君が俺に嫌悪感を感じて、手も触られたくないって言うならそれまでだし、今月はお金が要るからおっぱい触らせてくれるって言うんなら、俺も正当な金を払って触らせてもらおう。どうだ? そうだ、価格表を作っておこう。君がその気になったら、その価格で取引するんだ」

 翼は眉がくっつくほど眉間に皺を寄せて、うさんくさそうに俺を見た。

「あたしはあんたと援交する気はありません。価格表なんか作る必要ないです」

「今月、2190円しかないんだろ? 例えばスカートをチラッとめくってくれたら、いくらか援助してあげるって言ったらどうする? 今で価格を決めておいた方が、あとで考えもまとまりやすいだろう?」

「ぐ……」

「何か、紙がないかな? 白ければ何でもいい」

 翼はすごく不本意そうな顔をして、棚から裏が白いチラシを出してきた。

「新聞取ってるんだ?」

「取ってません。お隣さんが、昨日の新聞とチラシをくれるんです」

「ああ、そうか……」

 うん、リサイクルだな。良いことだ。

 俺はチラシをボールペンを受け取り、サラサラと項目を書いた。

「さあ、先ずは自分で値段をつけてみてくれ」

 紙を翼に渡す。翼は赤点の答案を受け取るような嫌そうな顔で受け取った。トリが横から覗き込む。


援助交際価格表 【翼】

ハグ       _____円

キス       _____円

ディープキス   _____円

おっぱい(着衣) _____円

おっぱい(生)  _____円

下着姿      _____円

上半身裸     _____円

全裸       _____円

フェラ      _____円

クンニ      _____円

本番       _____円

本番(生)    _____円


 項目を眺め、翼は渋柿を噛んだような顔をした。それからすごい軽蔑した眼で俺を睨んだ。

「ちょっと相談させて……しばらく部屋の隅にいっててもらえます?」

「ああ、いいよ。ゆっくり考えて」

 俺は玄関の近くに座る場所を移した。翼とトリは一緒にテープルを持ち上げて俺から離れた場所に移動した。

「い、いい!? これに値段書き込んだからって、オーケーって意味じゃないからね! もうどうしようもなく、身体売ってでも仕方なくお金作んなきゃいけないような、一家心中寸前ってときのために書いとくだけだからね! 勘違いしないでよ!」

 翼は顔を赤くして、早口でまくし立てた。

「ああ、俺もそう言ってるだろ。同意がなければ、何もしない」

「わ、わかってればいいけど……」

 翼とトリは、頭を寄せてちゃぶ台の上の紙をのぞき込んだ。後ろから見ていると二人で宿題でもやっているようで、微笑ましかった。


(お姉ちゃん、フェラとクンニって何?)

(くっ……そ、それは知らなくてもいい)

(本番って何? リハーサルもあるの?)

(それは……セックスのこと)

(本番の生って何?)

(ひ、避妊しないこと……)


 声をひそめても、家が狭いので二人の会話は聞き取ることができた。真面目に質問するトリに、翼はしどろもどろで説明していた。トリは保健の授業で習う以上のことは知らないようだった。中学生女子が卑猥な言葉を口にするのを聞くだけで、俺は勃起した。


(えっ! そんなすごい値段つけちゃうの?)

(こ、これくらい、援交では普通よ! たぶん……)

(でもそれじゃ、誰も買ってくれないんじゃ……)

(あ、あたし、そんなに魅力ない……?)

(あわわ、そういう意味じゃなくって)


――――10分後、翼とトリは活発に意見を交わし合って値段を決め、ちゃぶ台を元の位置に戻し、俺を呼んだ。再びちゃぶ台を挟んで向かい合う。

「……値段をつけました。どうぞ」

 リストを俺に向けて、ちゃぶ台の上を滑らせ差し出す。俺はそれを手にとって眺めた。


援助交際価格表 【翼】

ハグ        2,000円

キス       10,000円

ディープキス   15,000円

おっぱい(着衣)  5,000円

おっぱい(生)  10,000円

下着姿       5,000円

上半身裸     10,000円

全裸       20,000円

フェラ      40,000円

クンニ      30,000円

本番       60,000円

本番(生)     無し


 すごーく、興味深い内容だった。ほとんどが5000の倍数ではあるが、熟慮した様子がうかがえる数字だ。何を大切に思っているかが、如実にわかる。

 翼がネームを編集者にチェックされている漫画家みたいな顔で俺を見ている。金額をどう受け取られるか不安なのだろう。

 彼女がつけた値段は、妥当だと思った。援交慣れしているビッチJKなら高いと思うが、初物の上級美少女なら、もっと高くつけてもいいくらいだ。だが俺は、「ふむ」と鼻息を吐いて、こう言った

「……高いな」

 「むぐ」と、翼が息を詰まらせた。

 彼女にしてみれば、安い値をつければビッチだと思われ、高い値をつければ自信過剰だと思われる。難しいさじ加減でつけた値段をあしざまに言われると、乙女としてはさぞ傷つくことだろう。

「ど、どれがよ?」

「全般的に」

「ぐっ……!」

 配慮のない俺の言葉に、翼は相当凹んだ様子を見せた。

「ちょっと待ってろ。修正するから」

 俺はボールペンを取ると、彼女が書いた金額の横に修正案を書き込んだ。

「まあ、こんなもんだろ」

 翼の前に、紙を滑らせる。


援助交際価格表 【翼】

ハグ        2,000円 →  100円

キス       10,000円 →  500円

ディープキス   15,000円 → 1,000円

おっぱい(着衣)  5,000円 →  200円

おっぱい(生)  10,000円 →  400円

下着姿       5,000円 →  300円

上半身裸     10,000円 →  500円

全裸       20,000円 → 1,000円

フェラ      40,000円 → 1,000円

クンニ      30,000円 → 1,000円

本番       60,000円 → 3,000円

本番(生)     無し   → 3,500円


「何よこれえええ!?」

 翼が絶叫した。トリも眼を丸くしていた。

「まあ、これが適正価格だろう」

「概ね20分の1になってるじゃない!! こんなの呑めるわけないでしょう!!!」

 翼は真っ赤になって憤慨した。プライドをいたく傷つけられたのだろう。

「まあ聞け。いいか、援交ってのはさっきも言ったとおり、リスクが伴う。普通の援交の値段ってのは、君たちのリスク代が入っているわけだ」

「…………」

 葉月は俺を呪うような目付きで睨んだ。

「俺の場合、身バレもしているし、無理やり乱暴するようなことは有り得ない。だから、リスク代をさっ引いてもらう」

「だ、だからって、20分の1はないでしょう!」

「数で稼げばいいだろう」

「か、数って……!」

 翼は打ちのめされたような顔をした。

「リスクはないし、隣に住んでるんだから、ちょこちょことこまめに稼いだらいいだろう。俺だって、1回6万円のセックスを月に何度もはできない。

 そもそも同意の上でってことになってるんだから、この価格が呑めないのなら無視すればすむことだ。腹を立てることじゃないだろう」

「ぐ……ぐむむ……」

 翼は涙目になって、悔しそうに唇を噛んだ。

「く……くっそ~! 足元見て……ああもう! 腹立つ! 何が腹立つって、本番と生本番の差の500円が腹立つわよ! ひ、人を何だと思って……! 覚えてなさいよ! 絶対あんたとは取引しないから!!」

 翼は、ぷしゅ~、ぷしゅ~、と蒸気が漏れるような音を立てて怒った。どっから何が出ているのだろう?

「落ち着け。そうだ、トリちゃんの価格表も書いてあげよう」

「……は?」

 翼がポカンとしている間に、俺はもう一枚のチラシの裏に、トリちゃんの援交価格表を書き始めた。

「ちょ、ちょっと! トリはまだ中学生よ!? あ、あんたロリコンなの!?」

「ああ、軽いロリコンだ」

「うわぁぁぁ! とんでもない変態と関わってしまった!」

 翼は頭を抱えた。ムンクの「叫び」みたいなポーズだった。

「よし、できた。トリちゃん、これが君の値段だよ」

 俺が差し出したチラシを、トリちゃんはとまどいながら、賞状のように両手で受け取った。


援助交際価格表 【トリちゃん】

ハグ        2,000円

キス        5,000円

ディープキス   20,000円

おっぱい(着衣)  3,000円

おっぱい(生)   5,000円

下着姿       5,000円

上半身裸     10,000円

全裸       20,000円

フェラ      60,000円

クンニ      60,000円

本番       100,000円

本番(生)    130,000円


「なんじゃこりゃ~!!!」

 トリちゃんの価格表を横から覗いた翼が、すっとんきょうな声を上げた。

「あたしの元の価格より上がってるじゃないの! 何なのよこの差は!」

「希少価値だ」

「き、希少価値~……?」

「援交やってるJKなら、出会い系サイトで簡単に見つけられる。だがJCで援交やっててしかも美少女というのは、絶滅寸前のトキに等しい希少価値がある。それにつけた値段だ」

「あんたがクッソロリコンなだけでしょうが! それにトリに援交なんてさせません!!」

 翼はフルスロットルで激高した。このままだと頭の血管が切れそうだ。

「確かに翼の言うとおりだ。これは俺が勝手につけた値段だから、翼もトリちゃんも気にする必要はない。ただし、君たちがどうにもお金の融通が利かなくて困ってしまったときには、選択肢の一つとして覚えておいてほしい。それだけだ」

「……そうね、あたしたちが選ばなければすむ話よね」

 息を荒くして怒っていた翼が、ようやく落ち着いた。

 ふと、翼が横を見ると、トリちゃんがすごく出来の良かった通知表を見るように、俺の書いたリストを眺めていた。

「お姉ちゃん……わたし、本番が10万円だって」

「だめよ!! トリ! 早まらないで!!」

「し、しないよ! しないけど、すごいお金だなって……お姉ちゃんの6万円だって、すごいと思ったのに……あっ、お、お姉ちゃんごめんなさい!」

「謝らないで! よけい情けなくなるから!!」

 10万円のトリに同情され、3,000円の翼が嘆いていた。

「さて、価格も決まったことだけど、君たち姉妹は俺と取引するつもりは当分ないらしい。それじゃあ俺もつまらないから、君たちの姉妹百合に値段をつけようと思う。ちょっと待っててくれ」

 俺はさらにもう一枚のチラシをとり、リストを書き始めた。

「……お姉ちゃん、百合って、お花の百合?」

「いや、たぶん、あっちのほうの意味だと思う……」

「あっちのほうって?」

「えっと、女の子同士の恋愛のほう……」

 翼とトリがまたこそこそと話している間に、おれは価格表を書き上げた。

「さあ、これが君たちの姉妹百合の価格だ」


姉妹百合価格表

ハグ        200円

キス       1,000円

ディープキス   2,000円

おっぱい(着衣) 1,000円【トリちゃん×翼】

おっぱい(着衣)  500円【翼×トリちゃん】

おっぱい(生)  3,000円【トリちゃん×翼】

おっぱい(生)  2,000円【翼×トリちゃん】

ハグ(下着姿)  5,000円

ハグ(全裸)   20,000円

クンニ      40,000円【トリちゃん×翼】

クンニ      60,000円【翼×トリちゃん】


「お姉ちゃん、結構すごい金額だね……あの、麦さん、かけ算って右と左を入れ替えても答えは変わらないんじゃ……?」

「それはかけ算じゃなくて、左が右にそれをするっていう意味だよ」

「トリに変なこと教えないで!」

「わたしがお姉ちゃんのおっぱい触るのと、お姉ちゃんがわたしのおっぱい触るので値段変わるんだ……変なの。ねえお姉ちゃん、クンニって、何なの?」

「あ、あとで教えてあげるから……あっ! お、教えてあげるって、実地じゃなくて、口でよ! 口で! ああっ! これも誤解を招く! えっと、口頭で! 口頭で教えてあげる!」

 一人でわたわたする翼だった。アホか、コイツ。

「でも……お姉ちゃん、ハグが200円だよ。これもらっていいのかな? いつも普通にハグしてるのに」

「シッ……! 黙ってなさい。もらえるものはもらっておきましょう」

 翼は口の前に人差し指を立ててそう言ったのだが、全部聞こえていた。まあ、いいけど。

「……要するに、あんたは百合が好きで、あたしとトリがイチャイチャするのにもお金を払うと、そういうこと?」

「そういうことだ。これは君たちの小遣い稼ぎにいいんじゃないか? いや、すまない、生活費稼ぎか……」

 重たい空気が流れた。失言だった。


(お姉ちゃん、ハグはしようよ。200円だよ)

(うん……そうね。いやらしいものでもないし)

(キス、1000円だよ……わたし、お姉ちゃんとなら……)

(ちょ、ちょっと待って。あたしもトリならいいけど、こいつの前でするのは……)


 今後に期待が持てそうな会話をする宇佐見姉妹だった。近いうちにキスくらいは見られるかもしれない。

「一つ聞くけど、ハグは毎日したら、毎日200円もらえるの?」

「もちろん、だから価格を抑えてる。あ……だけど、さすがに毎日だと見飽きるだろうから、一ヶ月毎に価格改定を行うことにする」

「えー? ケチくない?」

 翼はそう言ったが、ここは譲れなかったので、なんとか認めさせた。

「じゃあ……ハグするわ。ちゃんと払ってよ?」

「約束する。あ、抱き合う前に、見つめ合って名前を呼び合ってくれるかな?」

「……それ、追加で50円」

「ぐ……いいだろう。あっ! そうだ! トリちゃんは『お姉さま』って言ってくれ! 100円出す!」

 興奮して俺は言った。トリちゃんは意味がわからなかったようだが、翼はちょっと引いていた。

「……じゃあ、やろう、トリ。さっさと終わらそう」

「ムードのないこと言うなよ……雰囲気出してくれ」

「はいはい」

 翼とトリは、制服姿で向かい合って立った。面倒くさそうな物言いをしていた翼だが、ちゃんとトリを愛おしそうに見つめていた。本当に可愛いと思っているのだろう。

「トリ……」

 マリア様のような優しい笑みで、トリを見つめる。対するトリも、うっとりと幸せそうな笑みを浮かべていた。ちょっとアホなお姉ちゃんだけど、大好きなのだろう。

「お姉さま……」

「ぐはっ……!」

 トリの『お姉さま』はすごい破壊力だった。そのひと言で、背景に百合の花が咲き乱れた。

 二人は見つめ合い、ぎゅっ……と互いを抱きしめ合った。

「お、おおぉぉ……! 美しい……!」

 二人は、身体を一つにするように、強く抱きしめ合っている。美少女姉妹が抱き合う姿は、心が洗われるように美しかった。

「お姉さま……」

「トリ……」

「うおぉぉぉ……! す、素晴らしい……!!」

 二人はほとんど無意識に、もう一度互いを呼び合った。俺にとっては大サービスだ。二人は一分間ほど抱き合ってから、ゆっくりと身体を離した。俺は十秒でもよいと思っていたのだが、それは黙っていた。大収穫だ。

「いやあ、素晴らしかった。真に愛し合っている姉妹だからこその美しさがあったよ。心が洗われた」

「あんたくらい心が濁っている人もいないと思うけど……まあいいわ、麦、お金ちょうだい」

 さっきから『あんた』とは言われてたけど、とうとう呼び捨てにしやがった。俺もいつの間にか呼び捨てだったからいいんだけど。

 俺はポケットの財布から硬貨を出し、翼に支払った。翼はそれをトリに渡した。

 トリは、手のひらの百円玉三枚を、マジマジと見つめた。

「三百円……たったこれだけで……」

「トリ、それは箪笥の裏から出てきたのだと思いなさい。労働の対価だと思っちゃだめよ」

「うん、お姉ちゃん」

 トリちゃんの金銭感覚がおかしくなりはしないかと、少し心配になったが、お姉ちゃんがしっかり教育してくれるようだ。安心した。

「これで今日の取引は終了だ。さて、俺、腹減ってるんだけど、今から家に帰って一人で食事するのも寂しいから、ここに宅配ピザでも取って食べたいと思うんだけど、いいかな? おごるよ」

「ピ、ピザ!?」

 トリちゃんが眼を大っきくして叫んだ。大人しそうな彼女の食いつきっぷりにちょっとビビッた。

「ト、トリ! そんな猫まっしぐらな顔しないの! ちょっと、麦! あたしたちをピザで釣ろうとしてるんじゃ……裏はないんでしょうね!……じゅるり」

 トリを背中に庇うところまではカッコ良かったが、涎をすする音で台無しだった。

「裏なんかないって。両親は今日も海外で、帰っても一人なんだよ。好きなの頼んでいいから」

 俺はスマホを操作して、宅配ピザのメニューを映しだした。手を伸ばして二人に見せると、顔をくっつけるようにして覗き込んだ。

「すごーい、携帯でこんなことできるんだ。どれもすごい美味しそう……あ、これなんか、丸いイカがそのまま……!」

「カニ! カニもある! で、でも、お腹が膨らむのはポテトかなぁ……あああ、選びきれない……!」

 二人に任せていたら到底一つには絞れそうになかったので、俺は折衷案を出した。

「よし、じゃあMサイズのクォーターを二つ取ろう」

「な、何ですか? クォーターって?」

 トリちゃんが可愛く聞いた。

「ピザが一枚で四種類味わえるやつ。それを二つ取れば、八種類食べれる」

「はあぁ、素敵です……!」

 トリちゃんは少女漫画みたいに眼をキラキラさせた。ああもう、抱きしめたいくらい可愛い。

「シーフードとポテトとクラブと……よし、この二つ取ればだいたい制覇できるな。いいかな?」

「カ、カニは!? 麦! カニ!」

「……クラブがカニだ。黙ってろ翼」

「あ、はい……」

 肩をすぼめて小さくなる翼。黙ってりゃ可愛いのに……残念な美少女だ。



     ☆



 三十分後、ピザ到着。

「6160円です」

 翼とトリの視線を背に感じながら、俺はピザ屋に代金を支払った。彼女らの残りの生活費の約三倍だ。

 ちゃぶ台の上にピザの箱を置くと、魅惑的な香りが漏れてきた。二人はゴクリと喉を鳴らした。

 蓋をあげる作業は、彼女らに任せた。急いでテープを剥がし、「せーの」と声を合わせ、同時に蓋を開ける。

「「わあぁぁぁ……!」」

 二人は一斉に声を上げた。

 トマトの赤、ピーマンの緑、ポテトの黄色。様々な具材がたっぷりと盛られたピザは、色鮮やかで眼にもごちそうだった。

 食欲をそそる香りが、ぶわーっと部屋中に広がる。とたんに強烈な空腹感が胃袋を刺激した。

「「い、いただきます!」」

 おあずけを解かれた犬のように、二人は急いで手を伸ばした。

「あちっ! あちっ!!」

 とろけて手に垂れてくるチーズに悲鳴を上げながら、二人は息を吹いてピザを冷まし、三角形の頂点に齧り付いた。

「くぅっ!! すっごいボリューム……お、美味しぃぃ……!!!」

「うわぁっ! トマトが口の中でじゅわぁってする……! 美味しいよぉ!!」

 ビデオに撮ってピザ屋の店長に見せたら感動して泣くんじゃないかと思うほど、二人は美味しそうにピザを食った。

 俺もひと切れを摘まんで、口に運ぶ。

「んっ……ああ、すげえ旨い」

 ほとんど一人暮らしの俺は、夕食にピザを注文することも多く、正直少し食べ飽きていた。

 でも、二人と一緒に食するピザは、一人で食うのとは全然味が違った。旨すぎて、今まで漫然と食べていたことをピザに申し訳ないと思うくらいだ。

「麦さん、とっても美味しいですぅ! こんなにこってりしたの食べるの、久しぶり……!」

 トリちゃんがトマトソースで口元を赤く染めながら言った。すっげぇ幸せそうな顔してる。

「良かった、たくさん食べて」

「ありがと……麦。美味しい」

 翼もばつ悪そうに礼を言った。俺がニヤ~っと笑うと、翼は頬を染めてそっぽを向き、またピザにかぶりついた。



     ☆




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