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美少女姉妹のアパートにおじゃました

 十五分後、俺はお隣さん家におじゃましていた。築年数の古そうなアパートの、なんとワンルームの部屋だ。コンテナみたいだと俺は思った。家具などもぶっちゃけ貧相で、俺たちはちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。

「どうぞ」

 妹のほうが、コップに注いだ麦茶を俺にすすめた。中学生だと思うけど、もてなしが様になっている。良くできた子だな、と思った。

「先ずは自己紹介するよ。隣に住んでる小金井麦ごがねいむぎ。旗森高の二年だ」

宇佐見翼うさみつばさ……同じ旗森高の一年です。こっちは妹のトリ、旗森中の二年です」

「トリちゃんか。どんな字を書くの?」

「木偏に土のに、なしで、杜梨とりです。難しいからカタカナで呼んでください」

「わかった……」

 漢字とカタカナで発音が違うのだろうかと俺は思った。お姉さんのほう、ちょっと天然なのかもしれない。

 麦茶に口をつけながら、俺はあらためて姉妹を観察した。遠くから眺めても美少女だと思ったが、近くで見ると、より一層可愛く見える。

 姉の翼は、黒髪のセミロング。髪質は艶やかでしっとりしているが、ちょっと重たい感じで、それが彼女を少々地味に見せている。

 しかし、顔の造作は人形のように整っており、どこにも欠点がない。肌もニキビ一つなくすべすべで、雪国の子供のようだ。黒目がちな眼も美しい。

 髪をもうちょっと短くして軽い感じにするだけで、キラキラと輝くような美少女になるのではないかと思われる。ダイヤの原石だ。

 身体は細すぎず太すぎずで、抱き心地良さそうだ。制服をこんもりと盛り上げいる巨乳を見ていると、本当に抱きついて胸の谷間に顔をうずめたくなる。観賞用というより実用的な身体だ。

 妹のトリはいうと、原石ではなく、既に磨かれたダイヤの輝きを放っていた。

 髪は腰までのロングストレート。血が通っているのではないかと思うほど艶やかで美しい。ピンで分けた前髪からのぞくおでこは、ツルンとしてゆで卵のようで、思わずベロペロしたくなる。

 顔は姉に負けずお人形さんのように整っており、しかもまつげが長い。澄んだ瞳でパチパチ瞬きしているのを見ていると、吸い込まれてしまいそうになる。

 これだけ美少女なのに、口元にはいつも微笑みがあって、愛嬌がある。この顔で、ニコッと笑顔を振りまかれたら、腰が砕けてしまうだろう。

 さっさと白状してしまうが、俺は軽度のロリコンである。トリはまさしく俺の好みの直球ド真ん中で、彼女のオシッコなら飲めると俺は思った。

「さて、自己紹介もすんだし、単刀直入に聞くけど、翼……さんは、あのおっさんと援交しようとしてたんだよね?」

 「翼ちゃん」か「翼さん」で迷ったが、一学年しか変わらないので「さん」にしておいた。ズバリと俺が尋ねると、翼はビクッと肩をすくませ、正座した太ももに置いた手をギュッと握った。

「そ、そうですけど……これはうちの問題で、小堺こさかいさんには関係ありません」

「小金井です……小金井麦こがねいむぎね……」

 そんなに覚えにくい名前じゃないと思うんだけどなあ……。

「すみません、噛みました。とにかく、小金井さんには関係のないことなんです」

「関係なくても、首を突っ込ませてもらう。やめろよ、援交なんて。お金が欲しければ、真っ当に働いて稼げばいい」

「やってましたよ、バイトを……でも学校にバレちゃって、今度やったら退学だって……見てのとおりうちは貧乏で、本当に、食べるためのお金が必要なんです」

「そういう問題じゃない。君は、援交のリスクがわかっていない」

 確かにこの部屋は貧乏オーラが溢れていたが、同情している場合じゃないので、俺はきっぱりと言った。

「聞くけど、翼さんはあのおっさんとどこで知り合って、どんな約束をしたの?」

 翼はグッと言葉に詰まり、横目でトリの様子をうかがった。トリは、じっと姉を見返して、アイコンタクトで「お姉ちゃん、正直に話して」と訴えた。翼は溜息をついて、俺に向き直った。

「……出会い系サイトで知り合って……その……下着姿の写真を撮るって……服を脱ぐんじゃなくて、めくるだけで、顔は取らないって約束で……」

「ふーん、それでいくら?」

「五千円……」

「安っ」

 俺が安いというと、翼はショックを受けたようだった。まあ、実際援交に相場も何もないのだが。手をつないで三千円だったり、本番が十万円だったり。レアグッズのオークションみたいなものだ。欲しい人が欲しい値段を付けるのだ。

「じゃあさ、俺が君を買ったあのおっさんだったとするよ。俺は君を車に乗せて人気ひとけのないところへ行き、車の中で服をめくって下着を写真に撮る。そして、一枚だけ顔まで入った写真を撮って、携帯を操作している振りをして、それを別のフォルダに移す。君は携帯を見せてもらって撮った写真を確認するが、顔を撮られた一枚には気づかない」

 翼の顔が、サッと青ざめた。

「翌日、俺は写真をメールで君に送り、言うことを聞かないと、写真を家と学校にばらまくと脅す。制服で学校もバレてるからね。

 もう一度下着を見せてくれたら写真は削除すると言うので、君はノコノコと待ち合わせ場所へ行く。

 ラブホに連れ込まれ、君はレイプされる。写真を削除するどころか、今度はビデオを撮られる。君は逆らいようがなくなり、毎日のように呼び出され、他の男の相手もさせられるようになる。そして……もう、このくらいにしておこうか」

 翼が真っ青になってガタガタ震えだしたので、俺は話を切った。トリも青くなっていた。

「そ……そんな……こ、怖いぃぃ、小金井さん!」

「俺じゃねえよ! 俺助けたんじゃん! 魔の手に落ちるのを!」

 やっぱちょっと変だ、この姉……。

「このぐらいのこと、誰でも思いつくよ。それにあのおっさん、ヤクザじゃないにしろ、ちょっとヤバそうだったじゃん。関わったら、もっと酷い目に遭ったかもしれない。君、今まで援交なんてやったことなくて、アレが初めてだったんだろ? もう、援交で稼ごうなんてすっぱりあきらめな。それで……ちょっと事情を聞かせてくれないかな? 俺にできることがあれば、力になるから」

「…………」

 翼が意見を求めるようにトリを見ると、トリは、こくん、とうなずいた。なんだか、トリのほうがお姉さんみたいだった。

 大きな溜息を一つ吐くと、翼は顔を上げ、語りはじめた。

「……うちは、母子家庭です。お父さんはあたしが物心つく前に他に女つくっていなくなりました。母はスナックで働いていて、夜はいません。

 あたしは中学を卒業したら働くつもりだったんですけど、母は就職で元は取れるから絶対高校は出ておけって……それで、奨学金で高校には通わせてもらっています。

 贅沢しなければ、母の稼ぎでなんとかやっていけるんです。でも、母は趣味がパチスロで……大負けするたびに、もう二度とやらないって約束するんですけど、喉元過ぎれば何とやらで、年に何回かはお給料の大半をスっちゃうんです……」

 この姉妹の母親は見かけたことがある。派手な服を着て夕方にタクシーで出かけていくから水商売なのだろうとは思っていたが、ギャンブル中毒だったとは。

「……生活費の足しにするためにパン屋さんでバイトしてたんですけど、学校にバレてしまって……今度やったら退学だって……賞味期限切れのパンとかパンの耳とかもらえて、あんないいバイトなかったのに……」

 ……最初から期限切れ食品狙ってバイト選んでるな、たぶん。

「それで、援交に手を出したと?」

「そう……です」

「だいたいの事情はわかった。俺からもう二つだけ質問させてくれ。一つ、借金はある?」

 翼は首を横に振った。

「ありません。母もそこだけは一線を引いているので、確かです」

「そう。じゃあ二つ目。二人は、学校でイジメとかは?」

「ないわよね……? トリ」

 翼が聞くと、トリは可愛らしく、こくんと頷いた。

「うん、みんな優しいよ」

「トリはとってもいい子なので、いじめられるなんてことはないと思います。あたしは……その、気が強いので……」

「ああ……そんな感じする」

 机に落書きされて我慢するようなタイプには見えなかった。掃除しない男子を叱るタイプだ。

「うん、わかった。お母さんが浪費家なのは大変だけど、そう悲観するような状況でもないんじゃないか?」

 翼とトリは、意外そうな顔をした。

「そうですか……? あたしたち、今月の生活費あと2190円しかないんですよ?」

「今日まだ10日だよ!? そ、そうか、それはかなりしんどいだろうけど……でも、未来が閉ざされてるわけじゃない。

 借金はないし、家族は健康だし、学校生活も良好だ。二人ともヒッキーでもなければ、やさぐれてるわけでもなく、どっちかというとコミュ力高そうだし……君ら、むしろリア充なんじゃないの?」

「今ガス止められてんですよ! ライフラインが確保されてないリア充なんかいるか!」

 翼に盛大に突っ込まれた。

「お姉ちゃん、今わかんない言葉いっぱい出てきたんだけど……」

 翼の耳元に口を寄せて、トリがこしょこしょと聞いた。「ヒッキー」とか「コミュ力」のことだろうか?

 この程度のネットスラングがわからないということは、妹はオタク要素なしだな。姉はどの程度かわからないが、要素ありだ。俺はと言うと……追々説明する。

「トリはわかんなくていいの。大丈夫よ、バカにされたわけじゃないから」

 翼は姿勢を正し、真剣な顔で俺に向き直った。

「これで、うちの事情は全てお話ししました。今日会ったばかりで何ですが、五千円貸してください」

「直球すぎるわ!」

 俺の財布にしか興味ないのかよ……。頭痛くなってきた。

「力になると言ったじゃないですか。今月あと五千円あれば乗り切れます。母のお給料が入ったら五千円ちゃんと返しますから」

「おっさんと約束した金額を連呼するのはやめろ! あのさ……金が戻ってこないのを心配してるわけじゃないんだよ。そんなに困ってるならあげたっていいくらいに思ってるんだから」

「いいえ、ほどこしは受けません」

 貧乏なくせに、翼はきっぱりと言った。

「どんなに貧しくても、お金をめぐんでもらったり、盗んだりはしません。それが宇佐見家の……」

 翼は眼だけをトリに向けた。トリが小声で囁く。

(お姉ちゃん、『矜持』だよ)

「それが宇佐見家のキョウジです」

「すげえカッコ悪いよおまえ!」

 おしい! おしいよ翼! 今のスラッと言えたら、すげぇ格好良かったのに……! 時間を巻き戻したいくらいだ!

「あのさ、ちょっとは俺のことも興味持ってくれないかな? 隣に住んでること以外、何も知らないだろ?」

(翼)「……」

(トリ)「はい、知りたいです。お兄さんのこと」

 トリちゃんの賛同を得られたので、俺は自分語りをはじめた。

「俺の両親は、夫婦で外国の骨董や家具を扱う店をやっている。家見りゃわかると思うけど、そこそこ儲かってるよ」

 姉妹は羨ましそうな眼を向けた。俺の家は、モダンなデザインの庭付き一軒家だ。大金持ちってわけではないが、それなりのいい暮らしをしているのは、一目でわかるだろう。

「仕事柄、両親は世界中で売り物を探し回っていることが多くて、家にいるほうが珍しいくらいだ。俺は一人っ子だから、あのでかい家にだいたいひとりぼっちだ。まあ、慣れてるけどね」

 俺が二人をリア充だと言ったのは、そういう意味もあるのだ。家が狭くても、いつも家族一緒ってのは、俺にとっては羨ましいのだ。

「俺の両親は家を空けるときは一ヶ月くらいいないから、その間の生活費として、クレジットカードを渡されてる。キャッシング機能付きのな」

「ク、クレジットカード……!?」

 翼が目を丸くした。たぶん、クレジットカードの機能をよく分かってはいないと思う。きっと、「金持ちが持っているお金が無限に出てくる魔法のカード」くらいの認識なのだろう。トリちゃんはもっとわかってないらしく、ポカンとしていた。

「キャッシング枠は月に25万円。もちろん全部使ってしまったことは一度も無いし、俺自身のアルバイト収入もあるから、この金は生活費以上には手をつけていない。

 それと、クレジットは自由に使っていいことになっている。俺が中三の時に、両親が留守の時にクーラーが壊れて、俺が勝手にエデオンに行って30万円のクーラー選んで買ったけど、両親には何も言われなかった。三ヶ月くらいしてからクーラーを買ったことを思い出して親に報告したけど、その月だけ出費が多かったことにも気づいていなかったんだ」

「さ、30万……! クーラー……!」

 翼とトリは、揃って口をあんぐりと開けた。ちなみに、もちろんこの部屋にはクーラーなどついていなかった。

「そういうわけだから、俺が君たちを経済的に援助するのは、訳ない。だが、さっき翼が潔く言ったとおり、安易に金を恵むようなことは、俺もしたくないと思う」

「いや、そういうことなら、さっきのは取り消します」

「最高にカッコ悪いよ! おまえ!!」

 何なんだコイツ……突っ込み疲れてきた。

「冗談です。でもさっきのキョウジは本気です。何です? お金持ち自慢ですか? 小金井さんが小金持ちでも、ほどこしは受けません。あたしたちにだって、プライドがあるんです」

「……おまえ、『矜持』のイントネーションが変だぞ? 意味とか漢字、わかってないだろ?」

「っ……! と、とにかく! 恵んでくれとは思ってませんから、五千円貸してください! 正直、クラスの友達とかから借りるのは、嫌なんです……」

 翼は、しゅん、としょげた。

「そんなしょげるなよ。あのさ、金を恵んで欲しくなんかないという君たちと、君たちを経済的に援助したい俺を、うまく結びつけるいい方法があるんだよ。俺と援交しよう」

「ちょっとでもいい人かと思ったあたしの気持ちを返せ! 変態!!」

 普通はここで一瞬怯むものだが、翼の突っ込みは電光石火だった。芸人か、こいつ。

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