援交現場を目撃した
小金井麦、十七歳。これといって特徴がないかわりに清潔感だけ溢れている男子高校生の俺が、この物語の主人公だ。よくいる日常系ラノベの主人公を思い浮かべてもらえば間違いない。
帰宅部の俺は、学校帰りにごく普通にごく普通のコンビニの前を通りがかった。店の前にはごく普通の女子高生がいて――あれ? あの子、見覚えがあるな?
肩よりちょっと下までの長さのサラサラな黒髪と、整った顔立ちには見覚えがあった。あともう一つ、――むしろこっちのほうが一番の特徴なのだが――制服の胸元を盛り上げている巨乳は見間違いようがない、うちの隣のボロアパートに住んでいる姉妹の、お姉さんのほうだ。半年ほど前に越してきたのだが、姉妹揃って可愛いので、気になっていたのだ。
名前も知らないその子のそばには黒塗りの車が停まっていて、中から派手なシャツを着たパンチパーマのおっさんが下りてきた。彼女に近づき、財布からお札を出して、それを渡そうと――。
「えっ!? ちょっ……! マ、マズイっしょ!」
我知らず俺は走り出していた。二人の前で急停止すると、二人ともギョッとした顔で俺を見た。
「あ、あのっ! ダ……ダメだ! こういうの! け、警察呼びますっ!!」
支離滅裂に俺はしゃべった。「援交」と決まったわけではないし、おっさんは怖かったが、とにかく止めなくてはならないと思った。
「何だ? お前?」
「こ、この子の隣に住んでる者です! く、車のナンバー覚えたから!」
必死こいて俺がそう言うと、パンパーのおっさんは「ちっ……!」と舌打ちした。
「何もしとりゃせんからのお」
おっさんは車に乗り込むとバタンと乱暴にドアを閉め、エンジンを吹かして走り去った。ポツンと残された、俺とお隣の女子高生。俺は息をついて、額の汗を拭った。
「あ、あの……」
女の子が訝しげな表情で俺の顔を覗き込む。とっさにこんな行動をとってしまったが、本当に援交だったのなら、彼女をいさめなくてはならないし、俺の勘違いだったのなら、謝らなくてはならない。
「お姉ちゃん……」
彼女に真偽を問いただそうとしたら、横から声がした。そっちを向くと、お隣さんの妹のほうが、制服姿で呆然と立っていた。
「ト、トリ……!」
お隣さんが、驚いた表情で見返す。マズいところを見られた、という顔をしていた。俺は、援交の現場だったのだと確信した。
「……まあ、ここじゃなんだから、とりあえず帰って、落ち着いて話をしようよ。な?」
俺がそう呼びかけると、お隣さんは俯いたまま、こくん、と小さくうなずいたのだった。
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