7話
7話
色々と話を聞いていたらボリスさんが戻ってきた。手には巾着みたいな袋が。あれがアイテムポーチかな?
そのまま俺のそばまで来ると、手に持った巾着を差し出した。
「マキト殿、こちらがアイテムポーチです。他の品物はこのポーチの中に入っていますので、お確かめください」
ボリスさんからアイテムポーチを受け取った。受け取ってみたもののこれどうやって使うの?
「えーと、どうやって確かめたらいいんでしょう?」
「ああ、申し訳ない。使い方を説明していなかったんですね。アイテムポーチを身に着けてステータスを開いて下さい。ステータス欄にアイテムポーチという欄が増えていると思います」
言われたとおりにステータスを開くと本当にアイテムポーチ①という欄が増えていた。とりあえずそのアイテムポーチ①をさわると、所持アイテム欄が現れた。
アイテム欄には大銀貨2枚、銀貨9枚、大銅貨10枚、バゲット60個、ホーンシールの干し肉50個、ホーンシールの肉60個、魚の干物20枚、ホーンシールの革鎧1個、ホーンシールの革グローブ1双、ホーンシールのブーツ1足、銅のナイフ1本、魔石Dが3個が入っていた。
取り出し方は、小さいものならアイテムポーチに手を入れて取り出したい物を指定すると手の中に、大きい物は指定すると近くに出てくるようだ。
よくわからないアイテムもあるので、1個ずつ取り出してみるとバゲットとはパンだった。ホーンシールってなんだと思って聞いてみたら、角の生えた真っ黒なアザラシのような生物のことだとわかった。その皮を使っているせいか防具も真っ黒だ。
防具のランクはEでナイフのランクはFだそうだ。
肉は10キロで1個、干物は1匹分で1個の扱いらしい。どういう基準なんだろう?
どうやら約束の物は入ってるようだ。食糧に関しては1か月分なのかよくわからないけど十分だと思う。
「大丈夫です。ちゃんと入ってるみたいです。でも生肉は傷まないんですか?」
「アイテムポーチの中は時間が止まっていて、入れた物が傷むことはありません。生物は入れられないので注意してください。それとステータスの操作は指で押したりしなくても念じれば操作出来ますよ」
ステータスって思考で操作出来たの?
そういうことは早く言ってよ。何もない所を指で押してる俺がバカみたいじゃん。次からは気を付けよう。
「後は防具の装備方法ですが、スキルで作った装備なら、装備したい物に触れて装備と念じれば自動で装備出来ます。手作りの装備は、自分で着ける必要があります。アイテムポーチに入っている物はスキルで作ったものです」
教わった通りに革鎧を装備してみた。一瞬で革鎧が移動し、Tシャツの上に装備された。
グローブとブーツも装備してみたが、俺用に誂えたみたいにしっくりくる。身体を動かしても動きが阻害されない。さらに軽い。装備する前と変化があまりないくらいの軽さだ。
「スキルで作った装備品は使用者に合わせて大きさが変化します。さらに多少の損傷なら自動で修復されます。職人が作った鎧だと頭部や四肢に別の装備が必要なのですが、スキルで作った装備にはそういったものが基本的に必要ありません」
スキルで武器、防具を作る人を鍛冶師、手作りする人を武器職人や防具職人と言うそうだ。
ズボンやシャツの上から防具を着けるのが一般的らしい。
職人の作る防具は、頭部、胴、前腕、手、大腿、脛、足でフル装備、スキルで作る防具は胴、手、足でフル装備だ。人によってはこれプラス盾を装備する。
武器と防具のランクは素材のランクと同じになり、武器や防具の攻撃力や防御力を高める効果が付いていてもランクは変化しないそうだ。
スキルで作った胴体部の防具は、胴体を守ることはもちろん、頭部や手と足以外の四肢も不可視の壁で守ってくれるらしい。ただ不可視の壁だけの部分は、防具を付けている部分より少々防御力が低い。飛び道具を逸らしたりする分には有効だが、接近戦での打撃や斬撃等の攻撃にはそれほど強くないという事だ。
不可視の壁のダメージが許容量を超えると不可視の壁は破壊され修復に時間がかかる。同ランクの武器からの攻撃がクリーンヒットすると1撃で不可視の壁が壊れてしまう事もあるため過信は禁物だ
スキルで作られた手と足の防具には、特殊な効果が付いている物が稀にある。効果を発揮させるためには燃料として魔石が必要だ。
魔石を効果の付いたブーツやグローブの中に入れると吸収されてなくなり、入れた魔石の質と量で使用時間が延びる。
使用したい効果の名前を念じると発動し、解除も同じ要領で出来る。効果使用中は、残り使用時間がステータスで見られるらしい。
もらったブーツとグローブには効果はないそうだ。
アイテムポーチは魔力がなくなりそうになると中にある魔石を消費するシステムだ。かなり省エネで、低ランクの魔石でも長時間使えるそうだ。アイテムポーチに入っていた魔石も燃料として入れてあったようだ。
そういえば、元の世界から持ち込んだリュック等もアイテムポーチに入れたんだけど、表示された名前がおかしい。
箱庭のリュックサック、無限のビニール袋、無限のボールペン、無限のメモ帳、無限のポケットティッシュ、魔力時計、ヒートジャケット、ウイングブーツ、Tシャツ、パーカー、ジーンズだ。
Tシャツ、パーカー、ジーンズは普通だな。
「私の世界から持って来た物も見てもらえますか?こちらの世界に来てちょっと変異している物があるようで、使い方がわからないんです」
「ええ、いいですよ」
とりあえず元の世界から持ち込んだ物を下着以外すべて見てもらう。
その結果、ウイングブーツだけ防具で、残りは魔道具らしい。
ウイングブーツはランク外のアイテムだけど、効果があるそうだ。
ウイングブーツには飛行という効果があり空が飛べる。しかし燃費がすごく悪く、防御力はほぼ皆無。
魔道具の方は、何枚使ってもなくならないビニール袋とメモ帳とティッシュ。インクがなくならないボールペン。
魔石時計は、魔石で動く時計だ。電波時計のように自動で時刻を合わせてくれる。デジタル画面が消えていたのは魔石で充電していなかったからのようだ。
ヒートジャケットは暖房という効果がある。Tシャツ、パーカー、ジーンズは自動修復という効果があるそうだ。
自動修復は魔道具には必ず付いている効果だ。自動修復しか効果が付いていない魔道具は最下級の魔道具というあつかいらしい。自動修復って便利だと思うけどね。
箱庭のリュックサックは箱庭系魔道具の1種だという。他に壺、樽、木箱などが確認されている。
最初に持った人が所有者登録されるが所有権の譲渡も可能。所有者は物でも生物でも収納、取り出しができ、自分も出入できる。ただし、他人の所有物は許可がないと入れる事は出来ない。所有者が中に入っている時、箱庭系アイテムはあらゆる事象から干渉されない。
箱庭のリュックサックの中は直径数十キロのドーム状の特殊な空間で、半分が草原、半分が湿地になっている。時間の流れも1日のサイクルも外と同じ。小さな世界という感じだ。山や砂漠や海などがある箱庭もあるらしい。
モンスターを中に入れて牧場にするとか色々使い道があるらしい。
この箱庭のリュックサックにはリサイズという効果が付いていて、大きさを変える事が出来るらしい。
魔道具を使うときにも魔石が必要らしいので、魔石をたくさん手に入れるまでは魔道具は使えないな。
「今あるアイテムについては、こんなところでしょう。教えたのは基本的なことだけなので、町に着いたら色々調べてみて下さい」
「それにしてもアイテムの知識がすごいですね」
「いやいや、知識があるわけではないですよ。【鑑定】というスキルを使ってアイテムの情報を得ているだけです」
「【鑑定】ですか。なるほど」
「町には鑑定屋という店がいくつもあるので、アイテムを鑑定したい時にはそこに行ってみて下さい。ただしアイテムをすり替える店もあるので、冒険者ギルドの鑑定屋を利用するのが無難だと思いますよ」
なんで隠れ里に住んでるのに町の事について詳しいんだろう?
偵察でも出してるのか?
「わかりました。そうします」
「ではそろそろ【制約】をかけさせてもらいます。父上、マキト殿、私の近くに来てください」
え?ちちうえ?
アルベルトさんとアルベルティーナさんの息子だったの?マジか!
「おう」
「はい」
俺とアルベルトさんが近くに行くと、ボリスさんが【制約】を使った。
するとステータスが勝手に開き、状態欄に制約①が追加された。
「これで【制約】がかかりました。破ることが無いようにお願いします。もう質問は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか。では、父上、母上、私はこれで失礼します」
「私も一緒に帰るわ。案内ならあなた1人で大丈夫でしょ?」
「そうだな。じゃあ、また後でな」
「ボリスさん、アルベルティーナさん、ありがとうございました」
「どういたしまして。元気でね」
「では道中お気をつけて」
その会話の後、ボリスさんとアルベルティーナさんは帰って行った。
ボリスさんは見た目とは違って、すごく丁寧で良い人だった。
アルベルティーナさんは兎に角美人だった。アルベルトさんが羨ましい。爆発すればいいと思う。
「ねえねえノワール。お肉をたくさんもらったよ。よかったね」
『おかしなスキルと引き換えだったこと忘れてませんよね?しかも脅されて』
「まあそうだけどさ。【制約】の実害はあまりなさそうだしいいじゃん」
『まあ、御主人がいいならいいですけどね』
「【制約】も済んだし、喋ってないでさっさと出発するぞ」
もう出発ですか。あまりここに長くいない方が良いってこと?
「1つだけいいですか?」
「なんだ?」
「アルベルトさんもボリスさんも町について詳しそうですけど、偵察でも出してるんですか?」
「まあな。1人前と認められた若者が、世界を見たいと言って町から出ていくことも多い。そういった者達の教育のためにも、新しい情報は必要だからな。ボリスも里帰りしているだけで、普段は遠い国で冒険者をやっているぞ」
「えっ?町の外に出ている人っているんですか?」
俺に【制約】かけても、他の人が捕まったら意味ないじゃん。
「それなりにな。当然外に出る奴らには、お前と同じような【制約】をかけているぞ」
あーそう。人族のみに【制約】をかけてるわけじゃないのか。
そういうことは最初に話してほしいよな。そういうことならあんなに悩まなかったのに。
「厳しいですね」
「1人の身勝手で、町が危険にさらされてはいかんだろ」
「そうかもしれませんね」
「もういいな?まずはあの川口から川を遡る」
「はい」
『御主人は私の背中に乗ってください』
「いいの?」
『もちろん。というか、そうしないとついていくのが大変だと思いますよ』
それもそうか、川沿いを行くって言っても森の中に入っていくんだもんな。
「じゃあ乗せて」
生き物に乗ったことないけど大丈夫かな?
『はい』
伏せたノワールに跨ると、ノワールの毛がウニョウニョと動き俺の胴体にからみついた。
「これ【被毛操作】ってやつ?」
『そうです。落ちたら危ないですから』
そう言うとノワールが立ち上がった。
高いな。うーん、バランスがちょっととりずらい。鐙があれば少しは違うんだろうけど。
「準備は良さそうだな。走るぞ」
『ああ』「はい」
返事をしたらアルベルトさんが走り出した。ノワールもそれに続く。スゲー揺れるな。舌噛みそう。
それにしても速い!あの人時速何キロで走ってるの?
ついていけるノワールもすごい。俺は絶対ついていけない。
1キロくらい離れていた河口まであっという間に着いた。
砂浜で1キロを1分か。競走馬より速いんじゃないか?
河口に着いて1度止まった。川幅が100メートル位ある。結構大きな川みたいだ。
川のギリギリまで木が生えていて、川岸には道がない。
森の方はかなり大きな樹木と低木が生えているが、木の間隔はノワールでも余裕で通れるくらいの広さだ。
「このまま森に入り上流の湖を目指す。雑魚モンスターは無視して通り抜ける。遅れるなよ」
というとまた走り出すアルベルトさん。さすがに森の中ではさっきのようなスピードは出せないようだ。
『姿勢を低くしていて下さい』
「了解」
さっきより遅いとは言っても、森の中とは思えないようなスピードが出ている。
顔のそばを木の枝が高速で通過していく。顔に当たったら顔が潰れちゃいそうだよ。
低木もかなり生えている。こんな所を俺が走ったら傷だらけになるだろう。
森に入ってからかなりの時間がたった。
前を走るアルベルトさんは、たまに出会うモンスターを跳び越え、蹴飛ばしながら進んでいく。それもほとんどスピードを落とさずにだ。
同じ人間とは思えないな。
そんなことを考えていると、唐突に視界がひらけた。目の前には湿地が広がっている。左の方を見ると大きな湖がある。どうやらあれが目的の湖のようだ。
【マップ】で確認すると、ここは最初にいた場所から真北に50キロ位来た所だった。
ノワールにしがみついていただけなのにすごく疲れたし尻が痛い。乗馬は結構体力がいるって聞いてたけど本当なんだな。
アルベルトさんもノワールもあれだけ走ったのに全く疲れていないように見える。なんで俺が1番疲れてるの?
「湖ってあれですか?」
「そうだ。これからこの湿地の反対側に行くが、その前に少し休むか」
「そうですね。ちょっとだけ休憩させて下さい」
ノワールから降りて、休憩しながら周りの様子を確認してみた。
湿原にはいくつも池塘がある。池塘のいくつかには鴨とか鷺のような鳥がいるみたいだ。1番近くの池塘でも何かが蠢いている。何だあれ?
「あの辺りでなんか動いてませんか?あの小さい池の辺りです」
「あれはウォーキングハードウィートだと思うぞ」
「ウォーキングハードウィートですか?」
「お前さんに渡したバケットってあっただろ?あれの材料になるランク外のモンスターだ」
ウィートって小麦か!あー、歩く小麦ね。何だそりゃ?
「ちょっと近くで見てもいいですか?」
「あれなら大丈夫だ。だがあまり湖や大きな池の近くには寄るなよ。何が飛び出してくるかわからんからな」
ウィート系のランク外モンスターは水や豊かな土地を探して移動するだけで、敵に攻撃したり、敵から逃げたりはしないそうだ。一般人でも簡単に捕まえられるらしい。
「気を付けます。ノワール行こう」
『はい、行きましょう』
少し地面がぬかるんでいるが歩くのには問題ないようだ。
ウォーキングハードウィートに近づいて観察してみる。
近くで見ると小麦の1本1本が歩いている。そしてでかい。
俺の知ってる小麦の倍くらい背丈があり、太さは直径5センチくらいだ。てっぺんに穂があって、でっかい粒がいっぱい生っている。
「変な生き物だね」
『美味しくないつぶつぶです』
さっそく食ってるし。まあ硬い実と茎だもん美味しくないよね。
「やはりハードウィートだな。あの実の中に小さい粒がたくさん入っている。その粒を粉にした物を加工して、バゲット等のパンにするんだ」
あの中に小さい粒がいっぱい入ってるのか。つぶつぶってそういうことね。
面白い生き物だ。
1体捕まえてナイフで切って倒してから【解体】をしてみた。
【解体】すると脱穀した大量の麦と麦藁と小さい魔石になった。
「確か箱庭のリュックサックを持っていたな?それに魔石を入れて、ウォーキングハードウィートを数体入れておくといい。勝手に増えて食べ物にも困らんぞ」
そういえば家畜を飼うのに使うって言ってたな。試しにやってみますか。
アイテムポーチに入っていたDランクの魔石を箱庭のリュックサックに入れると、ステータスに箱庭のリュックサック残り10日と出た。10日過ぎて魔石の補給をしていないと、中に入れた物が全部外に出てきてしまうそうだ。
ウィートを捕まえて入れと念じるとウィートの姿が消える。どうやらうまくいったようだ。
その作業を10回ほど繰り返した後に自分も入ってみた。中は中心に湖と湿地があり、その外側に草原が広がっているようだ。モンスターもいないしノワールの遊び場にも良さそうだ。
「そういえば箱庭の中でなんでモンスターが生きていられるんです?」
外に出てアルベルトさんに聞いてみた。
「魔力が供給されていれば、草を刈ってもすぐ生えるし、木を切ってもすぐ生える。土や土の養分や水なども同じだ。原理はわからんがそういう物なんだと思っておきなさい」
「そういう物ですか?」
「気にしない方がいい。魔道具にはよくわからん物が多いからな」
なんか釈然としないけど仕方ない。
「寄り道してすみませんでした。そろそろ行きましょう」
「ああ、行こう。湿原を通り抜けるのは危険だから遠回りするぞ」
湿原から森の方に戻り、森に沿って反対側へ向かった。今度はどうやら歩いて行くようだ。
途中でアルベルトさんに俺が元いた世界の事を聞かれたので答えた。
特にモンスターがいない事や魔石を使わない機械の事に驚いていた。
「そういえば、お前は人間を殺したことがあるか?」
「あるわけないでしょ!住んでた国は平和だったし。あなたはどうなんですか?」
「盗賊、奴隷商人、暗殺者、数えきれないほど殺した。好きで殺したわけではないがな」
「本当ですか?」
「本当だ。この世界で生きるならそういうことも覚悟しておけよ。少しの油断や躊躇いが命取りになることがある」
「そうですか……わかりました」
理解したつもりだけど、その状況になってみないとどうなるかなんてわからない。
あっ!そういえば聞き忘れていることがあった。
「町に着いてからの事ですが、身分証とか持ってないんですけど町に入れてもらえるんでしょうか?ノワールもいるし」
「通行税を払えば町には入れる。ノワールのことを聞かれた時はブラックウルフではなくハイシャドーウルフとでも答えて置け」
「どういうことですか?」
「Aランクのブラックウルフを連れた旅人なんてもんは、この大陸にはおらん。ハイシャドーウルフならCランクだし、それなりに連れている奴らもいるからあまり目立たないだろ。まあ、こんなにでかいハイシャドーウルフなんぞ存在しないがユニークとでも言っとけばなんとかなるだろ。高ランクのモンスターを連れていると妬む奴もいる。お前自身がそういう奴らを軽く捻れるぐらい強くなれば、本当の事を言っても問題ないぞ」
なるほど。そういうこともあるのか。嫉妬って恐ろしいね。
「すぐにばれちゃうんじゃないですか?アルベルトさんはすぐにわかったみたいですし」
「ワシはブラックウルフと戦ったこともあるし、【アナライズ】があるから分かっただけだ。Aランクのモンスターを見たことがある奴はそうはいないからばれやしないさ」
「そうですか?でも【アナライズ】みたいなスキルを持っている人がいたらどうします?」
「その時は仕方ないだろ。なるべく早く強くなれ」
「そうですよね。努力します」
「それとこれを持ってけ」
封蝋が付いた手紙を渡された。
「これは?」
「エルクの冒険者ギルドのマスターへの紹介状みたいなものだ。もし困った事があったらそれを渡せ。少しは便宜を図ってくれるだろう」
「ありがとうございます。でもこれ渡したら【制約】に引っかかってやばいんじゃないですか?」
「ギルドマスターにもお前と同じ【制約】を受けてもらっている。同じ【制約】がかかった者同士なら罰は発動せんよ」
「同じ【制約】を強いられている人を見分けられるんですか?」
「ワシの知る限りでは、見分けることはできない」
そりゃそうだ。どんな【制約】がかかっているか簡単に分かったら【制約】の意味ないもんな。
「そうですよね」
「ギルドマスターはサイラスというハイクラスのエルフだ。間違って別の者に渡すなよ」
「ハイクラスのエロフですか」
「エルフだ」
「すみません、噛みました。サイラスさんてどんな人なんです?」
「冒険者としてもギルドマスターとしてもかなり優秀だ。面倒見も良いから冒険者から慕われているな。本来なら大国の王都でギルドマスターをやれる位の能力がある奴なんだが、事情があってこんな辺境の都市でギルドマスターをやってるんだ」
「そういう方なんですか。じゃあ何かあったら頼ってみますね」
「そうするといい。まあすぐに会うことになるだろうがな」
「そうならないように頑張ります」
「そういう意味じゃないんだが……頑張りなさい」
「はい!」
そんなことを話しているうちに湿地の反対側に着いた。
「ここから真北に真っ直ぐ行くと草原に出る。草原に出れば街道はすぐに見つかる。そしてその街道を西に行くとエルクの町がある」
「真北にどのくらいですか?」
「650キロ位だったか?さっき通って来た森よりもかなり濃密な森だから気をつけて行けよ」
650キロ!
さっきの森より濃密な森ってきつそうだな。ノワール通れるのかな?
「ノワール大丈夫?」
『問題ないです』
問題ないなら出発するか。
「アルベルトさん、ありがとうございました。この御恩はいつかお返しします」
「おーそうか。じゃあ困ってる二尾族がいたら助けてやってくれ。それでチャラだ」
おお、そのパターンか。迷い人を探すよりは出会う可能性が高そうではあるな。
「了解しました」
「せっかく援助してやったんだ。簡単に死ぬなよ。達者でな」
「はい。そちらもお元気で」