13話
13話
一夜明けた。
今日も日課の散歩と地獄の訓練をこなした。
ノワールと相談して、今日はノワール用の肉を狩りに行くことに。ノワールの食糧がある程度集まったら町に戻ってきて、少し俺の訓練をする予定だ。
ランクが高いモンスターの肉の方が美味しいらしいので、Dランク以上のモンスター狙う。
町や街道の周辺にはDランク以上のモンスターはほとんどいない。稀に出現するDランク以上のモンスターも放置すると危険なため、兵士が狩ってしまうそうだ。
この近くでDランク以上のモンスターと戦うなら、町の南の森に入って行くか、西の街道を通って魔境の近くに行くかだ。
Fランクの冒険者が魔境の近くに行くことは、普通はあまりないそうなので、今回は南の森の方に行くことにした。
森の奥に行けば行くほどランクの高いモンスターが多いって事なので、森の奥を目指す。
3時間位かけて森の奥まで来た。ここまで来る間にも、かなりの数のモンスターがいたようなんだけど、ノワールから見て弱すぎる、つまり美味しくなさそうってことでスルーした。
それにしても、この辺りの木の高さや太さが尋常じゃない。大きいモノで太さ10メートル以上、高さ100メートル位ありそうだ。
異世界初日に通って来た森と同じ森だと思うんだけど、植生が全然違う。
『見つけました!』
「食べられそうなモンスター?」
『どうでしょう?そこまで詳しくわかるわけではないので』
そういえばわかるのは大体の強さだけで、種類はわからないんだった。
『すぐそこにいます』
お、見えたぞ。見えたけど、たぶんあれ食えないだろ。
異常な大きさのカブトムシだ。木の上の方にいるから正確にはわからないけど、俺より二回り位大きそうだ。
アレは無視でいいんじゃないか?
「あれは食べられそうにないから、他のモンスターを探した方がいいんじゃない?」
ノワールから降りて、木を見上げながら聞いた。
『そっちじゃありません。少し離れていて下さい』
とノワールが言った瞬間に、前方に大きな穴ができた。
ノワールが【掘削】を使ったらしい。前に使った時よりもかなり広い範囲だ。
掘った土の塊が穴の横に現れ、その土の中からツノが生えた。
土が崩れるとノワールと同じ位の大きさで、鼻先からユニコーンのような角が生えたモグラが出てきた。
上じゃなくて下だったのか。地中も調べられるなんて【気配感知】は優秀だ。
ツノモグラはいきなり地上に出て困惑している様だ。
土の中ではないからなのか、かなり動きが鈍いように感じる。
ツノモグラに近付いたノワールは容赦なく攻撃をくわえる。爪で切り裂き、体当たりする。何度かの攻撃ののちにツノモグラは息絶えた。
『御主人、早く【解体】して下さい。次のゴハンが待っていますよ』
次のゴハンすか。俺なんか一撃で殺されてしまうかもしれないDランク以上のモンスターをゴハン扱いか。
「ちょっと待って」
【解体】を使うためにツノモグラに近付くと、細かい穴が無数に空いているのに気が付いた。どうやらノワールは【被毛操作】で逆立てた体毛を【身体硬化】で硬化して体当たりしていたらしい。自分がやられたらと思うと恐ろしい。
アイテムポーチに入れて確認したところ、このツノモグラはプラッドモールという名前だった。Cランク魔石を持っていたので、Cランクのモンスターということだろう。
このモンスターはツノもアイテムらしい。前にノワールが倒したナーゲルベアからはナーゲルベアの手等のアイテムを入手できた。ボア等の低ランクのモンスターに【解体】を使うと骨なんかは消えてしまうけど、ランクが高いモンスターは材料に出来る部位が多いのかもしれない。
ノワールはその後に、Cランクのレイジングオックスという巨大な水牛のようなモンスターとDランクのカペルというヤギのようなモンスターを3体狩った。
5体だけで2トン近い肉を入手できた。ノワールが1日に食べる肉の量は大体30キロ位なので約2ヶ月分の食糧だな。
「これだけあれば十分じゃない?」
『そうですか?じゃあ、そこにいるモンスターで最後にします』
「そこ?」
ノワールが見ている方向を見ると、巨大なボアに似たモンスターがいる。体に対して頭が異様にデカい変なボアだ。
何かを貪り食っているようで、こちらには見向きもしない。
『御主人はここで待っていて下さい。近くに弱いモンスターがいるようなので、油断しないようにして下さいね』
「了解」
ただ待っているのも退屈だったので、ノワールが言っていた弱いモンスターを探すことにした。
ここは森の中とはいっても、下草が生えているわけではないし、低木もほとんど生えていない。
昨日の草原よりは楽にモンスターを見つけられるだろう……なんて思ってたけど、どこにもそれらしいものはいない。
しばらく探していると怪しい物を発見した。
木の洞だ。俺の目線より少し下ぐらいの位置にある。
もしかしたらこの中に何かいるのかもしれないと思い、少し離れた所から中を覗き込んでみる。
中に30センチ位の人型で羽の生えた生き物が2体いた。
30センチで人型で羽?もしかして妖精?ノワールは弱いって言ってたし、これは捕まえてみるしかないでしょう!
妖精を捕まえるために足を踏み出そうとした時、洞の中から黒い矢が飛んできた。
まだ距離があったのでかろうじて矢を躱すことができた。続けて2本目、3本目が飛んできたので避け続ける。6本目の矢を避けると矢が飛んでこなくなった。
ゆっくり近づいてみるが矢は飛んでこない。もう打ち止めなのか?
一応用心しながら、洞の入口から両手を突っ込み、逃げようとする2体の妖精をしっかり掴んだ。
「よし!妖精、捕ったぞー……妖精?」
全身が黒でツノが2本生えてて、顔がゴブリン、背中には蝙蝠の翼が生えている妖精だ。
これは妖精なんだろうか?魔女の使い魔と言った方がしっくりくる。
『御主人、どうかしましたか?』
ノワールが変なボアを引きずってやってきたので、捕まえた2体をノワールに見せてみた。
「これって妖精なのかな?」
『ギルドの依頼書に書いてあったゴブリンではないですか?でも依頼書の絵には羽はなかったような?これなんでしょうね?』
そうなんだよ。ゴブリンに羽なんてないはずなんだよな。
こいつらいったいなんなんだ?
そんなことを話していると、突然ステータス欄が開いた。
[名前] ―
[性別] ♀
[種族] タイニーインプ
[モンスターランク] F
[所持スキル] 闇魔法
[魔法]ダークアロー ダークボム
[名前] ―
[性別] ♀
[種族] タイニーインプ
[モンスターランク] F
[所持スキル] 闇魔法
[魔法]ダークアロー ダークボム
これはいったいどういうことだろう?
【モンスターテイム】発動?
【モンスターテイム】の条件は、誰の力も借りず、モンスターを殺さずに屈服させることだった。条件はクリアしているのかもしれない。
別にこいつらを仲間にしたかったわけじゃない。観察したかっただけなのになんでこうなるんだ。
テイムするならドラゴンとかカッコイイのがよかった。
『【モンスターテイム】したんですか?』
「そうらしいね。なんでわかったの?」
『そう感じたとしか言いようがありませんね』
テイムモンスター同士で何らかのつながりが出来るのかね?
うーん、こいつらどうするかな?
さすがにテイムしたモンスターを倒す気にはならないから、連れて帰るしかないか。
魔法やスキルが使えるし、きっと何かで役に立つだろう。というか役に立ってもらわないと困るな。
『マスター、ハナセ』
『マークン、クルシイ』
どうやら会話できるらしい。ていうかマー君て……まあいいか。
解放しても問題なさそうだから2体とも放してやろう。
手を開くとインプ達は、ノワールの方に飛んで行き、ノワールにしがみつき毛の中に潜って行った。
ノワールを次の家にするつもりなのかと思ったら、ただ遊んでいるだけらしい。
ノワールが気にしないなら別にいいけど。
手が空いたので、変なボアを解体してアイテムポーチに入れた。
変なボアは、ディノヒウスというCランクのモンスターだった。
ディノヒウスも狩ったことだし、そろそろ帰ろうかね。
「じゃあ、帰ろうか?」
『そうですね。帰って御主人の訓練をしましょう』
「そだね」
『マークン、マッテ、ワスレモノシタ』
「忘れ物?」
『マスター、コッチダ』
そう言い残し、片方のインプが住んでいた洞に入って行った。
洞の中を覗いてみると、何だかわからないゴミの様な物が大量に入っていた。
「これ全部持って行くの?」
『ゼンブ』
正直ガラクタでアイテムポーチの残り枠を使うのは嫌。
「持って行く物は減らせないの?」
『ヘラセナイ』
あーそう。
『この木ごと持って帰ればいいんじゃないですか?』
木ごと持って帰るって、この木はこの辺では小さい部類に入るけど、直径3メートル位ある大木だぞ?
「切って運ぶってこと?」
『違います。箱庭の中に植え替えればいいんですよ』
「そんな事出来ないでしょ?」
生物を入れたり、植物を植えることは出来るみたいけど、どうやってこの大木を植え替えるんだよ?
『たぶん出来ます。まず他の木で試してみましょうか。まずは箱庭の中に行きます』
そういうと、ノワールは消えた。どうやら箱庭に入ったらしい。
インプ達を連れて後を追うと、湖から少し離れた地面を【掘削】で掘り返すノワールが見える。
大きな穴を2個掘ると姿が消えた。今度は外に出たらしい。
追いかけて外に出ようとした時、ノワールが掘った穴の1つに、突然大木が生えた。
なんだこれ!?どーなってる?
『スゲーナ』
『スゴイ、スゴイ』
インプ達も大興奮だ。
ノワールが戻ってきて、木が生えたのを確認して、また出て行った。
そのすぐ後に残りの穴にも木が生えた。インプ達が住んでいた木だ。
『成功ですね』
「どうやったの?」
『【掘削】で掘った土の移動先を、さっき掘った穴に指定しただけです。ちゃんと根付くかはわかりませんけどね』
なるほど。そういえば初日に【掘削】を使った時も土と一緒に木が移動してた。まさか箱庭の中に移動できるとは思わなかったよ。
この木が根付くのが確認できたら、果物とかがなる木を植えられる。
帰る道すがらステータスをチェックすると、レベルが37になっていた。
自分が戦っているわけではないから達成感は全くない。
それと、あらためてインプのステータスを確認した。名前の欄が空白だったので、名前をつけた。
インプ達は色がノワールと同じなので、ノワールの名前候補だったニュクスとクロハにした。俺の事をマスターと呼び、言葉遣いがちょっと荒い方がクロハで、もう片方がニュクスだ。
由来はクロハの方は黒羽色からで、ニュクスは夜の女神からだ。あまりにも中二病な名前だったので元の世界ではつけられませんでした。そもそもオスに名付けるには違和感のある名前だったし。
町の近くで戦闘訓練をした後に宿に戻った。
今日の戦闘訓練では、【フォース】を試してみた。
この魔法は光る球体を飛ばして攻撃するもので、意識すれば発射時にスピードや威力をある程度調節できた。
最大威力で放っても、ボアを倒すのに2回の【フォース】が必要だ。
装備の関係もあって、今は通常攻撃の方が威力があるようだ。レベルが上がれば魔法の威力も上がるだろうから、今後に期待といった所だ。
威力が上がっても当たらなければ意味がないから少しずつ訓練することにしよう。
ちなみにクロハ達が俺に使った矢は【ダークアロー】という魔法で、Gランクの魔法だ。クロハ達は、他にも【ダークボム】という範囲魔法を持っている。ただ魔力が足りないから【ダークボム】は使えないらしい。