キャッチボール
ものすごく久しぶりに投稿します。
感想お待ちしております。
「お前、体つきが大きくなってきたのか。」
「まあ、少しぐらいはね。野球の練習を毎日がんばってるから。」
グローブをはめた少年二人だけしかいなかった。辺りは少し暗くなり始め、時折聞こえるカラスの声が哀愁を漂わせていた。風がなびくと、木々たちは枝と枝をぶつけ合い、まるでチャンバラ遊びをしているようであった。
二人の少年はキャッチボールをしながら、互いの近況を報告し合うことが楽しみのひとつであった。
「それが、俺の父ちゃんときたら酔っぱらって家に帰ってきたと思ったらものすごく大きな声で歌い始めたんだよ。近所迷惑という言葉を知らないんだ、父ちゃんは。」
「酒というものは人をそんなにも気楽にさせてしまうのだろうか。すごいね酒って。」
「そうなんだよ。だけど母ちゃんが激怒しちゃって、父ちゃんは酒が飲めないようになってしまったよ。」
「自業自得ってもんだね。」
二人はキャッチボールをしながら会話をはずませていた。学校での出来事、友達との出来事、話は膨れ上がる一方であった。
「またお前とバッテリーを組みたいな。」
「そうだな。お前がピッチャーで俺がキャッチャーで。お前の球は速かったなあ。」
「褒めたところで何もあげないからな。昔が懐かしいよ本当に。そうだ、投げてもいいか。」
「無理言うなよ。絶対取れないからな。」
「お前はそこに座ってかまえるだけでいいから。」
「だから、絶対に取れない。無理に決まってる。」
「昔みたいな雰囲気だけでも味わいたいんだよ。」
そう言うと、少年が右腕を大きく振りかぶり、めいいっぱい力を込めて相手の少年の方へ投げ込んだ。
球はものすごいスピードで相手側に向かっていった。しかし、ドンと音が聞こえると、ボールは投げ込んだ少年のグローブの元に戻ってきてしまっていた。
「だから言ったじゃないか取れないって。君と僕との間には5メートルの壁があるんだ。キャッチボールはできたとしても、投げ込みはできないよ。」
2年前に国が2つに分断され、少年たちは5メートル越しのキャッチボールしかできなくなっていた。