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恋に障害はつきもので  作者: 菜々
第一章 隣の席には悪魔がいる
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02

よろしくお願いします

「桜咲いてないねぇ・・・・・・」

「うん・・・・・・」

のんびり、そんな形容詞が似合いすぎる声で啓が言った。返事をした私の声が、暗すぎることに気づいたのか、心配そうに見てくる啓。

「どうしたの?」

「どうしたのこうも・・・・・・」

私は時計を確認する。何度見ても7時55分、完璧に遅刻だった。

「少し急がない?」

「そういえば、さっきの子もすっごく急いでたよね」

すがるような目で言ってみるけど、啓から返ってきたのはまるで的はずれな返事。

「さっきの子って・・・・・・」

私はつい数分前のことを思い出して言う。

「あの目つきが悪かった子?」

「そう、それ。まったく、人にぶつかったのを、謝りもしないで行っちゃうんだからさ」

声に、若干怒りを滲ませて啓が言う。

「別に、そんなに強くぶつかってきたわけでもないし、啓がそこまで怒る必要もないよ」

それに、急ぐのが普通だと思うんだけどなぁ・・・・・・あの子、間に合ってればいいけど。

 桜の花びらひとつ落ちていない通学路を、ゆったりと歩きながら私は、もう仕方ない、そう開き直ることにした。




「あ、あった!」

私は、1ーBのクラスの名簿を指差して声を上げた。

「見つからないや……」

西園寺麗迦さいおんじ れいか、とはっきり印刷された文字を見て、それから自分の名前が無いのを確認して肩を落とす啓。

「クラス、バラバラになっちゃったね」

「うん。」

ほんとに悲しそうにうつむいている啓をみながら、私はどこかホッとしている自分がいることに気づいていた。


(最低だな、私。ごめんね……啓……)



 結局、大和啓介やまと けいすけの四文字を見つけたのは、1ーDの前。私と啓はそこで別れてそれぞれのクラスへと向かうことにした。

 時計を確認。とりあえず、入学式までには間に合ったみたい。これなら、新しいクラスメイト達からの印象も、そんなに悪くはないはず。

 扉の前で、深呼吸。呼吸を止めて、一気に扉をスライドさせる。


ガラッ。


 教室内の視線が、一斉に私を見たのが分かった。

 教室では最初のHRの真最中だった。教卓で話していた中年のおじさんが、私を見て一瞬驚いた顔をした後、あぁ、とでも言うかのように頷いた。

「君が西園寺さんだね。えっと……」

そのおじさん……担任の指示に従って、真ん中の列の後ろから3番目の席に着く。

 ゆっくりと周りを見渡してみると、目が合いそうになった人が次々に顔を背けていった。そして、その顔を通り過ぎると、また鋭い視線を背中に感じる。一人じゃない、少なくとも10人以上はいる。

 仕方ないか。私は気にしないことにして、担任の話に集中した。こういうことには、もう慣れきっているから。



「以上で説明を終わるが、何か質問はあるかー?」

私が聞き始めてから5分程度の短い話が終わり、担任が教室内を見渡した。


「楠木先生。」


前の方で、一人の男子生徒が手を挙げた。担任、もとい楠木先生が指名すると、その男子生徒はいきなり立ち上がり、ある一点を指差す。

「さっきのは、どういうことか説明して頂けますよね?」

眼鏡を押し上げながら言う男子生徒。典型的な優等生タイプみたい。

 普段なら、こういうのは無視するけど、今回はそうはいかなかった。

まっすぐに伸ばされた人差し指が、ぴたりと私の顔を指していたから。



「西園寺さん、といったかな。君は間違いなく遅れてきたはずだ。なのに、楠木先生は君を注意しなかった。これはどういうことなのか、僕は非常に気になって仕方がないのだが、みんなはどうだろうか?」

そこで一度言葉を切って、教室内を見渡す男子生徒。

 クラス内の生徒からは特に返事がなかったが、目が賛成だと告げている。

 私はそんなことを冷静に確認しながら密かに感心していた。高校生活初日に、ここまで出来る奴は本気ですごい。

「楠木先生、ご説明していただけますよね?」

眼鏡を押し上げながら、レンズの奥で鋭く光る目を先生に向けていう生徒。それに対して、先生は

「あぁ、それは、だな・・・・・・」

言いづらそうに口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返した後、助けを求めるかのように私を見つめてきた。

 その目を見つめながら、私は内心どうしようか、と焦っていた。

 別に、あのことがバレるのはいい。ただ、それで態度を変えられるのがどうしようもなく嫌だった。

こんな時は、どうしようもなく啓がいてほしいと思う。きっと、啓ならやんわりと周りをまとめて、興味を逸らしてくれるはずだから。

 先生が、どうしようもないことを悟ったのか、男子生徒に目を向けて口を開いた時だった。


「いいじゃねぇか、別に」


 その声は、私の真横から聞こえてきた。

 そいつはその言葉通り、心底どうでもよさげに頬杖をついていて、顔を窓の方に背けていた。

「そいつにだって、何か事情があるんだろ? 別に、俺は興味ねぇしな」

ぶっきらぼうで、乱暴な言葉遣いだったけど、それでも純粋にありがたかった。

「しかし・・・・・・」

それでも一歩も退こうとしない男子生徒が、また声を上げかけたとき


キーンコーン・・・・・・


澄んだ鐘の音が響き渡った。


『これより、新入生入学式を執り行います。生徒の皆さんは、体育館に移動してください。』


 その放送に、明らかに安心したように息をつき、先生が指示を出し始めた。

「・・・・・・」

男子生徒も、周りを見て状況を判断したのか、先生の指示に従って動き始めた。

 私は、さっき声を上げてくれた男子生徒を見て


「ありがとう。」

 

 そう、素直な気持ちを伝えた。

 私の言葉に、男子生徒が、ちら、とこっちを見る。その目つきの悪さに、見覚えがあった私は、

「あっ・・・・・・」

と、思わず声を上げた。

「君、今朝の・・・・・・」

その男子生徒は、あの時ぶつかってきた生徒だった。



ありがとうございました(*´∀`*)

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