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3.生徒会長の場合

生徒会長 真赭 真哉(マソホ シンヤ)視点です

 子供のころから、優秀だと言われていた。

 実際大して勉強しなくても良い成績は取れたし、身体を動かすの得意だった。見目も良かったから、ちやほやされて育った。

 大抵のことは思い通りになったし、挫折なんて感じたこともない。


 だから、(ユカリ)の言動には最初苛ついた。

 偉そうに俺に意見しやがって、と。



 俺が周囲を見下していることを、紫は指摘したんだ。


 当時俺はそれが当然だと思っていた。

 簡単なことも理解できずにわめき散らすガキを見下して何が悪い?

 のろまでぐずで、俺の半分以下の仕事しかできない。

 他の生徒会の連中のように、許容範囲の能力のやつなんて殆どいなかった。そんな馬鹿共の相手なんて、真剣に出来るわけが無い。


 だが、それが欠点だと言われた。

 何でも簡単にこなせる俺に、必死に努力して仕事をしている人を見下す資格なんてない、と。

 他の連中の努力や思いなんて、理解する必要があるとは思っていなかった俺に、まともな人間関係が築けるわけが無い。

 確かに俺には友と呼べる存在はいない。友と呼ぶに値する人間がいないから不要だと判断していたし、周囲も俺を特別な存在として見ていたから、友人になろうとする奴もいなかった。

 友を作らなかったのではなく、友達ができなかったんだと、気付かされた。


 そう、根気良く紫は俺に教えてくれたんだ。


 義務的に行っていた生徒会の仕事にも、意味があるのだと思えた。学校の生徒は一人ひとり生きている別の存在であり、馬鹿な連中の集まりではなかった。彼らの学校生活が良きものになるようするのが自分たちの仕事だった。

 彼らの言葉の意味を考えるようになって、自分が本当に無知で愚かだったと分かった。


 そんなふうに思えるようになった俺が、紫に対して特別な思いを抱いたのは当然だろう。

 自覚したときには既に、紫の周囲には他の男共が群がるになっていたのが不愉快だった。自分だけのものにしたいのに、紫は頷いてくれない。

 きちんと考えたいから、と言われたが、流石に期限が長すぎると不満を告げた。

 だってそうだろう、12/25なんて、かなり先だ。

 だけど、どんなに遅くても12/25までに返答する、という意味で、もっと早く決断できればその時点で答えると言われて仕方がなく了承した。


 早く俺を選んでもらえばいいだけだと、そう考えて。他の連中も同じことを思っているだろうが、紫は渡さない。俺の思いを分かってもらえれば、俺に決めてくれるはずだ。ガキの恋愛ごっこですますつもりはないし、これから同じ未来を歩んで行くのだから。







 違和感は、あった。






 他の連中が褒める紫と、俺の知っている紫が違う。

 勿論、人には色々な面があることは分かっているから、別の面に惹かれたということもあるだろう。

 だが、それにしても違いすぎやしないか?


 そんな疑問を何度も飲み込んでいた。指摘したら、今の関係がすべて壊れてしまいそうな気がしたからだ。紫を失う怖さに、俺は違和感に目をつぶった。




 そして、目を閉じていた結果が、これだ。






 まっすぐな眼差しは、俺を射抜くように見据えている。

 無造作に後ろで束ねられたぬばたまの髪。大抵の者が美人だと言うであろう整った顔立ち。優しげな容貌だというのに、受ける印象は硬質なものだ。

 糾弾していた筈の、彼女。雛月(ヒナヅキ)と俺の立場は完全に逆転していた。



 生徒の為の生徒会だと教えてくれた紫の、矛盾する言動。

 素直に信じることが出来なかったからこそ、紫を信じようとした。そんな俺を、雛月の言動は叩きのめした。


「それにそんな出来た女性だというのなら、何故お前に公私混同を唆すんだ。信じる信じないと、処罰に証拠が必要なのは別問題だろう」


 ああ、その通りだ。

 それに理事長の姪だという立場を振りかざしているというのが本当なら、処罰を行ったとしても俺達だってただではすまないだろう。

 そんなことが分からないはずがないのに、紫は俺達に公正な対処を求めなかった。権力をふりかざしていると雛月を非難したその口で、生徒会役員や教師としての力の行使を求めるおかしさ。


 それでも紫が泣くから。


 あの怯えた様子だけは本当だと思えたから。



 恐怖で冷静な判断が出来無くなっているのだと思い込もうとした。



 紫が俺に間違いを教えてくれたように、紫を大切に思うのならば、俺は同意するべきではなかったんだ。




 今なら分かる。

 俺は紫にすがり、しがみついていたんだ。


 俺の未熟さを教えてくれたように、これからもずっと至らない俺を支えてくれると思って。


 それは、恋じゃない。





 そして知った紫の真実は、ひどいものだった。

 こんな女に敬意を払っていたのかと思うと、己の情けなさに涙が出そうだ。


 人を見下すなと言いながら、俺達をゲームのキャラクターと認識していた。そこに俺達に対する敬意は、ない。

 紫の話の真偽は分からない。けれどその知識が俺達に当てはまったのは確かだったんだろう。

 だからこそ、俺達は紫に惹かれ、その愛を欲した。


「俺達を思い通りに動かして、楽しかったか?」

 紫は答えない。

 涙でゆがんだ顔は、ひどく醜悪だ。

 もう彼女を欲しいとは思えない。感じるのは怒りと侮蔑。そしてそんな女にころりとひっかかった自分に対する憤り。


 ああ、本当に雛月の言うとおりだ。

 俺はこんなにも未熟だ。


 雛月は未遂だからと俺達のことは水に流してくれた。


 普通であれば、そんなことはできない。濡れ衣を着せられ、一方的に糾弾され、処罰されそうになったのだから。器が違うというのはこのことだろう。

 どれだけ謝っても足りるとは思えないし、感謝してもしたりない。それでも、雛月はもういい、と許してくれた。


 ならばせめて、呆れ果てた眼差しで見られるような真似はすまい。今は無理でも、対等と思ってもらえる存在になりたい。叶うなら、友として認めて欲しい。




 俺は、新たな目標を心に誓った。

真赭 真哉(マソホ シンヤ)

 ゲーム:俺様生徒会長(ただし一人称は俺様ではない)自分の欠点を指摘し気付かせてくれた主人公を好きになる。互いに高めあっていける相手と認識して、一緒に努力をする。そのおかげで、彼のEDでは非常に高い評価を得た生徒会長と、それを支えた主人公として学園に語り継がれることになる。

 苗字のような赤い髪の毛が特徴。


 現実:欠点を指摘した水無月に惹かれる。逆ハーを狙う水無月の言動に矛盾があった為か、ゲームのように己を磨こうとはしなかった。結果、主人公に阿呆と言われてしまう残念なキャラに。

 俺様ではなくワンコだったことが判明、全力で主人公に懐くも、現時点では恋愛感情かどうかは微妙です。

 赤毛ではありません。黒見えるほど濃い赤褐色の髪です。流石にリアルでは普通の髪色なんだと主人公が思ったとか思わないとか。

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