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1.乙女ゲームの間違った始まり(前編)

乙女ゲーのヒロインに転生したら濡れ衣を着せられましたの連載版です。最初の二話はほぼ短編と同じですが、一部書き足してあります。

 異世界トリップやら転生するジャンルの中に、ゲームやら小説・漫画の世界に転生したりする話があるらしい。

 らしい、というのは私は読んだことがなかったからだ。

 そのジャンルにはまっていた友人が力説していたのを、聞いただけだ。

 もう少し詳しく聞いておけば良かったと思うが、もう遅い。



 何故なら、私は既に乙女ゲーの世界もしくは酷似する世界に転生しているのだから。

 しかも、ヒロインとして。






 幼い頃から、前世の記憶はあった。

 自分が死んだ要因はよく覚えていない。気がついたら幼い子供だったという感じだ。

 どう足掻いても現状が変わらない事に気づき、まあいいか、と諦めた。

 また子供からやり直しかと思うと面倒だが、前世と異なる環境だったので、それもまた面白いか、と思った所為もある。


 ああ、ちなみに前世の性別は今と同じで女だった。

 男ばかりの家庭に育って、言動も女らしいとは言いがたく育っただけ。

 ちなみにその記憶がある所為なのか、今生でも基本言動は変わらない。


 前と違って基本スペックが高いのか、前の知識+子供の記憶力のおかげなのか、勉強が得意になった。本を読んでも大抵すぐに理解でき、かつ覚えられるのだ。どんどん知識が増えるのが楽しくて勉強しまくった。

 運動もそこそこできた。簡単になんでもこなせるという程ではないが、やればやった分の結果はでた。

 自分の身体を思い通りに動かせる、というのは重要だと思う。

 親に初めてねだった習い事がピアノとか塾とかではなく、身体を鍛えることだったので、母親が少し悲しそうだった。

 両親は何故こう育ったかと不思議がっていた。一時期育て方に問題があったかと真剣に悩んでいたらしい。すまん。

 とはいえ、父親は可愛い娘に寄ってくる虫対策として、護身術を身に着けて損はないだろうと賛成してくれた。世界一可愛いと言ってくれるのは嬉しいが、私を可愛いと評してくれるの家族くらいなもだ。

 習い事は結局増えて、合気道とお茶とお花になった。礼儀作法とセンスを磨けるからと、合気道を習うのと引き換えに承諾させられたのだ。

 無駄のない動き、正しい姿勢というのが美しい所作に繋がる事が分かったのが、利点か。

 そう、複数の習い事を習える金銭的な余裕があるのだ。よくあるお金持ちのご令嬢とまではいかないが、裕福なほうだと思う。明日のお米の心配をしなくてすむ生活というのは、素晴らしい。


 まぁそんなこんなで、結構楽しんで生きてきた訳だが、こんな事態になるとは露ほども思っていなかった。

 諸事情で転校した高校を見て、ここが友人に無理矢理やらされた乙女ゲーの世界だと気付くまでは。



 前述の友人がはまっていたゲームで、無理矢理やらされた記憶はあるが、詳細を覚えるほどやりこまなかった。

 ゲームのタイトルを良く覚えていない事から推して知るべし。

 カラフルな髪や目の色、攻略対象の苗字に色が入っていること、主人公の名前くらいはなんとか覚えている。

 そもそも、乙女ゲーというものに私はそれほど興味がなかったのだ。やらされなければきっとプレイすることはなかっただろう。

「これで一般的な女の子の心情を少しでも勉強するべきよ!」

 そう言われて押し付けられたが、単に好きなゲームを広めて共通の話題にしたかっただけだろうと思われる。

 しかし、今生でもそうだが、私は世間一般的な乙女心というものが良く分からない。あのゲームをプレイしても結局あまり分からなかったし、感動したと皆が言っている恋愛小説の良さもほぼ理解できなかった。

 うじうじしている暇があったらとっとと行動すれば良いのに、と考える段階で違うのだろう。




 はっきり言おう。



 ミスキャストだ!




 あの主人公……デフォルトネーム、雛月 咲良(ヒナヅキ サクラ)-今の私の名前でもある-は、可愛くて健気でちょっと天然が入っている、お約束の性格をしていた。

 間違っても「咲良って男前だよね」と言われるようなキャラではない。

 ちょっといいなと思った異性に「雛月っていいよな。男心に男が惚れるってのは、こういうことかな」などと男友達認識されるようなキャラでは全く無いのだ。

 あの時は、流石に少し悲しかったけどな。



 そんな自分とはあまりにも違うその性格の為、学校を見るまで気がつかなかったのだ。

 妙に見覚えのある名前だな、くらいにしか思わなかった。



 しかし、そうなるとこのまま新しい学校での生活=乙女ゲーヒロインとしての生活になる筈だ。




 ……

 …………

 ………………



 よし、スルーしよう。




 ストーリーと違うと言われようとなんと言われようと、知ったことか。

 私がヒロインということが既に、ゲームとかけ離れているのだから。

 ミスキャストをやらかした輩に責任があるはずだ。


 幸い、イベントやら攻略キャラの詳細な情報なんて殆ど覚えていない。

 あえて避けることもしないが、積極的に関わることもしない。

 成り行き任せとも言えるが、まぁ、なるようになるだろう。

 願わくば平穏無事な学園生活が送れますように。






 そして始まった学校生活。

 攻略対象者と思しき連中は、どうやら別の女性とに夢中らしい。私と同じクラスの水無月 紫(ミナヅキ ユカリ)にまとわりついている。


 しかし、アレだな。

 リアル逆ハーレムというのを実際に見ると、あんなに痛いものだとは思わなかった。この世界も前世と同じく一夫一婦制だから、結婚できるのは一人だけだ。誰の子供だろうと自分の子供だと断言できるから女はいいかもしれないが、男からしてみるとどうなんだろう。自分の妻の子供が誰の子供かも分からないのに自分の子供として育てるのだから。そこまでの愛があり、本人たちが幸せならそれでいいのかもしれないが。世間の風当たりは強いと思うぞ。ご近所付き合いがまっとうに出来るとは思えん。公園デビューとやらも無事に出来るんだろうか。


 彼女たちがどんな将来を考えているのかはともかく、私には関係がなさそうだ。彼女のおかげで攻略キャラをスルーできるんだから、有難いと感謝しておこう。



 なんて考えていた私が甘かった。




 だが、私の甘さだけが悪いのでは無いと思いたい。普通、あんな理由で攻略対象者達に呼び出されるなんて、思わないだろう。

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