第08話 転入
「何でお前と俺が一緒に学校に行かなきゃいけないんだよ!」
「しょうがないでしょ。葛飾先生、怖いんだもん。」
朝。今日は、月曜日。ハルスが、初めて学校に行く日。二人は、登校道を歩いている。あいかわらず歩きながらの口論だ。
「とにかく、杖は家に置いてきただろうな。」
「そんなわけないでしょ。」
ハルスは、左の脇から杖を取り出し、治に誇示すると、しまった。しまうのを見ると、治は抗議を開始した。
「そんなものがあるとろくなことはないぞ!」
「根拠は?」
「ある。俺のクラスメートの小池正志は、一番怒っているみたいだぞ!ついて、お前がブスって言った大場馬子。魔法を使ったら、また変なことになるんだ!その時には俺も巻き込まれる!」
「嫌よ。あたしの事は、あたしで片付ける。あんたの事は、あんたで片付ける。それでいい?」
「だめだ!全部、俺の家に居候することになったお前の責任だ!」
それを聞くと、ハルスは、にこにこして、杖を治に向ける。
「あたしがこれから言うセリフは2つのとちらか。1つ目は、短い間だけと楽しかったよ。2つ目は、これから付き合おうね。とっちがいい?」
「・・・・・・。」
とっちもいやな治は、それをはっきり言った。
「とっちも嫌だ。」
「ふうん。エクプロション!」
ハルスが唱えると、治の足元のほうが小さく爆発し、治は転ぶ。
「何やってんだよ!」
「もう一回言おうか?」
ハルスは、そう言って治に迫る。治は、家の塀を背に、そこに座りこむ。ハルスは、再度ニコニコする。
「もう一回繰り返します。あたしがこれから言うセリフは2つのとちらか。1つ目は、短い間だけと楽しかったよ。2つ目は、これから付き合おうね。とっちがいい?」
「3つ目の選択肢で、さよならはない?」
「ない。」
ハルスが、きっぱり答える。ハルスは、杖を治に向け、再び呪文を唱える。
「エクプロション!」
治の後ろが爆発し、彼は慌てて立つ。
「と、とにかく、遅刻するから、ね、ね、ね、」
怯えた顔。怯えた声。しばらくの沈黙。治は、ハルスの腕を引っ張る。
「さあ、学校に行こう。」
怯えを含めた明るい声。
「その前に、この選択問題はまた終わっていないのよ。」
爆発の音が響く。
「結局遅刻じゃねえか!」
誰もいない校庭を見て、治が隣にいるハルスに怒鳴る。
「あんたの選択が遅いのよ!」
二人は、手をつないている。というか、ハルスが無理やりつないている。治は、「好き」と言うしかなかった。
「嘘だったらとうなるか分かってるよね?」
「ええい、遅刻だ!」
治は、ハルスの手を引っ張り、学校の校舎へ向かう。
「遅刻です。」
朝のHRが終わりかけの富岡先生が、二人にきっぱり言う。そして、続ける。
「転校早々、遅刻するとは、派手ですね。」
この言葉に、クラスメートのどよめき。多くの人が立ち上がる。
「ええっ!?」
「それ、マジっすか!?」
「困りますよ!」
「誰が入れるもんか!」
富岡先生は、言う。
「静粛に!この人が、これから君達の友達となる、零時ハルスだ。」
零時ハルスーーー結局、学校側が「苗字がないのはおかしい」と注文を付け、偽名を使うのは気が引けるが、とりあえず居候であるには関わらず、零時の苗字を付けた。
「零時治の妹だ。」
と、いうことになっている。
「おい、妹だったのかよ!」
小池正志が立ち上がり、治を指差して、怒鳴る。彼は、それだけ言うと、富沢先生に進言した。
「ハルスの杖は没収してください。」
「できません。」
富岡先生は、言った。
「臆病者!」
「先生に向かってその言葉は何ですか!とにかく、生徒の物を、理由もなく没収する事は出来ません。」
「でも、先週・・・」
「学生としてやったことではありません。従って、没収はできません。では、これでHRを終わります。零時ハルスは、零時治の席の隣が空いていますので、そこに座ってください。」
「はい。」
ハルスは、生返事を返すと、治の手を引っ張って、空いている2つの隣り合う机に向かう。
昼休み。給食の直後のこの休み時間は、長い。みんなが給食を食べ終えて片付けを済ませるのが、15分頃。5時間目が始まるのが、30分。15分間の休みは、他の5分間の休みと比べ、貴重なものである。
治の席に向かい、花尾武子が席に座っている治に話しかける。
「ちょっと、取り込み中よ。」
治と無理やり話していたハルスは、武子の顔を見て、きっとした顔で妨げる。
「ハルスは、先週、好きって言ったよね・・・。」
「ええ。」
ハルスは、めんとくさそうに答えた。それに対し、武子は、治のほうを向いて、つぶやく。
「好き。」
それぞれのグループで雑談をしていた生徒達の視線が、一気にこの3人に集中する。クラス一かわいいと噂されている(ことになっている)少女が、しがない少年に対して、傍若無人の如く、告白したのである。
「な、なんですって・・・。」
ハルスが、怒り顔で言う。
「あ、あたしの、ま、前で、そ、そのセリフを、ゆ、許さない・・・。」
「ち、ちょっと、ハルス・・・。」
ぶるぶるしているハルスを、治が止める。ハルスは、杖を取り出す。杖を武子に向ける。
「嘘だと言いなさい!」
「ち、ちょっと、ハルス、おちついて・・・、この人達、魔法使えないから。」
「・・・えっ!?」
ハルスは、驚いた顔で、杖を下げる。知らなかった。
「それ、本当?」
「だっから、この世界には魔法使いなんでいないんだよ!」
「・・・・・・。」
「お前の世界ではみんな使えるようだけと!ここではっきり言う!お前のやっている事は、たたの弱いものいじめだ!」
好きな人にこのようにはっきり言われ、ハルスは、杖を掴んだまま戸惑う。
「よわ・・・弱いものいじめ?」
ハルスが、つぶやく。
「お母さんが言ってた・・・弱いものいじめはいけないよって。」
「何で?」
治が、尋ねる。
「魔法の威力は、人によって違うわ。あたしは、その中の強いほうだから、よくお母さんから言われるの。」
「・・・・・・」
「今まて、やらないように頑張っていたんだけと、あたし・・・」
「・・・・・・知らなければそれでいいんだよ。」
治が、突如びっくりすることを喋りだした。
「要は、悪いことと知っていながらやったかどうかだよ。これからやらなければ、弱いものいじめじゃない。」
「・・・・・・うん。で、」
「嫌い。」
「また何も言ってないわよ!というか、朝、好きって言ったのは誰?」
ハルスは、杖で治の頬を突っつく。杖は、30センチくらいの長さだった。木でできているようで、表面がつるつるしているから多分漆を塗っているのだろう。
「弱いものいじめ!」
治は、とっさに一つの言葉が思い浮かんだ。それに対し、
「結局、それは言い訳でしょ。」
と、ハルスは反撃する。
「言い訳のために、もっともらしい事を喋る。これには、重い刑を付けないとねえ。」
ハルスは、もっともらしそうに言う。ハルスの、杖で治の頬を突く力が、強くなる。
「エクトリック ショック!」
治は、体中を強い電流が流れているのを感じた。すごくしびれる。痛い。助けて。彼は、その場を倒れ、うめきだした。
「ヴぎゃあああああああああっ!!」
暴れている。周囲の人たちは、強力な電流に感電してゆく治のうめきを、ぞくぞくとしながら見つめていた。
「濁点濁点」が、全てであります。
濁点の場所とか分かりません。
有志の方々が濁点を修正した物を出すかなあと、虚無の夢想を抱いております、中学生でごめんなさい。本当にごめんなさい。