第54話 過去
長谷川玲子は、毎日のように母から虐待を受けながらも、精一杯生きていった。
そして、玲子は小学5年生になった。小学5年生は小学生の高学年であり、様々なことを通して低学年を助ける、色々と多忙な学年である。
すでにこのころ、体にあざが目立っていたのだが、玲子の明るい顔を見て、誰もがまさか虐待されているのではないかと考える事はなかった。
そして、ついにあの日が来てしまった・・・。
「今日は音楽発表会ご苦労様でした。」
体育館に5年生の生徒達を集め、担任の先生は、普段着をしている生徒達を体育座りさせ、言った。
「ところで、今回皆さんを集めたのは他でもありません。あそこのピアノを、みなさんで協力して音楽室へ運んで頂きたいのです。」
先生が指差したは体育館の隅っこに鎮座なすっているピアノ。先生が号令をかけると、生徒達は立ち上がり、そのピアノのほうへ走り、囲む。先生とほとんどの生徒が、ピアノを持ち上げるのに動員された。玲子たち数人は、持ち場が足りなく外回りにそれを眺めていた。
「せ〜の〜」
「せ〜の〜」
「せーのー」
いろんな色のかけ声が聞こえてくる。そして、ついにピアノが持ち上がった・・・!
「ありゃ?」
数人の生徒達がバランスを崩し、ピアノは横のほうへ倒れ・・・
「うわあああっ!?」
ピアノは、上下逆さまになるという状態で、平べったい面が生徒達の方へ倒れようとしていた。生徒達の足は、ピアノの支点に取られ、動かない。
数人の生徒達は、死を覚悟し、目をつむった。
「フロート」
突然、この呪文が響く。と、数人の生徒達が目を開けると、ピアノは目の前にはなく、自らの頭上に遊弋していた。声がしたほうを向くと、一本の短い棒をピアノへさしている玲子の姿があった。
「長谷川さん・・・?」
一人の少女が玲子の方へ近づく。彼女の名は羽生かおる。
「ちょっと!これは手品なの?魔法なの?はっきりしなさいよ!」
彼女の剣幕に押され、玲子は小さな声でぼそっとつぶやく。
「魔法。」
「えっ!?」
彼女がそう言うや間に、後ろから一人の少年が口を挟む。
「魔法なんで空想科学の出来事じゃないか!ありえない!手品だろ!」
玲子は、黙ってそっぽを向く。
その日の出来事はそれで収拾したが、翌日に玲子が学校に登校し、自分のけた箱を開けると・・・。
「ぎゃっ!?」
なんと、自分のけた箱の中に、数匹のハツカネズミがいた。
「しっ、しっ、あっちいけ!」
玲子は鼠を外へ払いのけると、中の靴を取り出す。と、靴の下に敷いていただろう紙がひらりと舞い落ちる。玲子がそれを拾い見る。
「まほうでころせ」
教室に至っても同じだった。玲子の机上には、油性ペンで「まほうでころせ」と落書きされていた。その筆跡を、玲子は誰の物であるか把握していた。教室にいる人々、みんなが玲子を、いろいろな感情で見ているのに、玲子は気付いていた。気付いていたからこぞ、何も出来なかった。
玲子の肩を後ろから叩くものがいた。玲子は、それが誰か知っていた。クラス一のいじめっ子、森山材木。彼は、数人の手下を従え、ことあることに一人を焦点としていじめていくのであった。彼にはむかうと今度は自らが焦点となる。なので誰も文句を言う事は出来なかった。
「なあ、魔法使えるんだろ?」
授業の時、紙飛行機が舞うようになった。その内容は、玲子を退学させる署名活動であった。そこに自分の名前が刻まれていない事は、自分の学校生活が大きく変貌することを意味する。生徒達は、何も「書け」という表示もないのに、渋々それに署名するのだった。
昼休みになると、紙飛行機は、材木のところへ戻る。そして、教壇に立って、出席番号順に、署名していない人を読み上げる。署名していない人、それは一人だけ。
「長谷川玲子。しかも一人だけ反対と書いてありますな。帰れ。」
彼が言うと、周りのみんなも、「帰れ」の大合唱をするのだった。しゃべらない事は、自分の学校生活が大きく変貌することを意味する。
「帰れ、帰れ、魔法使いは帰れ。」
歌を教えている先生のように、材木は言った。みんなもそれに合わせ、「魔法使いは帰れ」を繰り返す。
玲子にとって、屈辱の日々が始まった。
一日で唯一の食、給食でさえも、言うまでもない。とりあえずそれほどひどいありざまであった。
このタイミングで、父は、玲子と母を和室に集め、離婚することを告げた。玲子の安堵と言ったら。それと共に、自分が魔法使いであることの憤り。この憤りは冷める事はなく、冷めるまもなく母は引っ越していった。
玲子は父と二人で、学校はともかく元の幸せな日々を過ごしていったが、ある日。玲子が学校に行っている間、玲子の家のチャイムが鳴った。
「何でしょう?」
と、父がドアを開けると、そこにいる青い服を着た人は、冷酷に言った。
「連続美女殺人及び死体に対しわいせつ的な行為を働いた容疑で逮捕します。」
「な・・・・・・!」
父の顔は、真っ青になっていた。丁度この頃、辺りでは、美女の死体が袋に入れられて放置されている事件が多発していた。そして、それらの膣から精子らしき成分が検出されたことから、わいせつ的な行為を働いたと警察は結論付け、精子をDNA鑑定した後父のDNAと一致したのであった。
「たたいま・・・。」
今日も玲子は暗い顔だった。
「玲子。」
玄関に立っていたのは、玲子のおじいさん、辺りでマナーじいさんとして名高い、長谷川健治であった。
「転校しよう。」
「えっ?」
突然健治からそう言われ、玲子は戸惑った。
「校長から電話があったよ。いじめられているってな。」
「うん・・・。」
「転校しよう。」
「・・・・・。」
「結局校区の関係で中学校は同じになるけれと、2年も経ったら忘れているさ、きっと。」
「うん・・・。」
それは老人の痴呆の問題だろう、と言う事もできず、玲子は黙ってうなずくしか術がなかった。
「で、お父さんは?」
「・・・・・・ちょっと出張でね。」
重そうなその顔を見て、玲子は質問する気がすっかりなくなっていた。
「突然ですが、今日、長谷川玲子さんは、他の小学校に転校しました。」
先生が教壇に立ち、生徒達の前で言う。生徒達は、みな真っ青になった。
「なぜそんなに真っ青になるのですか?」
しかし生徒達はその理由を言えない。ここでこっそり書くなら、理由は、次は自分がいじめの焦点になるかもしれないからである。
「困りましたね・・・。でも、入れ替わって転校生が来ました。どうぞ。」
先生がそう言うと、ドアが開き、着物を着た少女が入ってきた。
彼女はドアを閉めると一礼し、黒板の中央に立つと再度一礼し、言った。
「岡田檸檬です。よろしくお願いします。」
そう言う彼女の後ろで、先生は黒板に「岡田檸檬」と書いた。
「ある日ね・・・、おじいさんがいない間に昼御飯食べながらニューズを見て、お父さんが死刑になったことを知ったの。」
「・・・・・・。」
拝行館で、玲子は、重苦しい声で治に言う。
「それで、あたし、自殺しようとして・・・、それを止めてくれたのがあの3人だった・・・。」
「・・・・・・、新しい学校では?」
「いじめはなかった。それはそれでよかったんだけと・・・、でも・・・、あたしね、気付いたの。」
玲子は、下を向き、さっきよりさらに重い声で言った。
「あたしね、最近分かったの・・・。ここには・・・ここには・・・、」
と、玲子は懐中に手を伸ばす。その妙な空気に気付いた治は、玲子の方へかけだす。しかし、玲子はそれを察していたかのように、懐中からきらりとするもの・・・ナイフを取り出し、自らの首へ向ける。
「ここには、あたしの居場所なんで最初からなかったのよ〜〜〜っ!!」
あの・・・・・・
今まで、「第6部で終わる」とかふれてましたが、
第5部で終わるかもしれません。
はやく次回作を書きたくなったので
縮めるかもしれません。
みなさんこめんなさい。
・・・・・・というか、
正確にはネタ切れです^^;