第49話 逃亡
第5部がスタートしました。
第5部のサブタイトルは、「花鳥風月鬼伝説連続殺人事件の真犯人はハルス」です!!
どうぞ、期待しないでよまないでください。
よろしくお願いしますw
「えー、そういうことで、目撃者多数ということですね。」
夜はすっかり明けているが、時計は、まだ6時30分をさしている。坂本健雄刑事が、拝行館のロビーで、そこに集まった人々の前で話している。輪の中心には、ハルスがうつむいて立っている。
「は、はい、申し訳ございません、うちの客に殺されるなど・・・。」
旅館拝行館の店長、志藤可憐は、強く反省した声で言った。
「まあいいでしょう、もともと非はこの少女にありますので。」
坂本刑事が言うと、治が横から割り出している。
「そんな!ハルスは殺していません!」
しかし、刑事は、冷静に、やさしい口調で答える。
「ハルスが好きな君の気持ちも分かるよ。でも、ハルスが血のついた凶器を持っているのを、周りのみんなは見たんだよ。」
「・・・・・・」
「凶器を死体の前で持っている人は、ほぼ犯人に間違いない。」
「・・・そんなはずない!だって、ハルスは、」
「あのねえ、治。仮にハルスが犯人でないとしても、なんでハルスは凶器を持ったんだね?」
「・・・・・・」
「ふつう凶器を持っていたらその人が犯人、というのがこの世界の定義ではないか。凶器を持つという自殺行為そのものが矛盾している。」
「・・・・・・」
「もう言う事はないだろう。」
坂本刑事はそれだけ言うと、ハルスのほうを向き、手錠を取り出す。
「両手を貸しなさい。」
ハルスが黙って両手を差し出すと、坂本刑事はその両手首に手錠をかける。
「ハルス、殺人の現行犯で逮捕する。」
その言葉を聞き、治は抗議を再開する。
「現行犯って、殺した瞬間を誰も見ていないわけですよ!」
しかし、坂本刑事は、しばらく黙った後、隣にいる酒井望に尋ねる。酒井望は、小さい頃父が医者だったこともあり、医者の免許を無理やり取らされた人であり、父が亡くなってからはサラリーマンをやっている。
「氷室佳央子さんの死亡推定時刻は?」
「はい、5時から5時30分頃です。」
それを聞くと、坂本刑事は、改めて治に言う。
「治がハルスを発見した時刻は5時20分頃、その直前にハルスが氷室さんを殺害したという説明は、赤ちゃんでも言われる前から分かっている。」
「・・・・・・」
「なるほど・・・、疑っているな。それでは、志藤さん。」
「はい?」
「こちらに防犯カメラはありますか?」
「いいえ・・・、客室のみに設けております。」
「そうか・・・。」
的外れの答えを返され、坂本刑事は改めて治に言う。
「とにかくな、証拠過多のこの殺人は、われら警察にとって簡単な問題なのだよ、治。」
「・・・・・・」
治は下をうつむいて黙ったままである。坂本刑事は、傍らの警官に言う。
「さあ、帰るぞ。」
「ちょっと待ってください!」
「何だね?治。」
「はい・・・、ちょっとハルスと話をさせてください。」
「・・・・・・ちょっとだけだぞ。」
坂本刑事が返事をすると、治はすぐさまハルスのほうを向き、ハルスの両肩を掴んで言う。
「なあ、本当にお前が殺したのか?」
しかし、ハルスは黙ってうつむいたままである。
「・・・・・・」
治はしばらく考えた末、こっそりハルスの脇から杖を抜き、自分の体に隠し持つ。
「それはあ」
ハルスが言いかけるか、治はその口を塞ぐ。
「事情は後で説明するから。」
小声だった。ハルスは思わず何回もうなずく。
「それから、何で凶器を自らの意志で持ったんだよ?」
「・・・・・・それは・・・」
ハルスは、斜め下を見ている。治もそこを見ようとした瞬間・・・
「はい、やめ。」
後ろから坂本刑事の怒鳴り声が聞こえた。
「あまり長すぎたら、治も共犯にされるぞ。」
「は、はい・・・。」
治は気弱そうにうなずくと、ハルスからはなれる。ハルスは治の顔を見つめていた。と、警官により後ろから引っ張られる。
「さあ、パトカーに乗るんだ。」
坂本刑事の命令口調での声が響く。
警察関係の人々が全て行ってしまった後。
「さて、雛本さんと緒形さんは血をふきなさい。あたしは先に料理をするわね。」
志藤さんが言うと、二人はうなずく。志藤さんは客に対して頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました。ひとまず全て終わりましたので、これからもよろしくお願いします。」
「そんな気使い、いりませんよ。言われなくでも私は常連客ですので。」
酒井望が、優しい口調で彼女に答える。
「わしだって、毎月お参りしているのじゃよ。」
長谷川健治も、やさしい声で答える。その後ろでは、長谷川玲子が無口でこちらを見つめていた。
「そりゃそうですよ、行功寺はそこいらでは有名なお寺ですしな。」
香田征も、優しい口調で言う。その隣では、香田利佳子も立っていた。
客達は、確かに刑事からそれぞれの名前を聞かれ、迷惑なところはあったが、名前以外は何も問わなかったので、気楽さを感じていた。志藤さんは、笑顔になった顔を隠すように、下を向いたまま言う。
「それでは、おのおの客室に戻って結構です。」
拝行館の裏。そこからは行功寺が見れる。そこには、ひとつの人影が立っていた。
「ふん・・・たかか茶番劇がこれほどで終わるのは普通だろう・・・。」
その右手には、ナイフが握られていた。その左手には、1つの花束が握られていた。多分山のふもとの花屋で買ったものだろうか。
「ふふ・・・これが花鳥風月になぞらえた連続殺人であろうとは、誰も思うまい・・・まして、最初の殺人が何になぞらえたものなのか、誰にも知りようがないからな・・・。」
そう言い、影は、不敵な笑みを浮かべる。
零時治は檸檬と同じ部屋になった。檸檬が言う。
「ねえ、今日、一緒に帰りません?」
そう言い、檸檬が、あぐらをかいている治の隣に座り、治の肩に寄る。
「お、おい、」
治が顔を真っ赤にする。檸檬は続ける。
「あたしね、思い出したの。幼稚園の時に、一度別れたでしょ、将来結婚する約束で。」
「だから何だよ。」
「あたしね、幼稚園の頃から社長をやっていて、本社が引越しになって、それで別れたんだっけ・・・。」
「だから何だよ。」
「ねえ、一度別れたのにまだ会うなんで、運命的だと思わない?」
「思わない。」
「何でよ。」
そう言うと、治は真剣な顔をして、急に立ち上がる。
「何?」
檸檬が上を見上げている。治は、重い声で、思い切ったように言った。
「なあ・・・、振っていいか?」
「はい?」
「はっきり言うよ・・・、俺は檸檬が嫌いだ!」
「え・・・・・・。」
檸檬は、両手で顔を覆う。
「そんな・・・。」
しゃっくり。手と手の間から、涙が漏れていた。
「分かってくれ・・・。」
治は重い声で言った。
「じゃ、誰が好きなの。」
檸檬が嫉妬に満ちた声で言う。それに対し、治は即答した。
「ハルス。」
パトカーの中。パトカーは、今山を降りているところである。ハルスは、二人の警官に囲まれて座っていた。と、ハルスが言う。
「あ、あの、トイレに行ってよろしいでしょうか?」
「だめだ。」
傍らの警官が即答する。
「がまんできないの!」
「だめだ。」
「じゃ・・・、おもらししてあんたにぶっ掛けちゃうから。」
「ひ、ひぃ・・・。」
「今ここでしていい?」
ハルスのその発言に、運転していた坂本刑事も、びっくりしてパトカーは左右に揺れる。
「ああああああああっ!!」
坂本刑事が悲鳴を上げる。目の前には90度カーブがあった。坂本刑事は、大急ぎでハンドルを回す。同時にブレーキもさす。車は、カードレールの間際で、カードレールに平行になるようにして止まった。それと同時に、パトカーの左側のドアが遠心力の法則で開き、そこから警官一人とハルスが投げ出される。もう一人の警官は、右ドアにしがみついていて無事だった。助手席のドアも開いたが、坂本刑事はシートベルトをしていて無事だった。
「お、おのれ・・・。」
坂本刑事は、開いたドアの向こうを見つめ、悔しき声で言った。目の前には、カードレールをまたいて100メートル下で樹海が広がっていた。
第一の殺人、
そして、犯人の、読者に対しての宣戦布告・・・
これからどうなるのでしょうか!?
と言った時で、
久しぶりに恋の要素も出ています。
それから、ハルスが逃げてしまいましたね。
でもって樹海ですね・・・。
でも、植物がクッションになって助かるのがオチでして、
第2の殺人も、まさかハルスが・・・!?
まあ、第49話の描写を丁寧に読めば、
もうすでにハルスは真犯人ではないことが分かりますね。
では、真犯人は誰でしょうか。