第47話 暗示
部活の時間になった。
いつものように、体操服に着替え、テニスのラケットを持ち外に出たハルスと檸檬は、治を心配しあっていた。
「そんなことがあったの。」
「ええ・・・、治、今頃、」
「大丈夫・・・・!絶対!」
「本当・・・・・・・・?」
「本当!大丈夫だからっ!」
「死んだり、しない?治。」
「死ぬわけないし大丈夫!」
「練習しなさい!」
いきなり二人の前から怒鳴り声がする。いつのまにか二人はテニスコードに入り込んだらしく、しかもテニスコードのど真ん中でありテニスコードでは試合の最中らしかった。檸檬が後ろを確認する。
「玲子?」
そこには、玲子が立っていた。
「誰と試合?」
「見れば分かる。」
玲子が言い、檸檬が振り向くと、さっきの先輩。
「あんたのせいでボールを打ちそこなったのよ!」
「す、すみません!」
檸檬とハルスは頭を下げると、その場から急ぎ離れる。
「あの人2年生よ。」
「え、マジ?」
という先輩同士の話し声がする。檸檬が見ると、2年生、1年生も、試合の様子を黙々と見ている。夏休みから受験勉強で、事実上1学期が終わると同時に部活も終わりである3年生達も、素振りの練習を止めて野次馬に参加していた。檸檬がハルスに小さな声で言う。
「見よう。」
審判は、毎度のように玲子に点数を下していた。顧問の先生、時田先生が審判を担当していたが、その顔は怒っているようだった。
「まったく、大日本帝国の中に外国の文化を取り入れすぎるとは、徳川家康と卑弥呼が結婚した最大の理由だ・・・。」
とかぶつぶつ言っているのが、ハルスにも聞こえた。
玲子と対戦している3年生は、汗を流し、焦った顔をしている。玲子は、なにもない顔をして、夏にもかかわらず汗一つかいていなかった。玲子は、得意のスピンで、得点を連発していた。
「4ゲーム目、只今長谷川玲子4ゲーム連続勝利、長谷川玲子3ポイント、梅田利佳子0ポイント、次の1ポイントで長谷川玲子の勝利となります!」
時田先生が、枯れた声で今までの経過を読み上げる。檸檬が興奮した顔をしてテニスコードを見つめている。ハルスも思わず、言ってやった。
「玲子、がんばれーーー!!!」
テニスのルールを全く知らないハルスであったが、審判の親切な解説により、とりあえず次勝てば玲子の勝ち、ということは掴めていた。
しかし、玲子は、ハルスの自らへの応援を聞き、急にラケットを落とした。周辺は、一瞬にして気まずい雰囲気になった。
「続けます!」
時田先生が、二の前に試合、という風な声で言った。
「ラケットを拾いなさい。」
先輩が言う。玲子は、弱弱しくラケットを拾う。しかし、彼女のオーラは、さっきのものではなかった。心配そうに先輩は、それでもこれは罠だな、と思い、焦りもあり、さっきとまして強めにフラットをしてやった。しかし、玲子は、ラケットを動かすこともなく、塑像の如く立ちすくんでいた。
「どうしたの?」
先輩が心配して尋ねる。観客達も、心配した顔になった。それに対し、玲子は肩をかっくりおろし、小さな声で言った。
「負けました。」
意外な投了に、ざわめきが起こった。
「何よ、あと1つで勝てるし、あたしは今まで1つも取れていないでしょ!次もあんたが取れるはずでしょ!100%!なのに!」
先輩が怒鳴り声で、地面にはいくつばった玲子に対して言う。
「投了は投了です。」
時田先生が、冷粛に言った。周りは、一斉に静まる。
「納得できないわよ、こんな負け方!」
檸檬がコードに入り、玲子に怒鳴る。ハルスも、玲子の後ろについて言った。
「あたしが応援したらすぐに態度を変えちゃって!そんなにあたしのことが嫌いなの!」
ハルスが言うと、玲子はハルスにラケットを差し出す。
「なら、やってみなさいよ。目の前に屍があれば、武器を持ちなさい、武器を。」
「あたしにはできない!」
ハルスがそう言うと、玲子は立ち上がり、ハルスに怒鳴る。
「目の前に屍があるのなら、あんたが犯人を倒しなさい!」
「は、はい・・・。」
突然怒鳴られ、すっかり動転していたハルスは、ちらっと先輩の方を見る。
「目の前に屍があるのなら・・・、あたしが犯人を倒す!」
思わぬ宣戦布告であった。分かりきっている戦い。ハルスは、この前檸檬に負けたのである。時田先生がハルスに言う。
「もうちょっと練習してから出なおしなさい。」
檸檬とハルスは帰路についた。
「治、見つかるといいね。」
と言い、檸檬はハルスと分かれた。
「たたいま。」
ハルスが玄関で母に言う。
「あら、治は?」
「それがね、図書室で本を読むって。」
「まったく、しょうのない人ね。」
ハルスがごまかし、母もそれに合わせる。そして、ほっとしたハルスに対し、母は言う。
「嘘ね。」
「えっ、何で。」
驚くハルスに、母は一枚の手紙を差し出す。
「これを。」
ハルスがその手紙を眺める。
「治は預かった。明日の朝、家の前にバスが止まっているから、それに乗れば治を返して差し上げよう。 ヘファイストス。 だって。」
「どうする?」
母が心配そうに聞く。ハルスは、もちろん、という声で答えた。
「もちろん、行くわ!」
「大丈夫?」
「大丈夫!だって、あたしには魔法があるんだから。」
「あっ、すっかり忘れていた。」
母が笑いを交えた声でいうと、ハルスはその手紙を取り、2階へのぼる。
「下準備も済んだわ。」
闇で、ハデスは、エロスに対して言った。
「ヘファイストス、手紙は書いた?」
「はっ、書きまして、送り届けました。」
ヘファイストスが言うと、ハデスは冷酷な声で言う。
「エロス。五十嵐由美は殺した?」
「はっ、ハデス様。彼女はもう、天国で戯れております。」
「そう。ご苦労。明日はよろしくね。」
「は。」「は。」
ヘファイストス、エロスが返事をする。玲子は、さらに続ける。
「明日の事件は、あくまで3人に恨みがあるからじゃなく、あたしがリサ・ド・ブラウンを殺すため・・・。」
「とうとうこの日が来ましたね。」
その場に、ギダーを背中に負った男が歩いて来る。ハデスが言う。
「ホロム。」
「はっ、お呼びでございますか。」
そう言うなり、ハデスはホロムに杖を向ける。
「あなたは、今までのヤモリの計画を妨害しただけでなく、一般人酒井命と親交を結びました。」
「はい?」
「その行為は、ヤモリの信義に反します。よって死刑。」
「はい?」
平然としたそのホロムの態度に対し、ハデスは言う。
「最後にやりたい演説があれば、やりなさい。」
「は・・・?」
そう言い、ホロムは、背中のギダーを抜き、はじく。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色
盛者必衰の理を表す
驕れる者も久しからず
ただ春の夜の夢の如し
たけき者もついには滅びぬ
一重に風の前の塵に同じ
「ブロー」
玲子が、詩の独唱の終了を見て、唱える。たちまちホロムは強力な打撃により、その場に倒れる。玲子は、その真上に顔を出し、目がびくびく動いているのを確認すると、再度杖を向け唱える。
「ブロー」
「がは・・・・」
ホロムは血を吐き、そして死ぬ。玲子は、冷酷な声で言う。
「あなたの詩、面白かったわ。」
そして、後ろの二人を振り向き、言う。
「普通にしていれば、殺さない。理不尽な理由で殺すのは嫌だから。」
「は。」「は。」
二人は、恐怖を含んだ声で言った。
「遅いな・・・。」
外はもうすっかり真っ暗になっている。レストランで、向かいに空席を構え、酒井命は、自分の待っている友達がもう既に死んでいることもまさか考える事もなく、心配そうな声でつぶやいていた。
「せっかく新しい話題を持ってきたのに・・・。」
ついに明日、花鳥風月伝説殺人事件が始まるわけです。
ところで、ホロムが歌った歌で、賢い人はもうお気づきのことと思いますが、
ホロムは、ハルスを色々助けた人なんです。
乞食の振りをしていた人なんです。
衝撃でしたか?ヤモリがからんでいたこと。
そして、この小説は、第1話で早速ヤモリの影がちらついています。
玄関で倒れているハルスですね。はい。
さて、第4部も、ようやく次で終わります。
執筆が滞っていた時もありましたが、無事終了することが出来ました。
そして・・・、今回は、使い捨てキャラばかりにインターピューしてもばかばかしいので、
ヒロインハルスにします!
KMY:「では、最終話のシナリオを見て、どう思いましたか?」
ハルス:「うーん・・・あたしが幽霊ってところがいまいち・・・。」
KMY:「あ、それ以上言わないでください!」
ハルス:「あ、ごめんなさい。で、あたしは治を殺してしまうんですね。」
KMY:「おーのーそれが最終話のネタだから!」
ハルス:「ごめんなさい!で、治のセリフが素晴らしいわ・・・。」
KMY:「それ以上言わないでください!」
ハルス:「制限ばっかりなんですけと・・・。」
KMY:「あなたがネタばかり連発するからですよ。」
ハルス:「じゃ、最初からやらないでくださいよ!絶交!」
まだしも絶交されてしまいました。
そんなに僕は人気がないのでしょうか・・・。
みなさん、ハルスの気持ちを代弁して、
http://my.formman.com/form/pc/FAAqNvkpZs9T3UCC/
へ、アンケートお願いします。
「他の人が代弁するだろ」という軽い気持ちのせいで、
投票が全くないんです!はい!お願いします!
ところで、居候連載終了後の次回作、
もうすでに原案は浮かんでいるのですか。
「王子」
というタイトルにしたいのですが・・・、
・・・・・・・・・・・・
居候終わってからいうことですね^^;
第6部に入ってから、折に詳細を伝えます。
でわ。