第46話 拘束
給食を食べ終わり、昼休みになった。
ハルスは、一人トイレに行った。
さっき檸檬と仲直りしたからか、いつかの治の事はすっかり忘れてしまっていた。
高貴な仕草で手洗いを済ませ、無人のトイレから出んとした時・・・。
「待てよ。」
いきなり後ろから声がしてハルスが振り向くと、そこには・・・。治がいた。
「治!」
ハルスは、治にかけより抱きつく。途端に、妙な気配に気付く。ハルスが顔を上げ、治の顔を見る。
「何だよ、ハルス。」
治が言う。そのまま治は、強引にハルスの唇に自らのそれを押し付ける。ハルスが真っ赤になっていると、治はハルスを引っ張り、窓を開け、窓枠に片の足をのしげる。
「ちょっと!」
「何だよ。」
「そんなことしたら死んじゃうじゃないの。」
「大丈夫。俺を信じろ。」
そのまっすぐ自らを見つめた瞳に、ハルスは一時真っ赤になるが、改めて聞く。
「何でここから飛び降りなければいけないの。」
ハルスがこう言うと、後ろから紳士びた声がした。
「ふっふっふ・・・。」
驚きハルスが振り向くと、そこにはヘファイストスが立っていた。ヘファイストスは、続けた。
「そこにいる治は、治ではなく・・・。」
途端に、ハルスの体に、後ろからどろどろした物がまきつく。ハルスはそのままトイレの壁に縛り付けられる。
「罠!?」
「さようでございます。」
ヘファイストスがにやりと笑い、不敵そうに杖を振ると、ハルスの杖がふわっと脇から飛び出て、ヘファイストスのもう一つの開いた手に収まった。
「あなたは、魔法は使えません。それに、動くことも出来ませんね。」
ヘファイストスが、確認するように言う。
「放して!卑怯よ!」
ハルスが言うが、ヘファイストスは、平然と続ける。
「その液体は私の妖魔でございます。」
「はい?」
「その妖魔に1時間くらい漬けられると・・・、体もろとも溶けます。」
「何ですって?」
「では・・・。」
ヘファイストスは、不敵そうな笑みを浮かべ、そのままハルスの杖をぼいと放り投げる。杖は、妖魔に突き刺さる。
「あなたの杖も処理しなければいけませんね。」
「く・・・。」
ハルスが唸るも、ヘファイストスはそのまま杖を軽く振ると、消えてしまう。
「ちょっと待ちなさいよ!」
ハルスが呼び止めるも、もう無駄とは分かっていたのである。
「く・・・・・・。」
今は昼休み。中学校では1業時が50分。休み時間は10分。仮に昼休みが今仕方終わったと仮定すると、5時間目、6時間目、併せて2時間。誰かが来る掃除の時間は、6時間目が終わってからである。制限時間は1時間、1時間後までに誰かに見つけてもらわないと・・・、掃除なら確実に見つかるが、その時は絶対に溶けている。
「くぅぅぅぅぅっ・・・・。」
ハルスは苦渋の声を上げる。涙も落ちてきた。体中やわらかくなった感触をおぼえて―――・・。
「うまくいったか。」
闇。エロスがヘファイストスに尋ねる。
「ああ。」
自信ありけに、ヘファイストスは応える。エロスは続ける。
「そうか、今回お前が負けたら御自身で手を下す、とハデス様がおっしゃっていた。」
「ええ、それは本当か!?」
「ああ・・・、もしも今回お前が勝ったら、せっかくのハデス様の最初の御活躍が見れない・・・まあ、いいか。」
楽天的な顔をしてエロスは答える。
ヤモリが発足して以来、ヘファイストス、アレス、エロスは、それぞれなにかをしていたのだが、その頭領となるハデスは、何もしたことがなく、今までにしたのは命令のみであった。それがゆえに、自分は一番強いと自らを誇示(するつもりではなかったのだと思うか)しているハデスの勇躍を見ることが3人の願いであった。
と、ヘファイストスの携帯電話が鳴る。
「どう、リサは処分できた。」
ハデスの声であった。ヘファイストスは、少し気まずさを含んだ声で言った。
「はい、事はうまく運んでおります。」
「そう。でも、罠には罠があるのよ・・・。」
「はい、肝に銘じております。」
「そう、ならいいんだけと・・・。相手は、アレスを殺した強豪よ。流石にあなたはちょっと・・・。」
「なあに、大丈夫ですよ。私の妖魔で縛っております。1時間もあれば溶けて無くなるでしょう。」
「あのね・・・。今まで言おうかどうか迷っていたんだけれと、ヘファイストス・・・、あんたの妖魔は、体を溶かす妖魔ではなく―――・・」
その後のハデスの説明を聞いたヘファイストスの顔は真っ青であった。ハデスはさらに追い詰める。
「なんで今まで気が付かなかったの?失格。」
「はっ、ハデス様、申し訳ございません。とんだ失態で・・・。」
「もういい。エロスにまわして。」
「はっ。」
ヘファイストスが真っ青な顔で携帯電話をエロスに回す。
「エロスでございます、ハデス様。」
「例の準備は順調?」
「はっ、おかげさまで順調でございます。あとは、明日、ハデス様の優れた頭脳を以ちまして、事を運ぶのみであります。」
「そう。」
返事はそれだけ、電話は切れた。
「ああ・・・。」
頭を抱えて、ヘファイストスは真っ青な顔をしてうめいていた。
「俺としたことがぁ・・・。」
「しょうがないよ。」
エロスがそんなヘファイストスをなためる。
「友達だろ?」
「そっか・・・、ハデス様が御自殺なされようとした時に、私達は説得して・・・、」
「そして、ヤモリは始まった。」
「まあな。」
ヘファイストスはため息をつく。
「まさか、あの妖魔が・・・。」
そう、あの妖魔は、あの生き物は、ただ人を縛り付けるためだけのものであったのだ。
しかし、その縛り付ける力は強力で、ハルスは身動きできない。
なんだかんだで掃除の時間が始まる。
本来体を溶かさない妖魔と知った時には、もうすでに掃除が始まっていたのである。
ちなみに、ここ、トイレの当番は檸檬と玲子であった。
「何よ、ハルス、こんなところにいたのね。」
檸檬がハルスに声をかける。
「これ・・・、妖魔じゃないの。なんで縛られてんのよ。」
そう言いつつ、檸檬は杖を取り出し軽く振る。
「レリーズ」
途端に妖魔はほどけ、元気をなくしたように床に下りてゆく。しかしそれは液体であったがゆえに、排水溝の方へ流れてゆく。
「何やってんの。」
下に落ちたハルスの杖を拾いハルスに渡し、檸檬は言った。
「罠にかかっちゃって。」
「誰の罠?」
「ヘファイストス、っていう人の。」
「いう人の、って?あたしがヘファイストスを知らないとでも?」
「えっ、知っているの?」
「知っているも何も、ローマ神話に出てくる人の名前じゃないの。」
厳密(?)に言うと、ギリシャ神話である。
「ローマ神話に・・・ローマって何?」
「地名だと思って。」
「で、ローマ神話に出てくるの?その人と同じ名前?」
「ええ・・・、顔たちはひどく醜くで、それに・・・。」
そう言い、檸檬は一区切り置いて言う。
「ヘファイストスの妻アフロディテとアレスが内縁していたらしいのよ。」
「それで?」
「ローマ神話で一番偉い人は誰だと思う?」
「さあ・・・?」
「ゼウスよ。お父さんのクロノスを追い出して。」
「あ、それそれ。」
「そのお兄ちゃん、ハデスって言うの。冥界の神。」
「へー、それで?」
そのタイミングで、玲子が二人に割り込む。
「掃除よ、掃除!」
「あ、そういえば。」
すっかり夢中になって忘れていた。ハルスは檸檬の差し出した杖を掴みトイレから出る。檸檬と玲子は、掃除に没頭する。
ギリシャ神話の話が出てきました。
ところで、アンケートのことも忘れないでほしいのですが、
http://my.formman.com/form/pc/FAAqNvkpZs9T3UCC/
に、くださいな。
みなさんの率直な意見をお待ちしています。
恒例のインターピュー第2弾!
今回は、使い捨てキャラの一人、技術の先生、田中真吾先生にします!
KMY:「どうもはじめまして。」
田中先生:「ヲイ使い捨てキャラ?」
KMY:「はいそのとおりです。では、この小説全般について感想を・・・。」
田中先生:「出番出せ。」
KMY:「無理難題ですね。それは大阪冬の陣が終わった後の徳川家康の真似ですか?」
田中先生:「どこをどうしたら徳川家康が出て来るんだよ!絶交だ!」
・・・・・・インターピューの成果は、皆無に近いです^^;
ところで、治はいつハルスのもとに帰ってくるのでしょうか。
それは・・・・・・・・・・・
ハデスがある目的に使用した後、解放します。
そのある目的とは・・・!?
わくわくわくわくわくわく(おい作者がわくわくするな
というわけで、
今後執筆が滞る可能性大ですが、
なんとしても今年中には第4部を完結させたい考えであります。はい。