第44話 計画
その日の夜、ハルスと治は、治の部屋にいた。治は机の椅子に座っていて、ハルスはベットに座っており、それぞれお互いを見ていた。
「なあ、ヤモリってどんな組織?」
治がまず口を開いた。
「善に貢献するものを殺す組織、としか分かっていないんだけと。」
「檸檬と一緒に何をした?」
「えっ?」
「だから、俺に忘却術をかけてから。」
「あ、あれね。」
ハルスは、一区切りを置いて、厳粛な声で言った。
「あたし、檸檬とね、ヤモリを探っていたの。」
「うん。」
「でね・・・、本当はもう一人いたんだけれと、物陰に隠れている途中で真っ青になっちゃって、」
「えっ?それ、誰?」
「その人はね・・・。」
ハルスは立ち、治の椅子の方へより、しゃがみ、治の耳に何かを打つ。
「ええっ!?あの人が!?」
「うん。」
ハルスは、重い顔でうなずく。ほんの軽い気持ちで聞いただけに、治は気まずい空気を感じた。治は、話題を変えんと、いろいろ探ってみる。
「あのさ、ハルスのお母さんは死んだけれど、お父さんは?」
「お父さん?お父さんは・・・。」
ハルスは更に治の耳に打つ。
「えっ!?」
聞くんじゃなかったという驚きで、治は目を丸くした。
「それ、本当か!?」
「本当よ。」
「そんな・・・。」
治は、あきれた顔で、宙を仰ぐ。どうすれば話題を変えられるのか。
「そういえば、」
ハルスが口を開いた。
「あたしのお父さん、いい言葉ばかり言うと評判で、格言がぼんぼん出てくるの。」
「例えば?」
話題をようやく変えられたとほっとしつつ、治は尋ねた。
「朝がよければ昼を恐れろ。」
「えっ?それってどういう意味?」
「それはね、今楽しい事が続いていたら、いずれ悲しいことが続くだろう、って意味。」
「へー・・・。」
これとあれを関連付けられてはたまらない。まだあの重い雰囲気に戻ってしまう。
「で、ハルスのお父さん、変なことばかり言うんだね。」
焦りを含んだ声だった。しかし、それに対し、ハルスは目を丸くして答える。
「えっ?」
次の日の朝。ぼこぼこになっている治をハルスが上からつき落とす。階段の下の地面に頭を強打した治は、上を見上げる。
「ねえ、僕。」
にこにこして、ハルスは言った。治は黙ったまま、立ち上がる。
「ねえ、僕。朝ご飯作ってよ。」
「はひです。」
治がゆっくりと歩き出す。居間へついた治は、そのテーブルに母が座っているのを見つける。
「どうしたの、治!そんなにけかして!」
母が心配そうに立ち上がって尋ねるが、治はそれをはねのける。
「いいんだよ、そのうち治るし。」
「治るし、で済む問題?」
「でもさー・・・。」
そう言う治の後ろから、にこにこした顔でハルスが歩み寄っているのを確認した母は、それ以上言わなかった。
治は、ハルスの父を侮辱した罪で、こうなってしまったのである。
ハルスは、テーブルの上に朝食が置かれているのを確認すると、すでに座っている治の隣に座る。
朝ご飯を済ませて、玄関でハルスが靴を履いている。靴を履き終えた治は、ドアの前で待機している。母がハルスの傍らから言った。
「ねえ、いくら怒っているからってあれはやりすぎじゃないの。」
「あれといいますと?」
「だから、治をあんなに傷付けて、」
「当然の結果よ。」
ハルスはつんと言い放ち、立ち上がる。
「ねえ、許してあけて。」
母が背後から言う。しかし、ハルスは、母を振り向くと言った。
「あんたも僕?」
「まあ・・・。」
母の返答を聞くなり、治はハルスの体を引っ張り、ドアをばたんと閉め、家の敷地から出、学校へ走ってゆく。
「止まって!」
「だめだ!」
「止まって!」
「だめだ!」
「僕!」
ハルスがそう言うと、治は恐怖から止まった。
「何だよ!」
「あんたこぞ何なの!人をいきなり引っ張って!」
「だからさ、お母さん怒っているよ!」
「そんなの魔法で止めればいいじゃない。」
「あのなあ、魔法で何でもできるって訳じゃないんだぞ!」
「確かに人を生き返らせるのは無理だけと、感情を操るのは何でもないのよ。」
そう言い、ハルスは杖を治に向ける。
「ましてや、記憶を操るのも容赦ない事よ。あんたをあたしの僕にしましょうか?」
「ひぃ・・・。」
治は真っ青になる。
「そ、それだけは、か、かんべんしてくれまふぅ・・・。」
ハルスは平然と言った。
「それじゃ、行くわよ。」
そう言い、ハルスはそのまま歩いて行く。治も、その後ろから、歩いて行く。ふとハルスが言った。
「ねえ、あたしのかばん持って。」
「はい?」
「だから、あんた僕だから。」
そう言い、ハルスは自分のかばんを、歩き前を向いたまま後ろに放り投げる。それを治は受け取り、自分のかばんを持つ手で持つ。
「ねえ、」
ハルスが前を向き、歩いたまま言う。まだ圧政か・・・。治も、歩いたまま言う。
「はい?」
「ねえ、あたしのお父さんを侮辱した罪、これだけじゃ軽すぎると思わない?」
「思いません。」
「当然それは犯罪者の言い訳よね。」
ハルスはそう言い、肩の上に治の方へ向けた杖を乗せる。ハルスは、後ろを向かぬまま呪文を唱える。
「イクスプロージョン」
爆発が起こり、治は体こと後ろへ吹っ飛ばされる。
「あのなあ。」
立ち上がりながら、治は怒鳴る。ハルスは、後ろを振り向く。
「あたしのかばん返して。」
「はい?」
「これから、もっとすばらしいお仕置きがまっているから。」
「ひぃぃぅ・・・。」
治は、泣き泣きハルスにかばんを差し上げる。
「あっ。」
「ん?」
ハルスの気付いたような声に治が後ろを振り向く。そこには、黒いスーツを着たヘファイストスが立っていた。
「あ、あんた・・・。」
ハルスが杖を構える。ヘファイストスは、黙って治の体を自らの体へ押し付ける。
「人質です。」
しかし、ハルスは平然と言う。
「だれが人質?それ、ごみ。」
「おい!」
治がハルスに言うが、ヘファイストスはにやりとして言った。
「ごみならば私が代行して廃棄して差し上げます。」
「いいわ。」
ハルスはそう言うと、学校へ行く道を再び歩き出す。
「おい、ハルス!」
治が怒鳴るが、それもむなしく、治の体はヘファイストスに引っ張られていった。
「エロス。」
ハデスごと玲子が、歩きながら携帯電話で話しかける。
「はい、ハデス様。」
「例の事件の手続きは進んでいる?」
「はっ、進んでおります。」
「そう。ヘファイストスの次の戦いも、敗北は確実だから・・・、ヘファイストスが敗北次第行動に移るわ。」
「はい、ハデス様。」
「どう。首尾は。」
「はっ、手抜かりなく進んでおります。あとはハデス様の呪文により、完成いたします。」
「そう。厳密には呪文じゃないけれと・・・、あれでようやく凶暴な人物を殺せるわ。リサ・ド・ブラウンを。」
「は、ハデス様。花鳥風月鬼殺人事件の犯人を、あの人に仕立てるなど、ハデス様の優れた頭を以ってしか考えられないことでして、その頭脳には感服いたします。」
「そう。じゃ、早急にね。」
「はっ、ハデス様。ああ、それと、彼女についてですか・・・。」
「ああ、あの人ね。死。」
「はっ。」
電話が切れると、ハデスは前を向く。誰かに話しかけるように、つぶやく。
「これからクラスメートが二人、死ぬ。」
「ぐぐ・・・。」
さるぐつわをはかされた由美は、暗闇で胴体を縄にくるされ、座って前を見ていた。前には、一人の男・・・、エロスが立っていた。
「では、今から拷問を致します。」
黒きスーツをして、赤きネクタイをして、そしてエロスは平然とした声で、紳士の如く言った。
「うう・・・。」
エロスが由美のさるくつわを解く。
「帰して!」
スイッチの入ったように、由美は怒鳴りつける。
「いいえ。あなたは、ハデス様のいけにえになるのです・・・。」
エロスは、一区切り置いていった。
「あなたは、唯一、ヤモリに所属していない・・・、ハデス様の正体を知っている人なのです。正体を知られては、死。それがハデス様のお答えでした。」
久しぶりの投稿です。
三国志NET KMY Versionの改造に追われまして、
なかなか更新できませんでした。
僕が今まで書いた小説の中には、
全て殺人事件が挿入されました。
癖なんです。ミステリー好きで、SF小説も巻き添えにしてしまうほど好きなんです。
というわけで、第5部は、この殺人事件でいっぱいにします。
また、僕の書く小説での殺人事件の特徴はもう1つあります。
殺人事件を契機に、話が終末に向かうのです。
そして、ここがおもしろいのです。はい。
いままで途中で飽きて殺人事件は全部書ききれませんでしたが、
・・・・・・・・
居候の場合、なるべく避けたがったのですが、
殺人事件がないと終われない伏線があるんです。
うう・・・・。
我慢してください。ごめんなさいです。
衝撃の最終話は、第6部の予定でして、
本当は第12部までするつもりでしたが、
次回作の構造が浮かんでしまいまして、
こうなりますと次回作のことばかり考えて小説が進みません。
なので、早めに終わらせる事にしました。
本当の本当の最終話は、第72話の予定です!!!