第43話 初陣
「えっ?」
妙な悪寒を覚えたハルスは、治の肩に寄る。ヘファイストスは、立ち上がる。
「お座りになりませんと。」
何も知らない、ましてヤモリの存在など知るすべもない才本さんは、そういって注意しようとする。しかし、ヘファイストスは、一本の杖を取り出し、軽く振る。才本さんは、血を吐いて倒れた。観客達から悲鳴が漏れる。ヘファイストスは、観客らに怒鳴る。
「黙れ。お前達は人質だ。そして・・・。」
そして、ちらっとハルスを見る。
「この度は私の仲間を倒しましたね。」
ハルスは、怯えた表情で治の背中に入りこみ、治の左の肩と顔のあごの間からヘファイストスを見ている。治も、こわばった顔をしている。ヘファイストスは、容赦なくハルスに杖を向ける。
「その敵討ちをする事になりました。」
スタジオに立っている治とハルスとヘファイストス、ヘファイストスはまだ名乗っていないのに、彼の所属する組織を、ハルスは痛いほど分かっていた。ヤモリ。残る二人の科学者は、ぶるぶるして椅子の後ろに隠れて様子を見ている。ヘファイストスは、続ける。
「では、そこの治とかいう男の子・・・、ときなさい。」
「いやだ!」
即答だった。
「ほう・・・、いい度胸をしていますね。では、二人まとめて死ね。」
治とハルスの二人は、一歩後ろに下がる。
「何!?これ!」
治の母が、勤務先のスーパーマーケットの上司に嘆願して、自分の息子の映っているテレビを見ていた。治の家のテレビはハルスが爆発させて以来存在していない上に息子が出ている番組であり、上司も黙ってうなずいた。せっかくならばと、ちょうどこの時昼休みにあたり、勤労者のほとんどが事務室で、同僚の息子の出ているテレビを囲んで見ていた。前の人は座り、後ろの人は壁にもたれて立って見ている。
生放送なので、こういった事件をカットできず、全て放送している。もちろん撮影を停止すれば放送できないわけだが、カメラマンも、自分の命のことばかり考えるしかなく、カメラをいじることにも頭がいかなかった。適宣にコマーシャルなどを挿入したりカメラを切り替える制御室でも、そこにいる人々の全てが、事件の一部始終に興味を持ちモニターを見ており、放送を中止することを忘れている。全く人間、事件がおきるとどうしようもない生き物である。
上司が、母の肩に手をかける。
「零時さん。どうしようもないでしょう。」
「ああ・・・、うう・・・、」
顔を真っ青にして手で顔を覆い泣いている母の傍らで、同僚も心配そうに慰める。
「大丈夫、大丈夫だから。」
「絶対死なないよ。」
しかし、母は答えない。覆っている手を外し、テレビを見る。その目の周りは、涙で赤くなっている。
「ブロー」
ヘファイストスは、打撃呪文を繰り出す。これで終わらせるつもりだったらしく、二人は強く後ろの壁にぶつかる。
「がは・・・。」
ハルスが血を吐き治の肩にかかる。治はハルスの体がクッションとなりあまりタメージを受けなかったか・・・。
「ハルス!」
治がハルスの体を抱く。ハルスの目は虚ろになっているが、息を感じた治は、しかしハルスが死んだことを前提にして行動する。
「よ、よ、よくも俺のハルスを・・・。」
治は真っ赤になり、くったりしたハルスの体を持ち上げ、立ち、後ろを向く。一方、ハルスのほうも意識があるが、死んだふりをしていた。史記のあの話の如く。
「た、倒してやる!」
そう治は言うが、ヘファイストスは、平然といった。
「無駄に死んでも神様のためにはなりませんからね。」
「くく・・・。」
悪者に悪知恵を使われ、治は真っ赤になる。
「勝手にしろ!」
「わかりました。勝手にします。」
ヘファイストスはそう言うと、上に杖をかざす。
「ブロー」
治は一瞬ドキッとした。しかしそれは自分に向けられたものでなかったという事に気付く。目を開けると視界の右の隅っこに一本の杖がヘファイストスを向いているのが見えた。
「は・・・ハルス!?」
治が背中に抱いていたハルス。ハルスは、隙を狙いヘファイストスに攻撃を加えた。隙を狙われたヘファイストスは、あっけなく倒れ、起き上がると再度ハルスに杖を向ける。
「まったく・・・、油断も隙もありませんね。」
ハルスは治の背中からはなれ、治の前に立ち、ヘファイストスに杖を向ける。その顔はこわばっている。
「治、さかってて!」
「う、うん・・・。」
治は後ろに数歩さかる。その足音を確認すると、ハルスは呪文を唱える。
「イクスプロージョン」
途端にヘファイストスの足元から大きめの爆発がするが、爆煙が薄れてからその場に何の姿もない事にハルスが気付いた時は遅く、
「ブロー」
と、後ろから呪文がした。ハルスは背中をつかれ、血を吐きまだ倒れ、いくらか床を滑る。止まると、ハルスは立ち上がり、後ろを向く。
「ブロー」
後ろより。ハルスは再度倒れいくらか床をすべる。ハルスが立ち上がることに、背後から打撃の呪文が響くのだった。ハルスは何回か倒れ、そしてまだ倒された。
「な・・・なんであんなに速く廻れるの?」
ハルスはチラッと後ろを見る。まだいる。
「まだのようですな。」
平然とした顔で、ヘファイストスは、杖をこちらに向けて、ハルスが立ち上がるのを待っていた。その顔には余裕が見受けられる。
「なぜ・・・?」
ハルスは再度つぶやく。やっとのことで起き上がり、後ろから再度呪文が響く。
「ひっ!」
ハルスがしゃがむその刹那・・・、ハルスの体にぶつかったのは魔法ではなく治の体だった。
「えっ?」
ハルスは振り向き、治にいう。
「何で?」
「俺が時間稼ぎするからさ、」
「え・・・うん。」
治は、しゃがんでいるハルスに耳うちをする。ハルスは黙ってうなずく。
その最中、テニス部で、1年生と2年生は素振りをしていた。テストの後のこともあり、練習は激しかった。
「5分休憩!」
3年生の一人が言うと、1年生と2年生はみなかげに集まり、そこでお茶など飲んでいた。
「おおい、大変だ!」
一人の制服を着た男子が、テニスコードに入り込む。蛍崎惇であった。
「何!部外者は引っ込んでて!」
3年生が注意(?)するが、惇は、それを無視して1年生と2年生が集まっている大きなかげへ走ると、怒鳴る。
「治とハルスが殺される!」
「えっ!?」
真っ先に反応したのは檸檬であった。
「テレビ見ろよ!」
もうすでに「名探偵真実」放送終了の3時を超え、4時になっていたのだが、番組を切り替えるのも忘れてモニターに釘付けになっている誰かさんによって、今も放送されていた。厳密に言うと、モニターを見ているのは、そこで仕事をしている人だけではなく、「番組切り替えてくださいよ」の抗議に来た人々も含まれていた。全く人間、事件が起きると何も出来ない生き物である。
1年生と2年生は、全員立ち上がり、職員室へ走っていく。
「こら!部活はまだ終わっていないのよ!」
と、3年生も追っていく。そのしんがりに惇も走る。
「イクスプロージョン」
一方、スタジオの方では、治が自ら捨て身となりハルスへの打撃の攻撃を受け止め、その隙にハルスがヘファイストスに攻撃をしていた。その攻撃はほとんど当たり、今度は治とヘファイストスが血を吐いていた。治がふらっと倒れこむと、ハルスがその体をしゃがみ受け止める。
「治!やっぱりさかってて!」
それだけ言うと、ハルスはまだ立ち上がる。
「ブロー」
ヘファイストスの逆転呪文が始まる。つもりだったが・・・、
「ブロー」
ハルスも返り討ちをした。二つの打撃呪文により固まった空気が二人の真ん中でぶつかる。光を帯びたそれぞれの空気は、さらに強い光を包容し、スタジオ中に太陽の如く光を分ける。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・」
ヘファイストスが、苦渋に満ちた声を張り上げるが、問題は魔力の差であり、ハルスの魔法がヘファイストスの魔法を押し、二つ合わせてヘファイストスにぶつかる。
「が・・・は・・・・」
血を吐き倒れる。数秒してよろめき立ち上がるヘファイストスは、無理しているような声で言った。
「お見事・・・、しかし、これだけで私は引き下がるわけには参りませんよ。次は・・・、絶対に倒して差し上げます。」
そう言うと、杖を空中にかざし、ヘファイストスは消える。観客席からスタジオの様子を見守っていた観客達は、しばらく呆然としていたが、しきりに拍手が起こる。拍手は広がり、観客のほとんどがハルスに拍手を送った。ハルスの肩を後ろから、治が叩く。しかし、ハルスは、くったりした声で言った。
「逃げられた。」
「そんなことないよ。勝ち続ければ、いつか倒せる敵もいるよ。」
「そうだったらいいけと。」
その顔には、何か落ち着きがなかった。
モニター室からも拍手が起こる。
職員室からも拍手が起こる。
そして、スーパーマーケットの事務室でも、昼休みが終わったことを忘れた人々が拍手をした。母も涙を流す。店の方は、客がたくさん、いらいらした顔でレジの前で並んでいた。
実は、僕、今まで小説を書いていて、
格闘シーンを書くのは初めてです。
しかも魔法と来ます。
表現があいまいな所もあり、分かりにくいと思いますので、
その邪心を捨てないて貯めておいて下さい。
この「居候」を忌み嫌う心を、捨てないでください。
そのまま、苦情に変換して、
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へ投票だーーーーーー!!!
たくさんの苦情お待ちしています。
ヘファイストスに勝ったハルス。
第4部、ハルスと檸檬の恋争いにするつもりでしたが、
内容を変更しときます。はい。
恋は、ヤモリが滅んでから本格始動させます。
ということで、まずはヤモリです。はい。
そーいえば、あと3話で第4部終わりですねw