第41話 放送
「では、今から修学旅行の説明をします。」
崎森先生が、中学3年生の教室で、生徒達に言う。
「では、修学旅行は、何月何日にありますか?」
多くの生徒達が手を挙げると、崎森先生は、一人の子を指名した。
「梅田利佳子さん。」
「はい、今年の10月31日と11月1日と2日の3日間となります。」
「そのおとといに何があるか知っていますか。最上才人さん。」
「はい、10月29日に体育大会があります。」
「そのとおりです。では、運動会から1日またいて、疲れているとは思いますが、気を引き締めましょう。では、今年は、諸理由があって、特別に・・・。」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
3年生の教室からこんな、あまりにも大きい声が響き、学校は校舎こと揺れた。
「な、」「な、」「何ですか!」
校門の前では、たくさんの近所の人が集まり、心配そうに校舎を見上げている。そして、そのほとんどが児童玄関に突入した。こんな時に限って2年1組の教室では、無知主義者の理科の関口疾風先生が教えていた。生徒達は、各々の欲望を抑え、授業に集中した。
理科の授業が終わると、生徒達は全員教室から出た。廊下は混み合っている。なぜか近所の人が多い。
「こらこら、お年寄りには道を譲れ!」
とか言うマナーじいさんもいる。
「母さん!?」「おかん!?」とかいう声も、生徒の中から漏れる。
「お母さん?」
治が彼の母に言うと、治の母は言った。
「見て分からないの!3年生の教室から、」
「だからそれは俺も知ってんだよ!」
人ごみの中には、1年生、2年2組の生徒達も混じっていた。お互い押し合っている人々はどれも苦しそうで、ついに2年1組の教室にも漏れてきた。
「本日は晴天なり。3年生の教室から出た大きな声につきましては、今日中にプリントをまとめて全校生徒達に配布しますので、今のうちはとりあえずお帰りください。」
という校舎放送が響いても、混雑はやまない。
「君、あの時の女の子?」
突然、ハルスは、教室に漏れてきた一般人に話しかけられた。
「はい?」
「やっぱりそうなんだね。爆発させたの?」
「えっ?」
「だから、マナーじいさんの前で、」
「あれですか、あたしです。」
ハルスと一般人の会話が、一連の騒動を隔てた空間の中で進められた。治も、騒動の渦中に巻き込まれ、気付いていない。
「ってことは・・・。」
男は、一枚の名刺を取り出し、ハルスに突き出す。
「私は読買放送の、才本貴雄と申します。」
「はい?」
「ぜひとも、『迷探偵真実』という番組に出ていただきたく・・・。」
「はい?」
「親と相談の上、この名刺に書いている電話番号まで連絡していただきたく・・・。」
「はい?迷探偵真実って?」
「いろいろな摩訶不思議なことを取り上げ、それを科学的に考察する番組でございます。」
「はい?」
「じゃ、絶対OKをくださいね。」
「わかり・・・ました?」
「じゃ、絶対OKね。絶対、ここの電話番号にOKをくださいな。相談して。」
「わかりました。」
男が「相談して。」と言ったのが、緊張の余り、ハルスには聞こえなかった。
「あっ!」
騒動の渦中にいた治が、ハルスが男と話しているのを見て、人ごみから抜け出し、二人のところへ行き、ハルスと話していた男に怒鳴る。
「ハルスに何をするんですか!」
「いや、これのね。」
そう言い、才本貴雄は、彼の名刺を治に見せる。治は、その名刺を受け取って見る。
「こ、これは・・・だめです!」
「なんで!」
治が怒鳴ると、ハルスが問いかけた。
「いいから、ここではハルスの常識は通しないから俺の言う通りにしろ!」
「うっ、うん・・・。」
「才本さん!」
「はい?」
「ハルスを口説くなど、どういうことですか!」
「マスコミとして、特ダネを集めているのです。」
「いくら特ダネとはいえ、これはあまりにも人のことを考えていないじゃないですか!」
「いいえ、現に本人もいいと言いましたし。ね?」
貴雄が、ハルスに話しかけるように言うと、ハルスも思わず頷いた。
「ですね?」
貴雄が再び治の方を向くと、そこには誰もいなかった。
「さっきの発言を撤回しろ!」
「何も言っていないじゃないの!」
治は、ハルスの襟を掴み、口論をしていた。治は、振り向くと、貴雄を指差して大声で言った。
「んたく、絶対に行かせないからな!」
給食の時間が終わってからも、騒動は終わらない。依然として、廊下にはたくさんの人が集まっている。
将棋倒れの心配はあったが、何事もなく放課後までには皆散っていった。
「うまくいったか。」
ハデスが自宅の電話で、アジトに話している。
「はっ。」
「そう。ヘファイストス、君の活躍には期待しているわ。」
「はっ。」
「して、計画は?」
「それは、リサめを読買放送局へ連れて行き・・・。」
ヘファイストスが闇で、計画の全てを打ち上げると、ハデスも言った。
「それはいいわね。ヘファイストス。しっかりやっていきなさい。」
その声は、期待に満ちた声ではなく、冷たい、黒い声であった。
「何でだよ、母さん!」
「いいじゃないの!本人がいいって言っているから!」
母がチラッとハルスを見ると、ハルスも思わず頷いてしまう。ここは治の家の晩御飯の食卓。晩御飯を食べ終わりこちそうさまを言い食器を片付け、治が母に話題を持ちかけたのである。
「だからなー。」
治は、母に働きかけるのは無駄だと悟った。治は、苦渋の決断を迫られた。頭を抱え、重い声で言った。
「ハルス。」
「何?」
「あまり、でしゃばるなよ。」
「うん。」
ハルスがそう言うが、治は安心できない。頭を抱えたまま、一人で、居間から出ようとする。その片肩を、ハルスは両手で包む。
「何?」
「何でもない。」
ハルスがそう答えると、治は黙ってその場から出ていこうとする。
「ねえ。」
「何?」
「てれびって何?」
「それはね・・・。」
説明すると長くなる。現に、ハルスは、てれびを爆発させている。(第2話)今ざら説明しても、爆発したあの箱が未知の世界への扉だという事は、治には説明する自信はなかった。
「・・・死語。」
「死語?」
「だからさー。」
治は、それだけ言うと、階段を登る。ハルスは、死語と聞いた後一動もせずに、その場に立ちすくんでいた。
木曜日。学校に特別の許可をもらい、治とハルスは、読買放送局へ行く事になった。母は、スーパーで働いており、(第5話)今日も出勤であるため同行していない。
「なんでそんなに暗いの?」
放送局の入り口前で、手をつないているハルスは、治に話しかける。
「何でもない。」
悩みを持った濁った顔の治は、濁った声で返す。
「様子がおかしいわよ?」
「何でもない。」
「やあ、君、やっぱり来たね!」
放送局に入り、受付前で、治とハルスは、こう話しかけられた。声の主は、才本貴雄であった。
「才本さん。」
治が言う。
「何ですか?」
「あまり、ハルスにでしゃばった真似をさせないでください。」
「何でなの!」
ハルスが治に怒鳴りかけるが、治が真面目な顔をしているのを見ると、ハルスは思わず手を引っ込める。貴雄は、しばらく考えてから言った。
「いいでしょう。」
「ありがとうございます。」
そう言う治の声と顔は、少しは晴れていたのだが、濁っていることには変わりなかった。
いよいよハルスがテレビデビューします。
そもそもテレビとは何か知らないハルスに、
果たしてゲストはつとまるのでしょうか?
あと、ヘファイストスのある計画とは!?
第42話から、わくわくしない話が展開します!
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大不評なんです。はい。