第40話 火事
ハルスは、未だに葛飾先生を恐れ、治の背中に隠れている。治の隣で歩いている檸檬は、ハルスに負けしと治の腕を掴む。治の隣で歩いている葛飾先生は、そんな二人をあきれた顔で見た。
「テスト、自信あるか。」
葛飾先生が聞くと、治は答えた。
「ぼちぼち・・・。」
「そうか。」
葛飾先生が笑い出すと、治も無理に笑う。
「あ、久しぶり〜。」
後ろから声がする。4人が後ろを振り返ると、そこでここへ手を振っていた少女、赤木杏が立っていた。杏は治に近づくと、明るい声で治に言う。
「こんにちは。」
それから、杏は、治の手を掴み取り、手のひらを見た。ハルスがさっと杏の後ろに回り、股間を蹴る。しかし、杏は、たじろぎもせずに、治の手のひらをしっくり見つめる。
「一目ぼれするほうだけと、浮気はしないのね。」
杏がそう言うと、ハルスは、しっかりと治の両手を掴んで、治を見上げるように言った。
「ね、ね?」
「何の期待だよ。」
「ね、ね?」
檸檬も負けしと、治の首筋に、傍若無人の如く唇を押し付ける。治の顔が真っ赤になった頃、ハルスはぎりりと治の両手を歯でかむ。
「痛っ!」
治が両手を引っ張るが、ハルスは離さない。そうしているうちに、檸檬は自分の頬を治の頬に押し付ける。
「やめなさい、恥ずかしいぞ。」
葛飾先生のこのお言葉があるまで、二人は喧嘩をやめなかった。
「ひどい目にあったよ。」
「あんたがわるいじゃないの。」
治の部屋。散歩を中断し机の椅子に座っている治とベットに座りこんだハルスは、機嫌悪そうにお互いに言う。
「そもそもなんでお前と俺が会うんだよ!」
「運命じゃないの。」
「運命?はあ?俺の家の前で倒れていたのが運命?」
「結婚じゃなくで喧嘩する運命よ。」
ハルスが愚痴をこぼすが、治ははっとした顔で、ハルスに言う。
「おい、そういえば、なんで俺の家の前で倒れていたんだよ。」(第1話)
「今はそんな話を、」
「知りたい。教えて。」
治がそう言うが、ハルスは続ける。
「じゃ、あたしの事好きって言うなら。」
「好きだから教えて。」
治がそう言うと、ハルスは黙って杖を振る。治の体は勝手に、机の前の窓を開け、2階から庭へ落ちんとする。
「ぐぐぐ・・・。」
なんとか窓枠を掴み、間際で抗う治に対し、ハルスはベットから立ち上がり、治の方へ歩みよると、言う。
「嘘ね。」
「本当だよ!」
「嘘ね。」
「だから、本当だよ!」
「人間って、欲が深いのね。なにか目当てに、自分の望む結果が待ち受けているのなら、喜んで何でもするのね。」
「ハルスも人間だろうか!」
「あたしは人間。悪い?」
「悪くない!だから・・・。」
治がそこまで言いかけると、ハルスはめんどくさそうに杖を振る。治の体を動かしていた何かが解け、治は机の上を転がり、床に落下した。治は立ち上がると、ハルスを見る。
「なんで俺の家の前で倒れていたんだ?」
治がそう言うと、ハルスは、治の腕を引っ張り、ベットの方へ放り投げる。治は、ベットへどしんと座った。そんな治に、ハルスは飛びつく。
「お、おい・・・。」
治は顔を真っ赤にする。ハルスのあったかい体か、治を包む。
「離れろ!」
「離さない。」
ハルスのこの返事が、「話さない」に聞こえて、治は口をつぐんでしまった。
「ど、ど、どうしたら、話すんだよ・・・?」
治がそう言うが、ハルスは機嫌悪そうに答える。
「なんであたしの事好きなのにそんな事言うのよ!」
「だからさ、どうしたら話してくれるんだよ?」
治がそう言うと、ハルスは、治の頬をばしんとたたく。
「好きな女の子に離してほしい男の子っているの?」
「だからさ、俺はな、ただなんでハルスが俺の家の前で倒れていたのかを知りたいだけなんだよ!」
「・・・それでも知りたいの?」
「ああ!」
治が答えると、ハルスは、治を抱いた体を離し、治の隣に座ると、言った。
「あたしね、あの時ね・・・。」
ハルスが治に話した内容は、以下の通りであった。
ハルスは、家のベットで、くっすりと寝ていた。そろそろ夜が明けるか明けないか、という間際、途端に外が騒がしくなり、ハルスも目が覚めてしまった。目を開けると、その上で、ハルスの母が真っ青な顔をしてハルスに話しかけた。
「リサ!行く準備をして!今すぐ!」
理不尽な事を言われ、ハルスはとまどったが、すぐさま母の言う事に従い、着替え、杖を持って、母に連れられて外へ出た。
外のありざまはひどかった。あちこち至る所が燃えており、周りに炎以外のものはほとんど見当たらなかった。ハルスが家から出た瞬間、2階が燃えていたらしく、ハルスと母の背中で家は全壊した。ハルスが振り向くまもなく、母が引っ張り、ストリームの魔法で炎から道を開き、かろうしてその場を離れ、近くの丘へ行くことが出来た。向こうから赤い大きなものが小さく見える。丘には、たくさんの人々が集まっていた。
ハルスは、母が手を離したので、歩き出し、友達がいるかどうか探りはじめた。と、その瞬間、ハルスは、突然地面に開いた穴へ落ちた。穴の出口、即ち上から一人の男の子が顔を出した。いたずらっ子の男であった。
「出してよ〜〜〜。」
ハルスが騒ぐが、男の子は、舌を出した。その瞬間。上から何かがこける匂いがし、男の子も一瞬のうちに燃えつくされた。
「ああ、ああ・・・。」
ハルスは真っ青になり、穴を塞いでいる炎を魔法を以って消すと、穴から這い出た。周りの火を消しまくると、たくさんの真っ黒のものが倒れているのが見えた。赤い液体。
「ああ、ああ・・・。」
ハルスは、以前にも増して真っ青になり、前から足音が聞こえると、前を見上げる。そこには、一人の男が立っていた。
「だ、誰・・・。」
ハルスは、怯えた声でその男に向かって言った。男は、紳士らしく答える。
「私は、エロスと申すものでございます。」
「エロス?」
ハルスは立ち上がる。
「じゃ、火をつけたのは・・・。」
「そう、私でございます。」
「一体なんで?」
「それは、リサ・ド・ブラウン。あなたを始末するためでございます。」
「えっ・・・?」
ハルスは唸るが、エロスがこちらに杖を向けているのに気付くと、後ずさりを開始した。
「逃げても無駄ですよ。」
エロスが言う。ハルスは、耐え切れなくなったように、杖を空にかざし、言った。
「ワープ」
その呪文がいい終わるかどうかの部分で、エロスも呪文を繰り出す。ハルスの体はとっさに炎に包まれる。赤き炎に囲まれるが、ハルスは精神を杖に集中した。
やっとこの魔法が終了すると、ハルスは、体を包んでいた炎を魔法で消す。ハルスは前へ歩く。しかし、歩くごとに体中が響いてくる。
「く・・・・・・。」
やっとのことで壁をつたいながら歩くハルスは、ついに倒れた。
今年の2月、学年末テストの少し前のことであった。
切ない顔をして、治は頷いた。
「そうだったのか。」
「それでママ、死んじゃったの。」
ハルスは、斜めをうつむいて言う。
「そっか・・・。」
治はそう言い、ハルスの体を抱く。ハルスの頬が赤くなる。
「ハルスのママとパパがいなくでも・・・、俺がついている。水臭い真似はするなよ。」
「う、ん・・・・。」
ハルスも、手を治の胴体にやる。
夏の、半袖の制服をして、治とハルスは、朝から手をつなぎ、仲よく歩いていった。月曜日の朝、まだ8時過ぎと言うに、太陽はもう既に高く上がっており、暑かった。
しかし、二人の愛は、もっと熱かった。
第1話の謎・・・
即ち、最初の伏線が解けました。
最初の伏線が、ここまできて解けたんですよ。
40話・・・12000文字を経てですよ!
長い!長い!長くて死にそうです!
というわけでして、もっと苦情をください。
適当にあじらいますので、苦情を気が済むまでお送りください。