第38話 玲子
1時間目の国語のテストは、ハルスにとって三方か原の戦いであった。
文字とおり、ハルスは、国語の問題用紙と格闘して、見事敗北したのである。
「次は社会ね〜。」
自信たっぷりの顔をして、檸檬が横から声をさす。ハルスは、黙って治の頭を掴む。
「勉強も教えなさいよね!」
「その前に日本語読めないと意味がないだろ!」
「う・・・・・・。」
「例えばさ、鳳凰って言葉を知っていてもさ、いさ漢字で書けと言うと書けない人もいるし。」
「そう。」
ハルスは、気弱そうにそう言うと、席に座る。ハルスの前に座っている一人の男の子が、ハルスの方へ面を向ける。彼は、蛍崎惇であった。
「あ、あんた、なぜ・・・?」
ハルスが、惇を指差して、動揺した声でいった。
「あ、あのさ・・・。」
惇の顔は、ピンクに染まっている。
「こ、こ、この前は、ありがとう・・・。」
「とういたしまして。」
ハルスがぶっきらぼうに言うが、惇は続けた。
「そ、その・・・。」
「何よ。」
ハルスから冷たい言葉を浴びせられたが、惇は負けしといきなり立ち上がってハルスに大声で言った。
「付き合ってください!」
クラスメート達の視線が、一斉に二人に集まる。正志が立ち上がり、その場に着くと、ハルスの襟を掴む。
「何だよお前!」
「なんで!あたしは関係ないじゃないの!」
ハルスが反論するが、正志は一区切り付けて続ける。
「最近な、お前、注目されすぎるんだよ!」
「些細過ぎる!」
治が、二人の体を引き離す。ばかっと2つに割れた2つの頭は、しっと治を睨む。
「あんた、喧嘩の邪魔よ!」
「俺の話を聞かせろ!」
と、正志とハルスは、一斉に治に飛び掛る。
「やれやれ、漁夫の利だな・・・。」
冲本守人がぼそりと言う。理不尽な助言ばかりする人だけに、使い方を間違えている。しかし、さっき国語のテストが終わったばかりなので、誰もそれに突っ込む事は出来ず、自分の机上にある社会の教科書とノートに、黙々と打ち込むのみであった。
「はぁ〜・・・。」
下校の路、ハルスは、治の肩に頭を乗っけながら歩いている。そんなハルスの頭を、治がなでてやっている。
「あたし、勉強というものがこんなに難しいなんで知らなかった・・・。」
ハルスが、声を絞り出す。
「俺だって、難しかったよ。」
「そう・・・。」
ハルスは、そう声をかけられ、王子様の左腕に頬をすりすりさせる。二人がそうやっていちゃいちゃしている道中。
「隙あり、だな。」
一人の男性、アレスが、二つの背中を見つめていた。そして、取り出すは、杖。その杖の照準を、ハルスの背中に向ける。アレスが、一の字に結んでいた口を開けようとした刹那。
「こら!!!」
突然、檸檬が二人の背中に怒鳴る。二人は、びっくりして後ろを振り返る。同時にアレスも壁の影に身をかわす。
「ちっ・・・。」
前に暗殺者が隠れているとも知らず、ハルスは檸檬に怒鳴る。
「何よ!あたし、居候しているんだから!居候しているから、家主と仲よくないと追い出されるんでしょ!」
「それ、本気でいってるの?」
檸檬は、ハルスに寄り眼をする。
次の日は金曜日。1時間目、英語のテスト。2時間目、数学のテスト。3時間目、理科のテストである。金曜日の課程を終了させ、帰りのHRも終わると、玲子は黙って教室を出ていった。
「おい。」
廊下で、玲子は、後ろから誰かに声をかけられた。玲子は、静かに振り向く。そこには、前田渉が立っていた。
「何だ。」
玲子は、そう返すと、黙って顔の向きを前に戻す。
「おい。」
渉が再び呼び止める。
「何。」
玲子は立ち止まり、振り向きもせずに返事をした。
「女の子が話しているのを聞いたんだけと、お前、友達いないんだって?」
「ええ。」
玲子は、それだけの話と心得て、そのまま進まんとする。
「おい!人の話は最後まで聞けよ!」
玲子は、黙って渉の方を向く。
「こ、こんなお、俺でよければ・・・。」
渉の顔は、真っ赤になっていた。しかし、玲子は、ぼそりと言った。
「玉砕。」
渉の顔の赤が、最頂限に増す。玲子は、黙ってその場を離れる。渉は、その背中を見つめていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
玲子は、階段へ曲がろうとするタイミングで、立ち止まった。黙ってこちらを振り向く。
「何よ。」
「い、いや、何でもない・・・。」
「そう。」
玲子が行ってしまった後、渉は、教室の中の一点を見つめる。治とハルスが、話している。いいなあ、俺も、すっと前から玲子の事が好きだったのに。
「何言ってんのよ。」
由香が、突然後ろから声をかける。
「ぎぎぎぎぎぎぎっ!!!???」
渉は、どきっとした顔で、おそるおそる後ろを向く。
「ゆ・・・由香!?あ、あのさ、だ、誰にも言うなよ!」
「そう。」
返事をする由香の顔は、不敵そうな笑みを帯びていた。渉は、さっきの顔に負けないくらい真っ赤な顔になった。
「は、ハデス様!」
アジトへ向かって歩いて来ているハデスに対し、一人の男が走り疲れた声で、言う。
「何。」
「そ、それが、カムロとルーザガの、死体が・・・」
「えっ?」
ハデスが驚いた顔をすると、男は続ける。
「そ、そ、それで・・・。」
「もうよい。」
ハデスは、その男を手で制す。そして、黙って足を進める。
ハデスこと長谷川玲子の祖父、長谷川健治は、家で、電話をかけていた。
「のう・・・、玲子、あれから暗くなってるぞ・・・?」
「どうでもいいの。」
健治と電話で話していた人は、玲子の母、長谷川村子である。
「どうでもいい、って、困るぞ。」
「だって、あたしの生んだ女の子が魔法使い・・・名前ずらも言えない・・・!」
電話から、すずり泣きが漏れる。健治が、慰め声で言う。
「分かったよ・・・。玲子の事に対しては、こっちも激しく言及はしないし、子を捨てたい気持ちも分かるじゃろうか・・・、これだけは言える。」
健治は、一区切り付けて、一回り大きな声で、怒鳴った。
「自分のおなかにいた人くらい、囲め。お前の愛で囲め。人はな、おなかの中にいる時、お前の愛で育ったんだぞ!生まれてからお前の愛という補給が途絶えたから、あんなになったんだぞ!」
健治がそこまで言うと、村子は、それに負けない声で怒鳴る。
「もう二度と・・・、電話しないてください。」
電話を受話器の上に置くと、村子は、額を片手のひらで塞ぐ。そして、そのまま座布団にどんと座りこむ。
「愛・・・ね。」
村子は、重い声でつぶやいた。
魔法。
それは、使いし者の心により決まる。
使いし者の目的により
使用できる魔法の種類は2つに分かれる。
光の魔法、そして、
闇の魔法。
正しき心を持つものよ、集え。
悪しき心を持つものよ、集え。
全ては、彼らから始まるものだ。
「なあ、魔法使いってさ、誰でもなれるの?」
治が、机の椅子に座って、ベットに座っているハルスに対して言う。
「ううん、魔力を持っていないと無理よ。魔力は生まれつき与えられるものと、生まれてから与えられるのの二つ。」
「生まれてから与えられるのは、どんな人たち?」
治がそう言うと、ハルスははっとして立ち上がる。
「あんた、まさか・・・。」
ハルスが言うと、治は黙って首を横に振る。
「ちょっと聞いてみただけだよ。」
治は、神妙な顔をして、机に向かう。ハルスも、複雑な表情をするが、治に呼びかけられる。
「なあ、日本語の勉強をしないと。」
こちらを向いた治の顔は、笑顔だった。ハルスも、負けしと、笑顔で答えた。
「うん!」
そして、ハルスは、治の方へ駆け寄る。治も、小学1年生の国語の教科書を取り出す。熊と兎の表紙。1年生の国語即ち日本語の入り口。
「そういえばさ。」
治がはっとした顔で、ハルスに言う。
「なんで、お前、日本語を書けないのに喋れるんだよ。」
それに対し、ハルスも不思議そうに言った。
「そうね、なんでかしら・・・・。」
運営しています三国志NETにで、
徴兵できないという重大なバグが発見され、
小説の続きが書けませんでした。
やっとのことで修正でき、
入れましたw