第34話 呪縛
「玲子・・・もう少し詳しく説明して・・・?」
ハルスが言うが、玲子は黙って下をうつむいたままである。
「玲子・・・?」
治も、玲子に声をかける。しかし、玲子は声を出さない。そのままぶいと自分の机に座る。みんなが玲子に注目していると、玲子は黙って黒板の方を指差した。そこにはいつのまにか技術の先生、田中真吾先生がいた。
「もう4時間目の授業は始まっているのですか。」
田中先生が言うと、生徒達は慌てて座らんとした。
「遅い。」
田中先生はそれだけ言うと、大学ノートを取り出し、それに何かを書きこむ。
「全員遅刻。」
10秒ほどして田中先生はノートに書きこむ手を止めて、ノートを閉じる。それと同時に羽生かおるが手を挙げる。
「羽生さん、なんですか?」
田中先生が言うと、かおるは立ち上がり、大声で抗議する。
「いいですか、遅刻というものは、学校にくるのが遅れるもので、授業に遅れるものは遅刻といいますか?」
「でも、熟語の漢字の構成的には、授業に遅れた時も当てはまると思います。」
「でも、一般的には、学校にくるのが遅れた時のみに用います。」
「自分なりの凡例で内申点を付けます。」
「そんなのおかしいじゃありませんか!」
「黙ってください!いいですか、先生は、生徒に対し体罰が使えない代わりに、精神的な罰を与えることが出来ます。」
「それは主に?」
「反省です。」
田中先生は、自分の持論をさらりと言ってのける。かおるは、その持論に反抗するすべがなく、座る。それと同時に、田中先生は言った。
「では、今週は先週の続きで、HTMLタグについて・・・。」
この教室の中に、蛍崎惇がいないというのは言うまでもない。
思えば、4時間目にゾンビになってしまう呪いをかけられたのは・・・。
惇は、トイレに隠れて、あの日のことを思い出していた。
あれは、4年前、まだ小学生だった時・・・。
「蛍崎惇。お前は魔法使いだ。」
この一言を、惇はすっと忘れていられなかった。
小学4年生の時、ある朝いつも通りに教室に入り、自分の机に着席すると、いつも通り近くの友達と色々話していた。その時、教室の入口から、高校生らしい制服を着てリーゼントをし黒いサングラスをして手をポケットに入れていてタバコをすっている一人の男が入ってきた。男は、すかすかと惇の机の前に立って、一本の棒を机の上に放り投げると、言った。
「蛍崎惇。お前は魔法使いだ。」
「えっ?」
惇は、驚いて立ち上がる。生徒達の視線も、一斉にここに注がれる。
「ハリーポッターの真似ですか?」
惇は、一時は慌てたが落ち着き払った声で言った。しかし、男はそれを否定する。
「真似ではない。その杖を持て。」
その男は、サングラスを外した。そして、剣幕を出した。その剣幕が怖く、惇はおそるおそるその杖を持つ。男は、急に優しそうに言った。
「言ってこらん。イクスプロージョン。」
「イクスプロージョン」
惇がおそるおそる言う。すると、目の前の空間が爆発した。生徒達は、驚きの目でこちらを見ている。
「なあ。」
男が言う。惇は、顔を真っ青にして杖を机の上に放り出す。
「いらない!」
「なぜだ?」
「だ、だって、僕が魔法を使うと、周りの人たちに嫌われそうな気がして・・・。」
「いいや、お前は自分の運命を認めなければいけない。」
生徒達の視線に囲まれ、惇はおそるおそる言った。
「・・・でも、今まてとおりの生活に魔法が入ったら、なんか崩れそうな気がして・・・。」
しかし、男は、惇に杖を持たせようと、優しく、いろいろ言葉を浴びせる。
「魔法が使えたらいい事ばかりだよ。」
「非難されそうで、」
「そんなことないよ。」
「だって、」
「ね、」
男が杖を持ち、惇に持つよう促す。しかし、惇はその杖を引っ張り取ると、折った。
「その気か。」
男が言うと、惇は黙って頷いた。
「そのつもりならば・・・。」
そう男が言い、右手の人差し指と親指をバチンと鳴らす。惇は、急に苦しそうにもがいて倒れる。
「僕の体に何をした!」
「呪いをかけた。」
「なんだ、って、」
惇の意識は、薄れゆく。
「あの時・・・、受け入れていれば、こんなことにはならなかっただろう・・・。」
4時間目終了のチャイムが鳴る中、惇は思い出にふけっていた。
「そういうわけ。」
惇ははっとして、トイレの入り口の引き戸の方を振り向く。果たしてそこにはハルスと治の姿があった。
「それ程度だったらあたしが今解けそうだけと。」
ハルスが言うと、惇は立ち上がってハルスに言う。
「本当か!」
その声は、期待に富んでいた。
「ええ、でも長い時間が必要な場合もあるから、放課後に、」
「分かった。じゃ、部活が始まる前に、」
「誰も来ない場所は?」
「体育館の倉庫。」
「おい、そこにはバレーボール部の道具が、」
「今日は休みだっけ?」
ハルスが治に言う。治もはっとして返す。
「そういえば、そろそろ部活決めないと。」
それに対し、ハルスは即答する。
「あたし、サッカー部。」
「じゃ、俺は野球部。」
治がそう言うと、ハルスは治に杖を向ける。
「サッカー部でないと嫌だもん。」
「強制か!」
「ええ。」
「もう、わかったよ、やればいいだろ、やれば。」
治は、不機嫌な声で言った。惇が横から割り込む。
「で、結局、場所は?」
治が言った。
「屋上は?」
「それ、いいわね!」
ハルスも同調する。治が、改めて予定を読みあげる。
「じゃ、放課後すぐに屋上、決定な!」
放課後。風がふいている屋上なのだが、初夏の事もあり寒くなくあたたかかった。
惇は、屋上の中央に立っていた。惇に向かい合ってハルスが、屋上の階段のあたりで治が階段のドアにもたれていた。ハルスが言った。
「動かないて。」
「うん。」
ハルスは、惇に杖を向けると、強い声で言った。
「レリーズ」
突然、大きな白い光が大きく広がる。屋上の上は、大きな白い光が君臨した。まぶしすぎで3人は思わず目をつむる。
30秒ほどして、その光は消えた。
「お、おい、成功か・・・?」
目を開けた惇が、目の前にいるハルスに言った。残りの二人も目を開ける。ハルスが応じる。
「かもね。」
「かもねって何だよ!」
治が言うと、彼のもたれていたドアが勢いよく開く。治は、180度回転して壁にぶつかり、ドアの裏で気絶した。立っていたのは葛飾先生一人。
「さっきの光は何だ。」
「いろいろありまして。」
ハルスが少し弱い声で言う。
「答えなさい。」
「答えません。」
「答えなさい。」
葛飾先生は、剣幕で言う。
「あっ・・・。」
惇が、思い出したように言う。
「あさきゆめみし・・・。」
「何だと!?」
突然、自分のかつて所属していたあの忌まわしき組織の名前を言われ、葛飾先生は不機嫌な声で惇に言った。
「いいが、今後、二度とその言葉を言うな。」
「それじゃなくで、なんとなく・・・。」
「だめだ!今後、私の前で言うことを禁じる。」
「はい・・・。」
惇が弱い声で言うと、葛飾先生は続ける。
「部活に行きなさい。」
惇が階段を下りる音がやむと、葛飾先生は、次にハルスに視線を向ける。
「部活は決まったか。」
「はい。」
「どこだ?」
「テニス部です。」
それを聞き、ばっとドアが閉まる。葛飾先生が後ろを向くと、治が閉まったドアの前に立っていた。
「さっき、サッカーだと言っただろうか!」
「聞き間違いよ!」
治が、ハルスの方へ歩み寄る。
「一度決めた決心は、」
「眼が移っていったのよ。というか、聞き間違いかも、」
「発音似てない!」
「それはどうでもいいじゃないの!あんたの耳が悪いの!」
葛飾先生を無視して、二人の口論が始まった。葛飾先生は、呆れた顔をして黙ってドアを開け閉めして階段を下りる。
つ、つ、つ、ついに、
居候、
第2目標の10万字を突破しました!
これからも
頑張って進めて行きますので、
読者さんもたくさんのクレームをお願いします。
第3目標は
25万です。はい。
で、結局
ハルスの部活はどうなるのでしょうか・・・?
それと、あと2つで第3部が終わります。
第3部のしめは、
ハルスの部活騒動で行きたいと思いますw