第32話 忍込
ハルスと治は、家に帰った。
部屋で二人になると、ハルスはベットにどすと座りこんだ。
「何でだよ。」
治が、座っているハルスに向かって言った。
「何が?」
「何でお前、偽名を使ってんだよ。」
「・・・・・・」
ハルスは、途端に真剣な顔になり、杖を取り出して軽く振る。治の体は勝手に、ハルスの隣に座る。もう自分の体が操られるという事は慣れてしまったことなので治は黙っていたが、一応理由だけでもと、ハルスに聞いた。
「何でわざわざ、」
治がそこまて言うと、ハルスは治の右耳にひそひそ何かを言った。ハルスの小さな声での説明が終わると、治は途端に立ち上がり、ハルスに怒鳴った。
「おい!帰れよ!挨拶くらいしろよ!」
ハルスも立ち上がる。
「何であたしがここに居候したのか忘れたの。パパとママの復讐をするためよ。」
そういえば、ハルスのお母さんとお父さんは「あいつら」にやられていたんだっけ・・・。
「そろそろ言ってもいいだろ、あいつらって誰だよ。」
ハルスは、しばらく考えてから、まだベットに座り、杖を振る。治の体は再びハルスの隣に座る。
「あいつらはね、ヤモリと言う組織。」
「やもり?」
「し〜〜〜〜っ、大きな声で言っちゃだめ。」
「で、ヤモリって何だよ。」
「悪の組織。善に貢献する者達をことごとく殺す組織。」
「そう言えば、」
「そう。今朝会った男も、ヤモリの組員なの。」
「でさ、ヤモリについて他に分かった事は?」
「あたしのパパとママが殺されたのに関与している、と言うことくらい。」
「そっか・・・。」
治は、少しうつむいて何かを考えていたようだったが、やがて決心したように言った。
「俺も協力するよ。」
「え?」
「だからさ、俺もヤモリを一緒にぷったおすのに協力するよ。」
「でも、面白いから戦うんじゃなくで、本気で戦うのよ。」
「ああ・・・。大切な人を守れない人は、面白がって戦う人以下だ。」
「えっ?」
ハルスの頬が真っ赤に染まる。
「だ、大丈夫?」
ハルスの言葉に対し、治は胸をはって応えた。
「守れる人がいるから、男は強くなれるんだ!」
ハルスの頬は、さらに真っ赤になる。そのまま治に寄りつく。治も、頬を赤らめてハルスの頭を抱く。
「ばんごはんよーーー!!」
下からお母さんの声がする。
「行こう。」
「う、うん・・・。」
治の部屋のドアが閉まる。それを待ちかねていたように、治の部屋に、ワープの魔法で出てきた檸檬が押入れの木の引き戸を開けて現れる。着物を着た檸檬は、部屋をあちこち見回す。そして、思い立ったように、治の机の椅子に杖を向け、言った。
「セパート」
そう言うと、檸檬は杖をしまい、治の机の中に隠れた。そこには治の足元が入る予定である。
「楽しみ・・・。」
檸檬はつぶやいた。もし治が帰ってきて・・・この歓喜のシナリオは、どんなに楽しいのだろうか。胸をどきめかせて、檸檬は治が戻ってくるのを今か今かと待ちうけていた。
ちょうど、そのころ・・・。
「日本語、教えて。」
食事が終わってから、ハルスが言った。
「えっ?」
「だから、日本語、書き方教えて。日本語の文章が読めるようになりたいの。」
「うん、いくらでも教えるよ!」
「ほんと?」
「うん。」
治が返事をすると、ハルスはその腕を治の部屋まて引っ張って行く。ハルスがドアを開け、治が閉める。さて、と治が部屋を一目見、見回す。
「あれ・・・?」
「どうしたの?」
机の椅子に座ろうとするハルスが後ろにいる治の方を振り向く。
「この部屋、なんか違和感がしないか?」
「しないわよ。」
ハルスは、そう言って、治の机の椅子に座った。机にこもっていた檸檬は、その足を治の足と勘違いして掴む。
「きゃっ!」
ハルスが悲鳴を上げる。しかし、檸檬は頬を”治の”足にすりすりする。檸檬は、目をつむっているので、足に違和感はしたがまさか他の人の足だとは考えもしていなかった。もし目を開けていたら足と足の間の隙間から治が見えただろうに。
「どうしたんだよ!」
治がハルスの腕を掴む。
「足が、足が、」
ハルスがそう言うと、足の方から檸檬の声がした。
「治君、あたしとハルスとどっちがかわいい?」
ハルスはそれを聞き、治の方を向いて人差し指で唇を縦に押し「し〜っ」の合図をすると、再び檸檬の方を向いて、治の声色で言った。
「ハルス。」
きこちなかったが、それでも檸檬が充分に勘違いするほどだった。治は、ハルスの足元を見て、ようやく状況が掴めた。
「あんなおばかちゃんよりもあたしの方がかわいいわよ〜。ハルスは治君のこと僕って言うんでしょ。嫌なんでしょ。そこがかわいくないんでしょ。」
「そんなことねえよ。」 注:ハルス
「でもぉ、ハルスって恋が苦手なの。顔がかわいい割に恋は失敗ばかりしているの。」
これが初恋なのに・・・と、ハルスは檸檬の嘘に顔を真っ赤にし、今にも蹴りたい心持だったが、なんとか我慢した。檸檬は、続けた。
「ねえ、あたし、とってもかわいいわよ。着物を着ているあたし。着物は日本人女性にとって必要不可欠な、美しい着物なのよ。ねえ。」
檸檬は、そこで目を上げて上を見上げる。
「あっ・・・。」
檸檬は、ようやく足の違和感の正体に気付く。ハルスは、今まて蓄積していた我慢を込めた足で、檸檬の腹を強く蹴った。檸檬の頭は机の引き出しの上の突起にごんとぶつかる。
「痛っ!」
「人の家に勝手に上がっておいて、それはないじゃないの。」
「く・・・・・・。」
檸檬は唸るが、これは自分に非がある。
「覚えておきなさいよ!」
理不尽な捨てセリフを吐くと、檸檬はすぐさま杖を下ろす。
「ワープ」
煙の如く檸檬が消えると、治はハルスに言った。
「ハルスの世界では普通にあることなのか?」
ハルスは、黙って頷いた。
「警察とかいないのか?ここでは不法侵入で逮捕され、」
「そもそも警察なんでいないから。」
「じゃ、どうやって悪い人たちを捕まえるのさ?」
「そもそも悪い人なんでいないから。」
「そ、そう・・・。」
治は、すっと前にハルスと似たような話をした気がし、他の話題を探す。
「あ、あのなあ・・・。」
治が話した内容を聞き、ハルスは顔色を変える。
「えっ?」
次の日の朝。通学路で、自分と手をつないている治に対し、ハルスは言う。
「ねえ、あたしの世界、そんなに見たいの?」
「見たいって訳じゃないけれど、興味があるんだよ。」
「興味・・・?」
ハルスは、暗い顔をしてうつむいた。治は慌てた。
「そんなにいじめられていたのか?」
ハルスは、黙って首を横に振る。
「じゃ、パパとママの墓を見たくないから?」
ハルスは、黙って首を横に振る。
「何でだよ!」
「今度ね。」
ハルスはそれだけ言うと、まだ黙った。治も、その心持を察して、話題を変える。
「なあ、ハルスの使う魔法って本当に魔法なのか?」
「どういう意味なのよ。」
「いや、だからさ、」
治の、合理主義者の性格が再発した。
「爆発なんか時限爆弾を仕掛ければいいことだしさ、」
「タイミングが微妙よ。」
「それじゃ、突風は扇風機をたくさん置いてさ、」
「どうやって一度につけるの。」
「それじゃさ、気絶は芝居だろ?」
治がそこまて解釈すると、ハルスは治に杖を向ける。
「実際に自分が気絶してみる?」
「ああ!」
合理主義者なので、魔法で気絶するなど現世ではありえないできことである。
「スゥン」
ハルスがそれだけ言うと、治は気を失って倒れた。
「やれやれ、世話が焼けるんだから。」
ハルスは、治の体を背中に抱く。
「なんだよ治!」
教室で、気絶したままハルスが座らせている治に対し、小池正志が怒鳴る。そして、ハルスの方に行き、ハルスの襟を掴む。
「お前、まだ治を気絶させたんだろ!」
「ええ。」
ハルスは、あっさりと肯定する。
「なんでだよ!」
「だって、気絶してみたいって言うんだもの。」
「冗談に決まってんだろうか!死にたい人が自分で死にたいと言う訳ないだろ!」
正志が言うと、ハルスは黙って治に杖を向ける。
「レリーズ」
数秒して、治が意識を取り戻し立ち上がると、果たしてそこは教室の中。目の前に、正志に襟を捕まれたハルスがいた。
「どう?これでも魔法を否定する?」
ハルスが言うが、治は言った。
「科学的根拠を証明せよ!」
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あくまで暇つぶしですから
そこはどうかご承知ください。(笑)