第30話 気体
ヤモリ。それは、悪の組織の名称であった。
組織の概要としては、主に人殺し。
殺しの対象は、善に貢献する人々。
善に貢献する人々を、全て殺し上げる組織。
目的はーーー・・
「では、次の標的はリサ・ド・ブラウンでよろしいですか?」
暗闇の中、ヘファイストスが、ハテスに対して言う。
「ええ。来週中にも、誰かがリサ・ド・ブラウンを弱めてからあたしがとどめをさす。」
ハテスは、冷たい声で言った。アレスが言う。
「その役割を反対にする事は出来ませんか?」
「あたしが先にやったら、もしも失敗した時にリスクは大きいわ。」
と、ハテスは反論して続ける。
「ところで、誰が弱める?」
3人は、顔を見合わせるが、二人が同時に立ち上がる。ヘファイストス、アレスの二人であった。
「どっちにする?」
ハテスの言葉に対し、二人とも同時に「俺です!」と叫んだ。ハテスは、それを拒否する。
「どちらか一人。」
二人は、顔を見合わせる。数分間、二人はお互いをにらみ合い、固まっていた。ハテスが立ち上がり、二人の間に杖を向ける。
「早く。」
「は、はい、」とアレス。ヘファイストスは、アレスの口を押さえて、言った。
「俺がやります。」
「お、おい、へ、」
「黙れ。」
もがくアレスの口をヘファイストスは無理して抑える。
「そう。」
ハテスは、そう言ったきり、座った。
「アレスに任せるわ。」
「何ですって!?」
ヘファイストスが反論するとハテスは平然と返した。
「負けるが勝ち。」
「く・・・・・・。」
ヘファイストスは唸るが、もう後の祭り。
「で、いつにしましょうか?」
アレスの問いに対し、ハテスは短く言った。
「日曜日リサの家の前で張り込み。」
朝。ハルスと治は、手をつないて家を出た。治は、頬を赤らめて言った。
「お、おい、」
「何よ。」
「あのさ、あ、暑いね・・・。」
「あ、あたしもよ。」
「うん、で、夏休みに泳ぎに行かない?」
「どこに?」
「プールに。」
「何それ。」
「行けば分かるから。」
「うっ、うん・・・。」
ハルスがそこまて言うと、いきなり二人の前に黒いスーツをした一人の男が現れた。
「誰だ!」
治が怒鳴ると、男は二人に対して、いきなり杖を向ける。
「魔法使い!」
ハルスが怒鳴ると、男は口を開く。
「私はあなたたちを奈落に連れて行く死神でございます、アレスと申します。」
「死神だって?」
治が言うと、アレスは静かに言った。
「ハテス様のご命令でございます。」
そして、一礼する。ハルスが言う。
「ハテスって誰よ!」
「そうですね・・・冥土の土産にお話しましょう。ヤモリという組織を御存知ですか?」
「ヤモリって何よ!」
「善に貢献する人々を、全て殺害する組織でございます。」
何度も同じことを繰り返し言ったのか、うまく要約してあった。二人は、ぞくっと悪寒を覚えた。アレスは、続ける。
「リサ・ド・ブラウン。あなたを、善に貢献した罪で極刑に処します。」
そのセリフを聞き、ハルスはビクッとする。
「リサ・ド・ブラウンって誰だよ!」
治が言うと、アレスは平然とした顔で言った。
「そちらの少女の名前でございます。」
「何だって!?」
治は、ハルスの顔を見る。ハルスは、目をそらして言った。
「そう・・・ハルスは偽名よ。本名は、リサ・ド・ブラウン。」
「なんで偽名なんで使うんだよ!」
「それはーーー・・」
ハルスがそこまて言いかけたころ、アレスは改めて二人に杖を向ける。
「さあ、そろそろ神に祈りを捧げていただけませんと。」
ハルスは、杖を取り出そうとする。
「その前に私が殺して差し上げます。」
ハルスは、その手を止める。
「何で・・・何で死ななければいけないの!何でそんな組織があるの!」
「ハテス様が創られた組織に、私共は従順に従うのみでございます。」
「ハテスって誰なの!会わせて!」
「会えない事情があるとのことです。さあ、速やかな処刑を・・・。」
「嫌!あたしはまた死にたくない!」
ハルスがアレスの方へかけだそうとする。その体を治は止める。
「離して!」
「だめ。」
「なんで!」
ハルスが後ろを振り向いたその刹那、
「イクスプロージョン」
爆発の音がして、二人がアレスのいたところを振り向くと・・・誰もいなかった。代わりに、立っていた男は・・・
「乞食さん!」
治が言った。あの時不猟に捕まった自分らを助けてくれた、あの乞食がこちらに杖を向けていた。乞食は杖をしまうと、言った。
「記憶力はずいぶんいいね。」
「命の恩人です。あの時はありがとうございました。」
「礼には及ばないよ。それより、ハルスは覚えていたのかな?」
ハルスは、黙って首を横に振る。
「そうか・・・。」
乞食は残念そうに言う。ハルスは、憮然とした顔で続ける。
「あなたの名前は何で言うの?」
その問いに対し、乞食は答えた。
「秘密。」
「そうですか。」
治が残念そうに言うと、ハルスが言う。
「どっかで見たような気が・・・。」
それに対し、治は言った。
「気のせいだろ。」
「うん・・・。」
ハルスがそう言うと、乞食はにっこりと笑い、そのまますれ違うように行ってしまった。
「さて、あたし達も行こうね。」
「うん、リサ。」
治がそう言うと、ハルスは治に杖を向ける。
「ハルスって呼んで。」
「何で?」
「ハルスと言ったらハルス!」
「うん・・・。」
治が返事をすると、ハルスはその杖をしまう。
二人は、大通りへ出た。幅の広い道路の両脇にある歩道、その片脇を歩いていた。
「へえ、高い建物がいっぱいねー。」
「俺が案内するよ。この世界の案内のための散歩だろ。」
「じゃ、建物の中見せて。」
「できるか。」
「ふふ・・・。」
少しはこの世界の常識を覚えたとみえて、ハルスは笑った。
「でさ、」
治が言いかけた頃、悲鳴が上がった。
「ぎゃああああああっ!!」
異変に気付いた二人がそちらに注目すると、そこには、はさみを振り回している女の人がいた。
「どうしたんですか!」
ハルスが彼女に問いかけると、女の人ははさみを振り回しながら言った。
「体が勝手に動くのよ!」
「えっ!?」
一難(?)去って一難。
「ぎゃああ、」
周りの人たちも、円を描いて囲んで、その女の人に注目する。女の人の体の中から、黒い気体が煙のように出てくる。黒い気体が完全に体から離れると、女の人はくたびれた表情で、どすと座りこんだ。一方、黒い気体はハルスの体を囲みはじめた。
「それから離れて!」
女の人が叫ぶ。しかし、ハルスは体を動かそうとはしない。そればかりが、その黒い気体に向かって話しかける。
「あんた、もしかして、あの時あたしを操った、」
「おい、もしかしてこれが・・・?」
治がハルスに対して言う。ハルスの体を囲んでいる黒い気体は、それに返事をするかのように、胴体の包囲を解きハルスの頬をなでるように動いた。ハルスは、頬の隣にありしその黒い気体に杖を向ける。
「天、大地、そして魔法を司る神よ、ヒンマンをわれに従順し妖魔となせ。」
黒い気体は、硬直したように地面に落ちたが、すぐにふわりと浮き上がる。
「行くわよ。治。」
ハルスが言い、路地裏へ駆け込む。治も、それについて駆け込む。黒い気体も、ハルスの肩からインコのようにはなれない。
路地裏の奥へ入る。ハルスは、誰も見ていないことを確認すると、自分の頬付近にある黒い気体に話しかけるように言った。
「治に憑いて。」
「えっ!?」
治は驚いた顔をするが、黒い気体はすかさず治の体に巻きつき、溶け込むように消えた。
「おい!」
治は、自分の体を自分の意志で動かしてみる。きちんと動く。動かすのを止めてから言った。
「なんのつもりだよ!」
それに対し、ハルスは巍然と応じる。
「浮気されたら困るでしょ。」
黒い物体って何でしょうね・・・。
あーそれと、
この小説の全体の文字数、
あと少しで第2目標の10万字にいきます。はい。
あと1万字だーーー!!!
内容も、
字数に比例するかのように面白くなっていきます。
・・・濁点はどうでしょうか。
不肖私。
これは、ハルスが治に僕と言うのと同じように
自分が自分に僕と言っているのです。はい。
不肖私。