第24話 恋愛
朝。
煩いの夜は過ぎ、朝が来た。
小鳥の囀りが、かすかに聞こえてくる。
ハルスは、起き上がると、横でぐっすりと寝ている治の体を揺さぶる。
「何すんだよ!」
治も、起き上がる。
「だ、だって、これ、恋なんでしょ・・・。」
「おい!」
あまりにもストレートすぎるハルスの態度に、治は不信感を覚えた。
「確かにそうかもしれないけとさ、」
「そうかもしれない、ってところが気に入らないの!最後のけとさが、何かを隠しているような気がするの!」
ハルスが怒鳴る。
「あ、あのさ、」
治の顔は、落城した。頬を赤らめて下を向いている。しかし、口はまだ負けていない。
「出て行け!」
「本当は好きなんでしょ。」
「黙れ!・・・」
治は、それだけ言うと、ハルスの足を除けて、ベットから降りて立つ。ハルスも、それに続いて立ち上がる。
「ね、ねえ、」
「何だよ。」
「そ、その、抱いて。」
「・・・・・・」
昨夜まてなら簡単に嫌だといえる治だったが、今朝はなぜかその気力が出てこない。
「だ、だ、」
「だ?」
「抱くか・・・」
その治の顔は、真っ赤になっていた。治は、それを隠さんとして向こうを向く。
「学校。」
その声は、やわらかった。
教室の中にいるクラスメート達は、目を丸くして二人を見つめていた。
なんと、昨日まてはあんなに対立していた二人が、頬を赤らめて手をつないて教室に入ってきたのである。
「おい!」
小池正志が、二人の前に歩み寄る。
「といて。」
治が、言う。正志は、治の襟を掴んで怒鳴る。
「今日のお前はおかしいぞ!?」
前後に揺らされる治は、答えた。
「ほっとけ。」
「だめだ!」
「おい!怒ることじゃないだろ!」
3人に、前田渉が駆け寄ってくる。すっかり忘れ去られていた渉だが、治の親友である。
「水を差すな!」
正志がそう怒鳴り、治の体を揺らすのを続行する。
「やめて!」
ハルスが怒鳴った。その手には、正志へ構えられた杖が握られている。正志は、治の襟を離し、言った。
「とにかくな、恋をする人は部活はやってはいけない。」
それは、悔しさと無念がこもった声であった。
「IQ部は退部していますから。」
治は、冷静に言った。
「だからさ、次に部活に入る時。」
正志は、再二治の襟を掴んだ。
「オリビション」
ハルスの呪文が響き渡る。正志は、それからすこし呆然として、治の襟を離してつぶやいた。
「俺、なんで怒っていたんだっけ・・・。」
正志は、そのままくるっと向こうを向くと、彼の机に座った。治は、ほっとして後ろのハルスの方を向く。
「ありがとう。」
ゆっくりと言うと、ハルスはゆっくりと応えた。
「とういたしまして。」
二人は、笑顔を出し、そのまま一緒に、机へ向かう。
「今から朝のHRを始める。」
葛飾先生が、教壇に立ってクラスメート達の前で言う。それに並び、羽生かおるも合わせる。
「起立、礼!」
「おはようございます!」
生徒達の挨拶が響く。
「着席!」
生徒達は、みんな座る。葛飾先生が言った。
「では、そろそろ第1学期中間テストだな。中学2年生として初めてのテストだ。」
「先生!」
羽生かおるが手を挙げて立ち上がる。
「4月の実力考査はどうなったんですか。」
「無視。」
葛飾先生は、表情を崩さずに言った。
「きっちり数えてください!テストであることには変わりありません!」
「無視。」
「方針だからしょうがないわよ。」
声がして、一人の少女が立ち上がる。長谷川玲子であった。
「優等生は座らないと内申書の点数が影響するぞ。」
葛飾先生がそう言うと、教室の中は騒然とした。
「優等生なんですか!?」「マジ!?」「嘘です!」といった、疑惑の声が立ち上がる。それに対し、葛飾先生は言う。
「知らないのか。長谷川玲子は、いままて追試をした事のない、テストの点数も全て95点以上がほとんどと言う優等生だぞ。」
「95点以上って事は、ケアレスミスがひどいってことですね。」
伊勢田由香が立ち上がって言う。
「思い込み。」
玲子は、静かにそう言った。しかし、由香はそれを振り切って言う。
「12345の順番を12354にしたり、友達の名前に濁点を入れ忘れたり、隣り合っている保健室と家庭科室を取り違えて家庭科の時間に保健室に入って家庭科に遅刻したり、」
「それ以上言うなぁぁぁ!」
玲子は真っ青になって、由香に掴みかかった。
「やめなさい!座りなさい!」
葛飾先生が怒鳴った。その剣幕はものすごい。数人は、黙って座る。教室に沈黙が走った。
「では、HRを終わる。1時間目が始まるぞ。」
葛飾先生は、そう言うと教室から出て行く。すこし経って、数学教師の森内武徳先生が入ってくる。
「では、今日は連立方程式のまとめです。」
森内先生は、教壇に立ってそう言う。
「そろそろテストだから、テスト勉強もしっかりやってくるように。では、これから黒板に書く問題をノートに写してやりなさい。」
そう言うと、森内先生は、生徒達に背を向けた。白いチョークを持って、黒板に字を書き始める。
「では、これより帰りのHRを始める。」
葛飾先生が教壇に立って生徒達に対して言う。
「零時治、零時ハルス、各自部活に入りなさい。」
葛飾先生がそう言うと、ハルスは手を挙げる。
「先生、部活って何ですか。」
「俺が後で説明するから。」
治は、ハルスの挙げた手を下げる。
「とにかく、1週間以内に仮入部しなさい。」
葛飾先生がそう言うと、治は「はい」と答える。
「おかえりなさい。」
母が、玄関で治とハルスを出迎える。
「たたいま。」「たたいま。」と、二人が返事をする。母が居間に戻ると、治とハルスは手をつないて2階の部屋へ上がった。部屋に入ってから、治はドアを閉めてから、ベットに座りこんだハルスに言った。
「あ、あのな、す、すっと言えなかったんだけと、」
「な、何・・・。」
顔を真っ赤にして、ハルスはうつむく。
「あ、あのさ、お帰り・・・。」
「一緒に帰ったじゃない。」
ハルスは、うつむいたまま両足をぶらぶらさせている。
「あ、あのさ、俺としばらく会わなかったんだろ。記憶をもらってから、言おうと思ってたんだけとさ、は、ハルスの性格が変わってなかったから、」
「そ、そ、」
「立って。」
治は、ハルスに立つよう促すと、いきなりハルスへ飛び掛ってきた。ハルスは、押し倒される形で、ベットに倒れこんだ。
「ん・・・。」
ハルスは、目を瞑って、治の体に抱きつく。
「好き。」
治がこう言ったので、ハルスは顔を真っ赤にする。
「あ、あの、やっぱり、ピンクの方がかわいい?」
「そんなことないよ。黒いほうが似合うよ。」
「そ、そう・・・?」
ハルスは、唇の色が分からなくなるほど顔をピンク色に染めていた。
「今まてさ、あ、あのさ、ハルスに最初に会ってからかわいいなとか思っていたんだけとさ、あ、あのさ、」
「何。」
「僕って言うから。」
「・・・・・・。」
ハルスは黙ってしまった。
「これからあたしがまた僕って言ったら、ふっとばして・・・。」
しかし、治はそれを拒む。
「ハルスの機嫌の悪い時だろ、それ言うの。だから、俺は、従順に従う。」
「・・・・・・ごめん。」
「謝ることないよ。」
「好き?本当に?」
「ああ・・・・。」
二人は、母が下から「晩御飯よー」と声をかけるまて、ベットの上でひしと抱きあっていた。
第2部「帰ってきたハルス」おわり
第3部「当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知ください」に続く
ついに、二人は両思いであることを確認します。
で、ついてに、読者にも確認しておきますが、
この小説は、伏線がたくさんあるのです。
その伏線の答えをチャートでまとめてみました。
なるほど、僕が見ても本当に複雑な伏線ですね。
複雑な伏線をこれから1つずつ1つずつ、
結んだりほどいたりの繰り返しで
この物語は進行して行きます。はい。
で、
第24話も書き終わり、
第2部も幕をとしました。
両面印刷ですが、
印刷専用の居候第1部PDFをここより配布しています。
http://freeserver.name/~kmy/
第3部は、
さよなら絶望先生第3話にちなむ予定でしたが、
沿ってばかりだと話がめちゃくちゃになりそうなので、
一応治のクラスメートの紹介をしておきたいなと思いまして、
第10話より・・・
第3部
「当組は問題の多い教室ですから
どうかそこはご承知ください」。
どうぞ第3部の幕開けとなる第25話を
忌まわしき心でお待ちください。