第18話 偽死
「ここか、例の墓地は。」
二人の男が、白昼の墓地の中を歩いている。周りには、大きい墓、小さい墓、様々であり、端が見えないほどの広い墓地の真ん中であった。狭い通路のうちの一つを歩いている二人の男。
「はい、そうでございます。」
二人は、一箇所で立ち止まる。
「ここが、最後の消息か。」
「はい、画面と見比べてみましても、間違いございません。」
「そうか。・・・ハルス、絶対に連れ戻してみせる。」
男がそう言い終わった刹那、突然二人の男の前に一人の少女が姿を表した。その少女の後ろには、黒い服に黒いサングラスをした二人の男が立っている。
「何をお探しで?」
少女は、言った。男は、直ちに言う。
「い、いや、こっちの話で。」
「こっちの話?」
「だから、君には関係ない事。」
「あるわ。ここは、あたしが作った土地だもの。」
「ま、まさか・・・。」
怯えた声だった。男は、冷や汗をながしている。
「そう、そのまさかよ。」
と、少女は、右手に持っていた杖を男に向ける。
「あたしは檸檬。岡田檸檬。」
少女は、勝ち誇った声で言う。
「下下の人に襲いかかる魔法使いを追い求めたのが運の尽きね。あなたこそが、あたしたちが数週間前までに戦ったあの組織を作れと命令した、『上』の人ね。」
「・・・・・・。」
男は、黙った。普通に立っている。平然を装った、尋常な立ち姿。
「さあ、真実を吐露してくれないかしら。」
「・・・・・・あいにく、それを言わないのが悪者の誇りなんでね。」
紙の塵は、治の部屋の窓から散ってゆき、ふわりと風に運ばれていった。
「さよなら。」
治は、そうつぶやいた。
「またハルスちゃんいなくなったわね。」
次の日の朝。母が、玄関で靴を履いている治の後ろで、ぶっきらぼうに治にそう言った。
「まあね。」
治も、ぶっきらぼうに答える。
「さあ、いってらっしゃい。」
「おはよう!」
治が、元気のこもった声で教室のドアをぱんと開け、教室の入り口で思わす嬉しくでみんなの前で言った。
「おはよう。」
「おはよう。」
次々と、生徒達が声をかけてくる。
「こうやって挨拶するの珍しいわねえ。あたしに未練でもあるんじゃないの?」
と、いつのまにか後ろに花尾武子がいる。
「なんだよ、ストーカー!いつのまにそこに・・・。」
「さっきからいたの。」
このやり取りが終わるか終わらないうちに、二人の後ろには葛飾先生が立っていた。
「おはよう。」
後ろから厳粛のこもった声をかけられて、二人は初めて葛飾先生の存在に気付いた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
二人は、そう言うと、席に戻って座る。治の隣の机は、空席。かばんを机の横にかけた治は、その空っぽの椅子を眺める。
「零時!」
葛飾先生のこだまが響く。
「今日は転校生の紹介だ!さあ、入りなさい。」
葛飾先生がそう言うと、教室のドアが開き、一人の少女が入ってくる。
「えっ!?」
「おい!!」
生徒達の中から動揺が上がる。理由。その転校生の少女は、岡田檸檬・・・
「岡田檸檬だ。」
葛飾先生が平然と言う。そう、死んだはずの岡田檸檬本人である。
「ち、ちょっと、檸檬ちゃんは死んだはずじゃ・・・?」
治が立ち上がって、黒板の前に立っている檸檬に対して言った。しかし、葛飾先生は、首を横に振る。
「生き返ったのだろう。」
「そんなことないです!」
治は、否定する。
「そうです!きっちり葬式も済ませたはずです!」
かおるも立ち上がる。
「よろしくお願いします。」
檸檬が平然と、頭を下げる。
「そんな事言うんじゃねえよ!」
怒りっぽい正志が、席を立ち、つかつかと檸檬に近づき、その頭をこぶしでぶん殴ろうとする。檸檬が目をつぶった刹那。
「やめろ!」
治が、正志の両手脇を後ろから組んでいた。
「離せ!」
「やめて!二人とも!」
檸檬が、挟む。
「なんだよ!お前が原因だってのに!」
正志が言うと、檸檬は、下をうつむいて言った。
「死んだことにしないと、かおるちゃんが治君にあたしの事言わないと思って・・・。」
「えっ!?」
治が返す。檸檬は、黙って首を上げる。
「何を?」
治が尋ねる。しかし、檸檬は、黙ったまま治の顔に自分の顔を近づける。
「だ、だ、だから、」
檸檬は、黙っている。そのまま、ひたすらに治の唇に自らのそれを押し付ける。
「ん・・・。」
かわいらしい声が、檸檬の声帯から漏れる。
「転校早々キスシーンとは、大物になるな。」
葛飾先生が、珍しくかっはっはと笑う。しかし、すぐに険しい顔になる。
「しかし、授業中にキスするとはけしからん。二人とも廊下に立て!」
「あの、先生、質問です。」
檸檬のあったかい唇を押しのけた治が、先生に聞く。
「俺もですか?」
「当たり前だ。」
「そんな、俺は無理やり・・・。」
「つべこべ言うな!立て!」
「なんでキスなんでするんだよ!」
廊下で、治は檸檬に尋問する。
「だってぇ・・・。」
檸檬は、顔を赤らめる。
「お、おい・・・。」
「あたし、かわいくない?」
そう言われてみると、檸檬は、かわいい。ハルスと並べてみても比べようのないような、日本人としてあるまじきかわいらしい顔。だから、俺、結婚したかったんだな・・・。
「とにかく!」
「はい?」
「お、お、俺は、ま、ま、また・・・・・・あっ!」
無理やり話題を見つけた治が、言う。
「お前、本当に魔法使いか?」
檸檬は、黙ったまま首を縦に振る。頬は、赤いままだ。
「なんで直接言わないんだよ。ばか。」
「だって、そんな事を知られたら嫌われると思って、様子を見ていたの。」
「そっか・・・、いや、で、でもさ、こ、婚約者だから、」
「だから、」
「・・・・・・今でも好き。」
「本当?ハルスちゃんとどっちが?」
「檸檬。君だ。」
檸檬は、ほっとしたかのように真っ赤になってうつむく。そして、言った。
「あの、あたし・・・、ハルスが・・・、」
憎い少女の名前を並べられ、治はビクッとなった。
「転校の目的は、それが全てじゃないけれど、一緒にハルスを助けてほしいの。」
それを聞き、治は怪訝な顔になった。
「あいつはお断りだね!」
「そんな事言わないて!」
「いいや!あいつの暴政ぶりといったら!」
「ハルスちゃん、大金持ちで、」
檸檬が、ついに吐き出すように言う。
「執事の扱いに慣れているの。」
「だからって俺を僕扱いすることないだろ!」
「・・・・・・あの人、もう分かっているみたいだから、大丈夫だと思う。とにかく、一緒に、」
「拒否。」
即答であった。
「ねえ、」
檸檬が、治の左肩を両手で包み、救いを求める顔で治の顔を上に見る。
「だ、だめ・・・。」
治が、顔を赤らめて言う。
「と、とにかく、そんなかわいすぎる仕草なんでするなよ!」
「ううん、するわ!」
「・・・・・・」
治は、黙ってしまった。
「マイナスをプラスに変えるとはな。」
と、声がして、二人ははっと前を向いた。いつのまにか、葛飾先生が立っている。
「マスク!今すぐ!」
険しい声で怒鳴る。そして、二人にマスクを差し出す。二人は、黙ってマスクをする。
「うう・・・。」
人知れずの目立たない場所で、ハルスは、うめき声を上げる。誰にも命令されていないのに、そのどろんとした黒い目は何かを訴えるかのように、少し赤みを帯びている。
「お・・・・・・・・さむ・・・・・」
「なんだ、こんなところにいたのか。」
後ろからボスの声がする。ハルスは、黙って振り向く。
「さあ、今日は初めてのデートだよ。」
平日白昼堂々のデート。しかも、嫌いな人と。
しかし、操られている彼女は、その黒き心を以って、従順に従うのみであった。
なんか自分でもはらはらしてきます。
自分の書く小説って、自分も考えていないほうに話が進みます。
なので、当初考えていた、すごく感動的なエピソードも、
なしになるかもしれませんw
とりあえず、第19話から、戦いが始まります!多分・・・。