第17話 王族
「そうか。」
校長室で、黒いソファーに座って向かい合っている、葛飾先生と校長先生は話している。
「あさきゆめみしグループは、私もよく知っている。」
校長先生が、口を開いた。
「なぜなら、私もかつて入っていたからな。」
「ええっ!?それ、本当ですか!?」
葛飾先生は、思わず身を乗り出す。
「確かに、あのつぼについては不確かなところもあるが、その効果ははっきり立証できた。しかも、操られているのはうちの生徒だ。これは、警察に通報しなければいけない。」
「しかし・・・。」
「説明会も開く。」
「しかし・・・。」
「どうしたね。」
「そんなことを言っても、みんな信じてくれますでしょうか?」
「信じてくれるだろう。警察の中にもあさきゆめみし対策本部が置かれているそうだし。」
「で、でも・・・。」
「信じてくれる。」
校長先生が明言すると、葛飾先生は黙ってしまった。
「失礼します。」
と、葛飾先生は、席を立って校長室を出て行った。
校長室の前では、数人の生徒が制服に着替えて待っていた。ドアを開けた葛飾先生は、彼らの姿を見るなり、言った。
「授業。」
操られて不良グループ「あさきゆめみし」の本部に連れて行かれたハルス。
「やあ、かわいこじゃねえか。」
細い裏道、袋小路の端っこに隠れるように集まっていた不良グループは、揃いも揃ってハルスを歓迎した。
「名前は何だ?」
一人の不良が、尋ねる。
「気を付けろよ。こいつ、魔法使いだからな。」
連れてきた4人のうちの一人が言った。
「それ、マジ?」
ボスらしき真ん中に座っていた人が言った。
「本当であります。」
「そうか。それにしてもかわいいなあ。こっちにきなさい。」
あぐらをかいているボスに対し、ハルスは黙って近づいた。
「座りなさい。」
ハルスは、座る。
「肩に抱きつけ。」
ハルスは、ボスの左肩に抱きついた。
「好きと言え。」
「好き。」
「はっはっは・・・、俺も美女とは無縁だと思っていたが、こうやすやすと手に入るとはな・・・。お手柄だ。褒美は、後で会議する。」
4人組の中の一人が言う。
「あの・・・、その目的で連れてきたわけではありません。」
「お?」
「人質です。」
「うん?」
「あの・・・昨夜、決定したのではありませんか。あの目的のためだけに、一ノ谷中学校から人質を一人、拝借してきました。」
「そうか、あの決議か・・・。かわいいから永遠にそばに置きたいもんかなあ・・・。」
その言葉を聞き、ボスと話していた不良は、しばらく考えてから言った。
「俺に考えがあります。」
そして、彼は、その考えをボスにささやいた。ボスは、にやっとした顔で、ささやいた部下の両肩を両手でふさぎ、
「それは妙案だ!」
と、言った。
「とりあえず、一斉下校することになった。」
葛飾先生が、教室にクラスの生徒達を集め、臨時HRで言った。
「必ず一人で帰るな。できるたけ3人以上のグループで帰る事。以上。では、帰る準備をしなさい。」
クラスメート達が帰る準備をしていて、教室が雑然となっている中、治は不安そうな顔をしていた。
ハルス。大丈夫か。俺の事僕僕ばかり言いやがって、自分の事は保障していない。しかも、その挙句ハルスと呼べとか言って。訳分かんない。
「ちょっと、聞こえてるわよ。」
隣にいた、花尾武子が言った。
「ち、ちょっと、何でもないよ。」
「わかった〜、治君ってハルスのことが、」
「違う!」
「準備!」
いつのまにか、治の前に葛飾先生が立っていた。
「準備しなさい。」
「は、はい・・・。」
「ちょっと、ハルスは?」
母が、心配そうな顔をして、一人で帰って来た治に聞く。
「さらわれた。」
治は、それだけ言うと、2階に駆け込んで行った。
からっぽの自分の部屋。この部屋は俺の部屋。でも、なにかが足りない。ハルス・・・?いや、あんな生意気なやつは、・・・・・・。
治は、ドアをばたんと閉めた。そして、後ろに背負っているかばんを下ろさんと、机の前に向かう。そして、机の上に一枚の白い紙を見つけた。治は、その紙を手に取って、眺めた。
「お前の大切な人 頂戴する。 悔しければ この紙を逆さまに見よ あさきゆめみし」
悔しいか・・・?治は、自分にそう問いかけた。思えば、あいつはかわいいくせに俺のことを軽蔑する。好きといいながら嘘だったり、それでいてもっと付き添われるのは嫌だ。なのにもういっか会ってからいきなり俺に抱きついて、あいつ・・・。
「悔しくない!」
治は、叫んだ。その声は、部屋中に響き渡った。
「とうだ、応答はないか。」
ここは、いつかの闇。たくさんのモニター画面が積み重ねられており、複数の人が椅子に座って、たくさんのモニター画面の1つでもいいから表示されないか、と灰色の画面を見回っていた。
結局、数ヶ月前に墓場にいるハルスを発見したのたか、なぜかあの後すぐにまた画面が消えて、それっきり。
「とにかく、あっちの世界にいるのは確かだな。」
「はい、そのことを前提で設定しているのですか・・・。」
二人の男が、話している。
「でも、数年もハルス様のことをお探しになる、あなたはとんな目的を以ってお探しになるのですか?」
「・・・・・・この事は、誰にも言ってはいけない。」
「はい?」
「実は、ハルスは我がハーラ国の王族の唯一の直接の血縁者であることが判明した。ちょうど今のハーラ国を治めている王様も病弱でな。後継者争いが起きぬ間に呼び戻しておきたいのだ。」
「はあ・・・」
「誰にも言ってはいけない。」
「そうですか、それでたくさんのお金をご掲示いただいたのですね。」
「追加料金はいるか。」
「いりません。我らがハーラ国の平和に貢献すると思えば、あのお金でも高すぎるくらいであります。」
「そうか。」
男は、黙って、灰色のモニター画面を眺める。もう一人の男は、商売スマイルとしての笑顔を絶やさない。
「訃報です!」
突如、後ろの茶色のドアが開き、ドアを開けた男が言った。
「何だ?ドアを閉めろ。」
「は、はい・・・。」
ドアが閉まる。
「で?」
「はい、我らがハーラ国の王様がご逝去なされました。」
「何!」
「すぐさま、事を急がねばなりません。」
「遺書は?」
「今のところ発見されておりません。」
「そうか・・・。」
訃報を伝えた男は、それだけ言うとその部屋から出ていった。ドアの閉まる音。男が、尋ねた。
「いかかいたしますか。」
「今後の対応は、お前も分かっている通り、より早期の発見だ。」
「はい、こちとら商売者として徹底的な対応を致します。」
「できるたけ早くな。」
「はい。」
一方、こちらはあさきゆめみしの本部。
「キスしろ。」
ボスが言うと、ハルスは黙ってボスの唇に自分の唇を押した。2つの唇が、合う。
「うう・・・。」
ハルスの声帯から、うめき声が漏れる。しかし、その音は小さいが故に、誰も気が付かなかった。
ハルスの目から、微量の涙が漏れる。しかし、目が光った程度であるが故に、誰も気が付かなかった。
「これからお前は俺のものだ。」
ボスが、複数の不良を前に、横の女に対して勝ち誇った声で言う。
「名前は?言え。」
ボスがそう言うと、少女は、ゆっくりと口を開いて、言った。
「おさむ・・・。」
「おさむぅ?女のくせに男の名前なんだな。まあ、奇病者が名づけたんだろ。いいか、今から俺がお前の名前を決めてやるよ。聡子。どうだ、いい名前だろ。」
ハルスは、黒く濁った目を以って、口を以って、言った。
「お・・・さむ・・・・・。」
びりびりびりびりびり。
紙が破れる。
治の机の上の、あさきゆめみしの署名のある手紙は、治の手により、数十の破片と化した。
治は、その数十の破片を、一斉に机の前の窓を開けて投げ捨てた。
「ハルスの顔は、二度と見ない。」
この「居候」シリーズと、漫画「さよなら絶望先生」(講談社)には、ある共通点があります。
なんと、タイトルをテーマにして話が進んでいるんです。
居候第1部は、さよなら絶望先生第1話「さよなら絶望先生」を、
居候第2部は、さよなら絶望先生第2話「帰ってきた絶望先生」を、
それぞれテーマにして書いています。
また、さよなら絶望先生には、タイトルと内容がそくわない場合が多く、
また参考にしているのは空くまでタイトルのみであって、
内容は絶対参考にしていないので、
・・・でも、こういったタイトルのみを参考にしても、ファンフィクジョンに当たるのでしょうか?
タイトルと内容がそくわなくでも、ファンフィクジョンに当たるのでしょうか?
よければ意見をください。
ちなみに、さよなら絶望先生第3話は「トンネルを抜けると白かった」です。
ひきこもりの話です。
とてもひきこもりとは思えないタイトルですし、
第3部も、この「トンネルを抜けると白かった」を参考にして
書いて行きます。
ひきこもりなど、一切出しません。当たり前です。