第15話 水流
「誰。」
ハルスが、自分がかつて座っていた机に座っている少女に向かって、言う。しかし、少女は答えない。
「誰。」
ハルスは、もう一回問うた。しかし、少女は、口をむの字に結んでいる。
「誰。」
ハルスは、再三、いらいらした声で問うた。しかし、少女は、口の形を変えない。じーっとこちらを見つめている。
「誰。」
しかし、少女は、少しも動かない。銅像の如く、ハルスを見つめている。
「あーもー、しれったい!」
ハルスが、左脇に手を伸ばす。
「それはやめろよ!」
ハルスになだれ込もうとする友達を押しとめていた治が、ハルスが杖を抜こうとしているのを見て、飛びかかって制した。
「何するのよ!」
治は、倒れたハルスに馬乗りになっている。そのまま、こちらをじーっと見つめている少女に、言った。
「あ、五十嵐、久しぶりだな。」
五十嵐由美。それが、この無言の少女の名前であった。彼女は、生まれつき体が弱く、よく学校を休んでいた。そして、去年の5月頃から急に体の具合が悪化し、長期欠席になっていた。
「あっ、五十嵐!」
「大丈夫なの?」
他のクラスメート達も、ハルスのことを忘れ、由美の机のまわりにたかった。
「なんなのよ、あいつ!あいつの名前もハルスなの!」
と、怒鳴るハルスの体を、治は廊下へ引っ張っていった。
廊下には誰もいない。
「おい!」
治が、ハルスに怒鳴る。
「お前なー、いらいらするから魔法なんで、高慢な人のやることだぞ!」
「・・・・・・でも、こっちじゃ、魔力を基準に身分が、」
「言っとくけれど、こっちは封建社会じゃないんだ!誰でも自由に暮らせる社会に、高慢な人がやってきたら、みんな抗う!独裁者は、みんな死んでいるんだぞ!」
「あたしは、独裁者じゃない。」
「高慢だからだめだって言っているんだ!」
「だって、あいつ、何も言わないくせにかわいいんだもの!」
「あいつはあいつで、あいつの魅力があるんだよ!その魅力を強調するために性格があったり!」
「それじゃ、あたしの性格はあたしの魅力を強調しているの?」
「高慢なところが、・・・・・・うっ・・・。」
これ以上言ったら、ハルスが高慢であってもいいよ、と言うことになってしまう。治は、ごまかすかのように言った。
「とにかくな、こっちの世界の用が済んだらとっとと帰れ!お前のような人に、この社会は適合しない!」
「もっとはっきり言って!」
「とにかくたなー、・・・」
治が言葉を飛ばすと、ハルスは反射したように左脇から杖を取り出し、治に向ける。
「それ以上言うと?」
治は怯えた顔になる。追い詰められた顔、と言ったほうが正確だろうか。
「わ、わかっております、は、は、いや、ご、ごしゅじ、んさ、」
「何言ってるのよ!ハルスって呼びなさいよ!」
「は、あの、は、ハルス様・・・」
「様はいらない!」
「ハルス・・・き、昨日はご主人様と呼べって・・・。」
「いいから、ハルスって呼びなさい!」
ハルスは、治に命令する。
「は、はい・・・。」
「わかったら、もう一度言いなさい!」
「はい!」
「違う!」
「ハルス!」
しかし、その返事は呪文であった。
「イクスプロージョン!」
爆発。治の顔のすぐ前が爆発し、治の顔は真っ黒になっていた。
「ストリーム」
この呪文を日本誤訳すれば、何が発生したのか分かるはずである。とりあえず、それくらい見苦しい結末なのである。「水流」。治の体は、水浸しになっていた。
「おい!こんな水びたびたの制服で授業に出られるか!」
「罰。」
ハルスは、短く答える。
「とにかく、かわかせ!」
「罰。」
ハルスは、杖を治の顔に向けたまま、ぎっとする。
「は、はい・・・。」
治は、水浸しの姿で、着替えのある保健室に行こうとする。
「ちょっと、通った後はきちんと拭いてよね!」
治が通った後は、ぬれている。
「お前がぬらしたんだからお前が拭けよ!」
「罰。」
「いつもその言葉で終わろうとするな!」
「追加料金が必要なようね。」
「ひっ!」
「雑巾を取ってきなさい!」
ハルスがそう言うと、治は慌てて教室の中に入った。
ぼたぼたぼたぼたぼた
ぼた。ぼた。ぼた。
「零時ハルス。久しぶりだな。」
少し表情を強ばらせて、2年生になって新しく担任となった葛飾先生が言った。葛飾先生は体育の先生で、ハルスが恐れている先生である。
「は、はい・・・。」
ハルスは、先ほど治がしたのと同じ怯え方をしていた。立っている。他の生徒達は座っている。治は体操服を着て座っている。
「とりあえず、私は、なぜ零時治が水浸しになったのか、理由は分かっている。今度何か変なことをやったら、杖は没収。」
「は、はい・・・。」
ハルスはうつむく。この言葉を聞いて、治は内心にやっとした。
そうだ。これを利用して、ハルスに”変な事”をやらせて葛飾先生にあの忌まわしき杖を没収してもらおう。そうすれば、お仕置きなんでないよな。ひひひひひひひひひひひ・・・
ぽかり。治の頭に、一つの強烈なこぶしが降りかかる。
「何ニヤニヤしてんのよ!」
「別にいいだろ!」
治は、我に返る。
五十嵐由美は、葛飾先生が「なんとなく」席を一番後ろに回し、ハルスは再び治の隣に座ることになっていた。
3時間目の体育。初日に限ってあってはならないものはあるものであり、ハルスは少し怯えた表情をして、体操服をして教室を出た。もちろん、杖は教室の机の上に置いている。
体育は、1組と2組の合同で、男は1組、女は2組の教室で着替える。ちなみに、二人は1組に在籍している。
教室に誰もいないのを確認して、掃除道具箱が開く。一つの影が、机を探す。お目当ての机はすぐに見つかった。お目当ては、この棒。この棒さえなければ、俺の計画はきっちり最後まて進行する。くくくくく・・・影は、笑った。
「では、これより体育の勉強を始めます。」
葛飾先生が、生徒達全員を整列して座らせ、言う。生徒は、1組、2組、それぞれ30人くらいいて、合わせて約60人。こんなに多くの子供達をきちんと統括してのける葛飾先生は、元不良だったこともあり、その怖い顔でみんなをひびらせるのである。心理戦は、得意中の得意。その心理戦を前にして、ハルスの杖まて震えてしまった。なので、生徒達はみんなおしゃべりをしたりしない。みんな、まっすぐに先生の方を見ている。
「では、今日する事は、まず校庭を1000周。」
「えー!」「なんだよそれ!」「おおすぎ!」と、抗議の声が持ち上がる。しかし、葛飾先生はその迫力を以って制した。
「今日で全部終わらなければ次の体育に持ち込む。」
「ひ、ひぃ〜・・・」
生徒達は、渋々走り出した。
やっと100周を走れた頃、3時間目は終わった。
「何だそれは。あと9回もの貴重な体育の時間が、それにつぶれる計算になる。だらしない。」
生徒達は、へばってて抗議する元気もない。それを見て、葛飾先生は言った。
「あいさつはいい。解散。」
さすかに自分でも多すぎたかな、と少し思い直す葛飾先生は、まあそれでもいっかと思う。と、運動場に入っていくたちの悪そうな4人の男が見えた。全員、黒いサングラスをしている。
「誰だ!入学許可証は?」
しかし、次の瞬間、葛飾先生は、その4人の男の顔ぶれを見て、凍りついた。一番前にいた男が、言った。
「よう、久しぶりだな。」
それから、後ろの一人が一本の棒を一番前の男に渡すと、一番前の男は、その棒を葛飾先生に向ける。果たして、それはハルスの杖であった。
「な、なんで、それを・・・」
ハルスは、びっくりした顔で立ち上がる。
「よう、かわいいな〜。」
一番前の男は、杖の先をハルスに向けて、勝ち誇った声で言う。
「魔法さえ使えなければ、こっちのもんさ。」
「中身は面白い」っていう意外な好評が来るようになりました。
もっと面白くなるよう努めていきます!
評価は、
作品評価:高いほう
文章評価:最悪
でした。濁点には自分でも注意しているつもりですが、
知らないものは知らないんです。
校正する人を付ければ?という意見もありましたが、
してもらえそうな人は身近にはいません。
まあ、完全無欠の小説はありませんので、
神様がえてして僕にそうしたんだと思います。
(ちょっと作品評価を自画自賛的な・・・)
ちなみに、ハルスはどっかで聞いた様な気がしますが、
なんとなく付けた名前です。
で、何だっけと思って調べて見たら、
・・・・・・画家の名前でした。
こ、これ、偶然ですよね・・・・あはは・・・ってわけでして、
ハルスの特技を「絵を描くこと」にせさるを得なくなっとります。(笑)