第14話 逆吊
「なんだよお前!」
治は、いきなり自分に抱きつく少女の頭を、ぼかりと殴ってあけた。
「なくらないてよ!」
少女は、大きな声で言う。
「・・・ああ、そっか、忘却術かけていたもんね。」
少女は、独り言のようにつぶやき、棒を治の顔に向けて、言った。
「リメンバー」
そう言われると、治は、目の前にある物体を認めた。はたして、それはかのハルスの顔であった。
「は、はるす?」
治は、その驚きを隠せない。しかし、はっと我に返る。まるで前世の出来事を引き出すかのように、尋ねた。
「あいつらって、誰だよ!」
「今は説明する時間じゃないわ。それに・・・」
「寄るな!嘘だろ!」
「嘘・・・・・・。」
ハルスの顔が、赤くなる。
「確かに、いつかそう言った記憶はあるわ。でも、」
「しばらく学校を空けといて、しかも俺に忘却術まてかけやがって、それはないだろ!」
「だってぇ・・・。」
「好きでもない人に好きって言うよりも、友達のほうがなじみやすいんだろ!」
「ええ、でも・・・。」
ハルスの様子は、なんか落ち着かない。以前の時より様子が少し変である。
「負けたのか?それで、俺に、」
「ううん、勝ったわ。」
「で、あいつらって誰だ?」
「それは・・・、人間の悪を司とる組織。無差別に、普通の人々に魔法をかけて、操って悪い事をさせる。よく、こっちの世界でも、なんでやったのかわからないって、色々聞くでしょ。」
たまに見るニューズで事件の報道の時、容疑者がこう言っていたのを何回も聞いた事がある。
「無差別犯罪教唆組織?」
「ええ。」
「なんだよそれ。なんのためにあるんだよ。」
「その目的は、あたしにもわからない。組織のボスを問いたためでも、上の者に言われた、とかで・・・」
「おいおい、また忘却術をかけるつもりか。」
「そこまでしないわ。こっちも一応全部終わって解散したの。」
「それで?」
「目的はどうであれ、なくなればそれでいいっていう結論。でも、あたしはそれを許さない。」
ハルスの表情が、急に強ばる。
「いきなり何だよ。つまり俺にも仲間に、」
「違う。」
「じゃ、どうするんだよ。」
「パパとママが何で死んだか、上の者とかを探して、正体を突き止める。」
「はぁ?」
「つまり、こ、この世界の案内役をしてほしくて。」
「この展開は、『はい、上はこの世界にいらっしゃいます』とかじゃないだろ?」
「当たり。」
「おい!」
治は、呆れた顔でハルスに怒鳴る。
「とにかく、もう一回居候をさせて。」
「だめだ!」
治が、ハルスの申し出を断る。
「なんで?」
「とにかくだな、お前は、凶暴な輩なんだよ。そんなやつに座られても困る。」
「ねえ、」
「とにかくだめだ!出ろ!」
治は、ハルスの腕を引っ張る。そのまま、机の前の窓を開ける。2階。そんなものとうぜ魔法があれば何とかなるんだろ、と治はつぶやき、ハルスの体をそのまま窓の向こうへ押し出そうとする。
「とにかくだな、俺を、このしがない俺を、僕呼ばわりするなんで、無礼がありすぎる!いったいどういう教育をしているんだ!」
治が、怒鳴る。
「それに、何で俺なんだよ!もっと他の人を当たれ!他の人を!」
もうすでにハルスの体は逆さまになっていた。治は気付いていなかったのだが、杖は机の上に乗っているままである。ハルスは、慌てた。しかし、足を離してハルスの体を下に落とす権利は、治が持っていた。すなわち、治はハルスの足を、窓の中から掴んでいた。
「入れて!」
「いちいちうるせえな!」
「そ、それに、あたしのパンツ・・・」
「ん?」
スカートが逆さまになっているので、スカートも下めかげて向いてきたのである。
「嫌!」
「離すぞ!」
「離さないて!」
「じゃ、この家から出ていくと誓え!」
「嫌よ!治と一緒にいる!」
「だめだ!出ていけ!誓え!このパンツにかけて!」
とんでもない剣幕であった。その剣幕にハルスが巡り会うのは、初めてである。
「治君・・・。」
急に、声が柔らかくなった。
「なんだよ、いきなりおとなしくなりやかって!落とすぞ!」
「・・・・・・あっ、あたし、空飛べない。だから落とさないで。」
「何でだよ!魔法使えるんだろ!」
「杖があればね。」
その言葉に、治は、自分の机の上にある杖に気付く。なんとなく悪い事をしたなと思った彼は、ハルスの足を引っ張って室内に下ろす。
ハルスは、部屋に入るなり、机の上の杖を取り、治の股間を蹴り、倒れた治に杖を向けて言った。
「逆転。」
そう言うと、にんまりと笑った。
「今、相手を殺められるのはどっち?」
治は、冷や汗を流して、怯えた声で言った。
「は、ハルス様・・・」
「違うわ!」
「ひっ!」
「ご主人様よ!あんた、僕でしょ!」
久々に僕扱いされた。
「僕のくせにご主人様に抱きつかない!ご主人様に抱きつかない僕は、いるはずがないわ!」
ハルスは、さりげない内容を、怒鳴った。
「は、はい・・・」
治は、顔を真っ青にして、怯えた声で言う。
「分かったら抱きつきなさい!」
「は、はい・・・。」
治は、機械的にハルスの体に抱きつく。
「こら!もっと強く!」
「は、はい・・・。」
手が震えて、もっと弱くなる。ハルスは、そんな治の額をぶつ。治は、再度倒れる。
「とにかく、居候させてよね!」
「は、はひ・・・」
治は、怯えた声で言う。
「これだから男は、といつもこいつも弱いんだから。」
その原因が自分であることに気付かないハルスは、つぶやく。
「それで。」
母が、言う。テーブルには晩御飯が並べられている。4つの椅子が左右2つに分かれており、片方に母、もう片方に治とハルスが隣り合って座っていた。
ぶるぶると箸を掴む治の肩を、ハルスは叩く。治は、びくっとして振り返る。そんな様子を、母はくすくすと見ている。母は、治に尋ねた。
「女?」
この一つの漢字に、ハルスの頬は赤くなった。しかし、治は、言い放った。
「違う!」
「僕!」
「ひ!」
「まあまあ、二人とも・・・。」
母が、二人をなだめる。そして、ハルスに向かって言った。
「久しぶりね。どこ行ってたの。」
「ええ、それが家の事情でして、」
「そうなの。まったく、学校があるのに迷惑ね。」
その言葉に、治はびくりとなった。
「学校?」
「え?」
ハルスが、その言動に気付く。
「そういえば、ハルス、長期欠席扱いになっていたんだった!」
朝。いつもの通学路なのに、何かが違う。
「なつかしいわね、学校〜」
ハルスが、両腕を伸ばして、歩きながら言う。両腕を下ろして、治に向かって出した笑顔。治は、それも芝居の延長線なんだなと思い、反対のほうを向く。そこにあったものを見て、驚く。
「ひっ!」
「おはよう。」
「そうじゃなくで、何でお前がここにいるんだよ!」
そこにいた人物、それは、花尾武子であった。
ハルスがいなくなって以来、治にしつこくつきまとうようになり、ストーカーのあだ名がついている。
「あら、久しぶりね。」
余裕の表情をハルスに向ける。ハルスは、憎たらしい顔になって、言う。
「久しぶりもなにも、あんたが勝手に言っているだけでしょ!」
「みんな、なつかしかっているわ。あなたのこと。きっと、学校では恋愛どころではなくなっているでしょうね〜。」
「くっ・・・。」
武子の予測は当たった。教室に入ると、生徒達が全員ハルスのもとに詰め寄った。
「どこ行っていたんだよ!」
「行くなら一言言えよ!」
その全ての言葉を、ハルスはつき飛ばす。そして、治の手を引っ張り、二人がかつて並んでいた机に向かう。
「あれ・・・?」
ハルスが座っていた机に、一人の少女が座っていて、向かい合ったハルスをじーっと見つめている。
エロシーンを書いてしまいました。
エロシーンを書くのは初めてですが、これでエロシーン?とか思うくらいしょぼいです。
とりあえず、これはあくまで脇役(?)ですので、本題に入ります。
この小説のシャンルの件ですが、恋愛とSFとファンタジーのどっちにしようか迷ったのですが、小説家になろうには、複数のシャンルを選ぶ機能はありませんでした。なので、1つにしなきゃ・・・
ファンタジーは1番目に除外しました。SFと恋愛とどっちにしようか迷いましたが、恋愛を中心とするのは第3部にしようか、と、とりあえず後回しにしまして、前作「居候」を受け継いで、とりあえずSFにしました。
・・・そもそもSFとファンタジーの明確な違いが分かりませんw