第12話 記憶
「いてえよ、頭。」
あたまをなずりながら、車に戻る3人に付き添う治。隣で歩いているハルスが言った。
「ふったほうが悪いのよ。」
「何だと!おまえが勝手に勝手なことを言っただろ!」
「まあまあ・・・」
かおるが、哀しそうに二人をなだめる。
「治君。」
いきなり、女の子が治の名前に「君」を付けたのに対し、ハルスは警戒的な態度になった。それを無視して、かおるは治に言う。
「今まて治君にだけは言わないてって言われていたんだけと、死んだから言うわ。檸檬ちゃん、魔法使いなの。」
「えっ!?」
ハルスも、驚いて話に耳を傾ける。
「小学校の時、檸檬ちゃんは、あたしを助けてくれたの。魔法で。あたし、最初は怖かったけれと、次第に慣れていって・・・、」
「ちょっと待てよ、それはクラスのみんなも同じなのか?」
「ええ・・・。」
「それで、みんなのハルスに対する態度が普通だったんだ。」
「ええ。檸檬ちゃんはよほど治君の事が好きだったのね。治君にだけは言わないて、って言ってたわ。」
「・・・・・・」
「魔法を自分のためだけには使わないて、魔法を使ってあたし達をいじめるような事もなかったから。」
衝撃の真実に、二人は驚きを隠せない。
車に乗って一ノ谷公園に戻る治とハルスであったが、なんか釈然としない。
「ねえ、檸檬とあたしととっちがかわいい?」
「今はそんな会議している時間じゃないだろ。」
「わかってる。」
車の外は、もう既に一番星が見えていた。治は、窓から外を眺める。助手席のかおるは、そんな治を眺めていた。執事は、車を運転している。
「遅いじゃないの。」
母が、治とハルスを出迎える。
「特にあんたは居候なんだから、色々手伝いなさい。」
学校に入学することになったハルスを、母は恨めしそうな目で見つめる。その視線に気付いたハルスは、ぶいと横を向く。そして、言った。
「僕。あたしのかわりにやってよね。」
あちゃー、また僕か。
今日は、土曜日。ハルスは、無理やり治の手を引っ張って、二人して一ノ谷公園のベンチに座って足をぶらぶらさせていた。治は、そんなハルスを見ようともせずに、ハルスの反対側を眺めていた。プランコで遊んでいる男の子達。縄跳びをしている女の子達。
「ちょっと、治!」
ハルスが、治の肩をつねる。
「いてえよ!」
「ねえ、何で私の事嫌いなの。」
「お前が勝手に無理やり好きとか言わせるからだろ。」
「それだけ?他にもあるでしょ。れ・も・・・」
「言うな!」
「ってことは、死んでもその人のことが気になるの?」
「・・・うん。」
「変。人って、変。もう会えない人のことを考えているなんで、変。死んだからもうどうする事も出来ないでしょ。」
「お前は。」
「うん。もう済んだことなのに、時々思い出すの。」
「誰を。」
「ママとパパ。」
「病気で。」
「ううん、戦争よ。」
「戦争?」
ハルスは、それだけ言うと、下をうつむいて黙ってしまった。治の頬が少し染まる。
「おい!そんな仕草するなよ!」
「なんで?」
「そりゃ、か、か、か・・・・・・・」
「かわいいから?」
「違う!か、か、か・・・・・・かっこ悪いから。」
「そう。」
なぜかいつもの「お仕置き」の言葉は一句もなく、彼女は下をうつむいたまま。よっぽとショックだったんだろう。治は、そんなハルスがかわいそうになってきた。斜めになっているハルスの背中を、手でなする。
「教えてくれよ、君がここに来たのは、別の理由があるだろう。教えてくれよ!」
治の言葉に対し、ハルスはしばらく考えてから言った。
「実は、あたし、治の事好きでも何でもないの。」
「そんなのこっちからお断りだよ!」
「あいつらから逃げるため・・・・・・。」
「なんで俺のことを好きになる必要があるんだよ!」
「ここの世界の人たちと仲良くなったら、あいつらも、見逃してくれると思って。」
「あいつら?」
「魔法使いは、魔法の使えない人たちと仲良くなるとろくなことはないと考えているの。普通の人たちと仲のよい魔法使いに関わっても、ろくなことはない。」
「・・・・・・」
「はじめは、あたしもそれを我慢していた。でも、それは間違いだってことに気付いたの。」
「・・・・・・あいつらって誰だよ。」
「それは・・・今ここでは言えない。」
「とにかくな、お前は、仲のよいってことが、恋人以外でもう一つあるだろ。」
「何?」
「友達。」
「トモダチ・・・」
「最初からそうすれば俺も敬遠しなかったよ。」
「・・・・・・」
「とにかくな、あいつらとやらと、俺も戦っていい?」
「だめ。」
「なんか本で読んだ世界と違って、生身で感じるのは・・・」
「面白いから戦うんじゃなくて、本気で戦うのよ。」
「・・・・・・」
「いいからあんたは普通通りの生活をしていきなさい。」
「・・・それじゃ、女の子一人であいつらと戦うと言うのか。」
「いいえ、仲間もいるわ。それも言えない。」
「どこにいるんだ。」
「本部はこの世界にいるという説が有力だわ。」
「ここのどこ?」
「言えない。」
「そんなにとんでもない組織なのか。」
「ええ・・・・・・。」
ハルスは、再びうつむく。
「じゃ、お前のママやパパも、」
「あいつらに。」
「友達もみんな。」
「あいつらに。」
「訳分かんねえ。」
「それで、あたし、独りぽっちなの。そんな中、あたしと同じ過去を持つ人たちと出会って、色々話した結果、あいつらに復讐することにしたの。」
「そっか。」
「・・・さて、やりましょうか?」
「何を。」
「忘却術をあんたにかけるのよ。あたしに関する記憶全てと魔法使いの存在を。」
「ええっ!?」
「覚えられていたらめんとうだから。」
「ち、ちょっと、友達でもできない?」
「当たり前。」
「そ、そんな・・・。」
「みんなで決めたことなの。知られたら、こうしなければいけないって。」
ハルスの声は、大人しみていた。ハルスは、そのまま杖を治の顔に向け、言った。
「オリビション!」
「あら、おかえり。あら、ハルスはどうしたの。」
玄関で、母が治を出迎える。
「はるす・・・?何それ。」
「え?うちに居候した、あんたの女の子。」
「知らない。」
治は、そう言うと、黙って2階に向かった。階段をのぼって行く足音が聞こえる。
「治ーーーーー!!!」
母が、上に向かって怒鳴るが、応答はない。
夜。治は、ベットで横になる。ベットから、自分以外の女の子のにおいのするのを覚えた。しかし、彼は、そんなにおいをかいた事もなく、そのまま眠りに落ちた。
「・・・、待ってくれ!」
「いやよ!」
一人の少女を追いかける夢。その少女は、姿が見えない。何もない、虚無の大気に向かって、おいかけっこをしている。
朝。治は、起きた。ベットの上で体を直角に曲げて、言う。
「夢か・・・。」
眠たそうな顔をし、それからあくびをし、両腕を伸ばす。
「そういえば、なんか桃色の女の子、いたっけ・・・あ、夢か。」
見てもいない夢を夢と断定し、彼はそのまま机に向かい、今日の学校の準備をする。いつもとおりに。
平常な日時。それは、彼にとって貴重な日時でもあった。
第1部「さよならハルス」おわり
第2部「帰ってきたハルス」に続く
ついに最終話です。KMYの、濁点がない事で不評な小説家になろうデビュー作、「居候」の連載も終了しました。今後、新たに小説を立ちあげる予定ですが、それも濁点がない事で不評になること間違いなしです。
ところで、あいつらって誰なんでしょうかね。それは、僕にも分かりません。想像に任せます。
それと、書き忘れましたが、檸檬もハルスの「仲間」であります。
今後、続編とか考えていますが、それはするべきものではないでしょうねw
濁点。濁点。濁点。はぅ。
読んでいただき、本当にありがとうございました。
不評にもかかわらず、無理して読んでいただき、本当に本当にありがとうございました。
濁点なし苦を乗り越えて、ごくろうさまでした。
これから濁点の勉強をさせていただきます、KMYと申します。
次回作を、忌まわしき心でお待ちください。