第11話 墓地
「誰よ、その檸檬とかいう人は。」
「ええ・・・。」
友達が、ハルスに、昔話のように説明しだす。
「あのね、小学生まて同じ学校だったの。それが、中学校に入って一人だけ転校しちゃって。なつかしいわねえ。」
「転校?」
「ええ。」
友達が、そう言うと、ハルスは疑惑を覚えた。
治。こいつ、内通したな。あたしに無断で女と関わったな。許さない。許さない。その暁には、檸檬の首を取って治の前に見せてやる。そして、あたし、言ってやるの。「あたしじゃ檸檬の代わりになれない」って。そしたら・・・
とんでもない考えが、彼女の中で渦巻いてゆく中。
「今から国語の勉強を始めます。」
富岡藤男国語担任が、教壇(みかんの箱の)に立って言った。
「その前に、一つ連絡があります。実は、緒方檸檬の執事と名乗る人から口頭で連絡を頂きました。今日放課後に一ノ谷公園に集まってほしいと。」
「集団誘拐ですか?」
由香がはっきり言った。しかし、教室の雰囲気には影響しなかった。小学校の時の親友で、そして別れた檸檬と再会できるかもしれない。みんなの目は輝いていた。
「その危険もありますね。宿直の先生に付き添ってもらいましょうか。」
富岡先生は、言った。
放課後。言わすと知れた元檸檬のクラスメートの子供達は、全員集まった。その数、100人。同じ学年の人々もいた。それに対し、黒い車が公園の入り口の辺りで止まった。その車から、一人の男性が出てきた。彼は、立って言った。
「こんなにこんなに・・・。」
子供達の目が、いっせいに彼に注がれる。
「しかし、こちらの連絡ミズでしょうか。全員とは言いませんでした。」
彼は、深呼吸して、続けた。
「指名をしております。」
公園は、一斉にシーンとなった。引率の先生が、尋ねる。
「あ、あの、私は・・・」
「何です、あなたは。」
「誘拐に備えて、引率しているものです。」
敵かもしれない人に対し誘拐とはっきり言う人はいないだろう。ここで紹介するが、今日宿直のこの先生は、数学の是川世々子といい、何でもはっきり言う性格の持ち主であった。それがため、殺人の現場を見て犯人に口止めされて警察に尋問された時も、「紀伊伊周に、言ったら殺すと言われたので言えません。」とはっきり言った。この「紀伊伊周」が犯人の名前であり、迅速な逮捕にこきつけた。これは微妙に嬉しいことである。
「決してそのつもりはありませんか。」
執事が言った。
「わかりました。あなたを含め、零時治、羽生かおるの3人のみをご指名であります。」
「はあ・・・。わかりました。では、零時治と羽生かおる以外は帰りなさい。」
みんなは、渋々と公園を出て行くが、一人だけ粘った人がいた。零時ハルス。
「ちょっと!治!かおるとデートするつもり!?」
「ちょっと、そのつもりは・・・帰ろよ。」
「やた!絶対やた!あたしも行く!」
治は、指名という名の絶対的条件を以って、ハルスに抗議した。
「あのな、車は小さいんだよ。我慢してくれよ。」
「やた!」
「あんなこと言っています。先生。」
それを聞いた是川先生は、しばらく考えてから言った。
「わたしの代わりになれるかもしれませんね。魔法使いですし。」
そのことを知らない執事の前ではっきり言った。
「ちょっと、先生!そこまてはっきり言わないてください!」
「ですから、私より強いから任せられるんです!それに、私もめんとくさいんです!」
「先生より強い生徒に先生役を押し付けないてください!」
治と是川先生は、口論を開始した。
「早くしてください。」
執事が、その終結を促す。
「もう・・・しょうがありません。」
治が、くたばった。
「それでは、この3人で結構ですか?あなた抜きで。」
執事が言うと、是川先生はごくりと頷いた。
3人が車に乗るのを見届けると、是川先生は学校に戻った。
公園は、空っぽになった。
「ちょっと、治!」
「ひっ!」
車の中で、ハルスは治に怒鳴る。
「あたしと武子とかおると檸檬と、誰が好きなのよ!特に檸檬は将来結婚するんでしょ!」
「なぜそれを!?」
「本に挟んでいた紙を友達に読んでもらったの。」
「いつのまに!てか覗くな!」
「うるさいわね、最近の男は。」
「うるさいのは女だ!嫉妬しやかって!}
「嫉妬じゃないわ!」
口論が、続く。続いている間に、車は大きな霊園の前に止まる。辺りを見回して、治は車を運転していた執事に尋ねる。
「あの、ここはどこですか!」
「はあ・・・岡田家は岡田商社を経営している大財閥でございます。それで、・・・」
「大財閥じゃなくて、なんでここに連れてきたんですか?」
「は、はい。じ、実は、申し上げにくいことなのですが、檸檬様はご逝去なされました。」
「はい?」
かおるが、話に口を差す。
「もう一回言ってください。」
治が言う。
「ですから、檸檬様は先週に、ご逝去なされました。死顔は、笑顔でした。会いたい、会いたい、とうめいておられました。治様とかおる様は、遺書にてご指名なされていた二人でございます。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は、黙ってしまった。
「とりあえず、お墓参りを・・・。私がご案内いたします。」
「本当にあれでよろしいのでしょうか?」
別の執事が、一人の少女に尋ねる。少女は、着物を着ていて、洋風の椅子に座っている。丸いテーブルがあり、少女とテーブルの横には窓がある。その窓からは、墓地が見えた。反対側には、ドアと執事。
「よいのです。」
あきらめた口調で、少女が言う。
「でも、檸檬様、檸檬様の幼なじみにまて死にましたと伝えるのは、よい心持ちが致しません。」
「よいのです。」
檸檬は、執事のほうを振り向かず、窓辺のほうを向いている。窓の向こうから、檸檬の墓に向かって何かを喋っている少年と少女と執事が見えた。
「少女が一人多いようですけと?」
檸檬が、窓辺を向いたまま尋ねた。
「事情があってのことでしょう。」
「そうですか。・・・実は、あたしも、あたしが死にましたと言うのは嫌なの。でも、しょうがないのよ・・・。」
檸檬の声が、哀しくなって行く。そして、彼女は、テーブルの上にある一本の棒を掴む。
「あたしの人生は、この杖に振り回されてきました。」
「・・・・・・何度もおっしゃいましたが、自分の運命は自分で決めるものであります。」
「・・・・・・」
檸檬は、ひと区切り付けてから、言った。
「私は、これからもこの杖に、自分の運命を委ねます。そう決めました。」
その表情は、哀しそうであった。檸檬が目をつむり涙を流す。その涙は、頬を伝った。檸檬は、その涙を振り切るように、自分の物と偽装された墓に向かっている3人に言った。
「さよなら・・・・・・。」
一方、生きている檸檬に気付かない3人。後ろには建物が存在するのだが、3人の目には、やぶ林に見えた。
「ねえ・・・あたしじゃ、檸檬の代わりになれない。」
「え?」
ハルスにいきなり言われて驚いた治。ハルスは、続ける。
「結婚するんだったでしょ。」
「・・・・・・・結婚はしない。ハルス。」
「そんな!」
そう言って、ハルスが杖を取り出して、治の顔に向ける。
「結婚するって言って!さもないと・・・。」
「!?」
窓で3人の言動を眺めていた檸檬が、気付いた。
「まさか、あの少女も・・・。」
「しない!」
「ゴスト!」
の、呪文と共に、治の体は、直線に伸びていた墓地の通路の端っこまて飛ばされた。執事を含めた3人まての距離は長い。
「とうだ、波線は見つかったか。」
「それが、またであります。」
闇。二人の男が話している。ここは、たくさんの小さなテレビがきれいに積まれていて、全ての電源はついているが全て灰色の画面であった。たくさん置いてあるテレビの下手前には、たくさんのボタン。そして、いくつかの椅子とそれに座っている男達。
「そうか。ハルス・・・いつか、絶対に会おう。」
「私としましても、その願いをかなえるために奮闘しております。」
「そうか。」
男は、そう言うと、ポケットから一枚の写真を取り出した。自分とハルスの写っている写真。ピンク色の髪が印象的であった。あの子、今どうしているのだろう。
「波長をキャッチしました!」
椅子に座っている男が、手を挙げて言った。
「なに!どこだ!」
と言い、男は、一つのテレビの画面を覗く。そこは、墓地。墓地で、一人の少年と戯れている少女。ピンク色の髪。着ている服は水兵の服ではあるが、それは間違いなくハルスであった。