第10話 檸檬
「なんでお前、制服のまま過ごさないのかよ。」
「いいじゃないの。」
治の家の、治の部屋で、制服から黒いマントと白いカッターシャツに着替えようとするハルスに対して、治が言った。
「この服でないと落ち着けないのよ。水兵さんの着るものだし。」
制服は、中学生にもかかわらず、セーラー服。知っている人もいるとは思うが、この服はもともと水兵の着ていた服である。
「だからさー。」
「あーもー、それ以上言うと爆発するから!」
ハルスが、杖を握って、治の目の前に突き出す。治は、それを見て、あることに気付いた。何でだろう。関口先生はともかく、クラスのみんなが・・・
ん・・・。
治がぼーっとしている間、ハルスは着替えてしまった。彼女が、杖を治の頬に突く。治は、はっと我に返る。
「ぼーっとしないてよ、僕。お風呂は沸いてる?」
あーまた僕扱いかよ。こいつ、さっき好きといいながら僕僕かよ。訳わかんない。
「はいはい、洗えばいいんでしょ。」
ハルスが杖を向け、爆発の呪文を唱える。治の体のすぐ近くの何かが爆発し、治は座りこんだ。慌てて、爆発した物を目で追う。黒焦げになった一冊の本。
「これは・・・。」
治は、その本を手に取って眺める。
「僕。」
「は、はい!」
一度僕モードに入ると、すぐには抜け出せないらしい。治は、その本を机の上に置くと、慌てて部屋のドアをばたんと閉めて、外に出た。
部屋に一人残ったハルスは、机の上に、さっき治の置いた一冊の本を見つける。ハルスがその本を手に取り、開く。ばらばらとページをめくっている。さっきの爆発は加減したので、本の外は黒いが中は白い。ハルスは、見たこともない文字を、ばらばらと眺めている。すると、本のページの間から、一枚の紙が落ちる。彼女は、その紙に書いている文字は読めなかったが、その紙にかのハートマークが書かれていた。彼女の嫉妬が、むっくりと起き上がる。
「あたし以外の女。」
ハルスは、つぶやいた。彼女は、その紙を、カッターシャツのポケットに入れる。
「もういたのね・・・、あたし、勝手すぎたかしら。」
この世界に来て、初めての反省である。しかし、その反省もつかの間、紙に書かれたハートマークをふと思い出し、わなわなとつぶやいた。
「あ、あたしよりも先に治を盗るなんで・・・許せない!」
「おさむくん。しょうらいけっこんしようね。」
「うん。」
ゆびきりげんまん。一人の、5歳くらいの女の子。一人の、5歳くらいの男の子。片方の男の子の名は、零時治といった。
「ぜったい、ぜったい、いっしょになろうね。」
「うん!ぼくも、ぜったいれもんちゃんをはなれない。」
春のことだった。春の草原。あちこちには花が咲き乱れ、ちょうちょが数匹か、その花と戯れている。一本の大きな木。小さな丘の頂点となるその木にもたれて、二人は座っているのだった。
「ちょっと!あたしと結婚するんだったでしょ!」
木の後ろから、突然大きな声がする。振り返ると、治の後ろに立っているのは、ピンク色の髪。黒いマント。白いカッターシャツ。ハルスだった。
「ハ、ハルス!?」
「ちょっと、おさむくん!うそついてたのね!もうしらない!」
女の子が、ブイと振り返ると、そのまま走って消える。
「ちょっと、れもんちゃん・・・!!びぎっ!?」
ハルスにその唇を合わされる。キス。治は、頬が真っ赤になった。しかし、その頬を平手で振り払い、言った。
「空気はちゃんと読めよ!」
「二股をする人が悪いの!」
と、ハルスは、脇から杖を取り出し、言った。
「エクプロション!」
「夢か・・・。」
深夜。真っ暗の部屋。治は、横に何らかの感触を覚え、おそるおそる横を向いてみた。ハルスが、くうくう寝ていた。寝顔、かわいいもんだなあ・・・。
僕。治の頭に、一つの漢字が浮かび上がる。こいつ・・・。彼は、一切わいせつには興味はなかったのたが、ハルスのかわいい顔を見ているうちに、我慢できなくなった。
なんだよこいつ。いきなりどこからともなく出てきて、俺を僕扱いして、好きとか言って。許せない。マントやカッターシャツをそのまま寝巻きにしている。きっと何回も野宿したんだろう。(と勝手な妄想)治は、ハルスのマントの左右をつなげる金色のボタンらしきものを外す。マントが、左右に分かれた。そして、白いカッターシャツのボタンに触る。そうだ、事前に、杖を取り上げてしまおう。彼女の左脇に手を伸ばす。しかし、杖らしき固体にはなかなかぶつからない。あった!と、その棒を引き抜くのと、ハルスの目が覚めるのと、一緒だった。二人は、同時にむくりと起き上がる。二人は、体を直角に曲げ、顔を向かい合わせている。
「返して!私の杖!」
「これで魔法を使うんだな。ちょっと貸してみろよ。」
治は、杖の先をハルスの顔に向ける。
「へへ、一度やってみたかったんだよ。」
「何で?」
「だって、お前、いきなり現れてきて、俺の平穏な生活を邪魔しやがって、おまけに告白まてしやがって。おかしいのはとっちだよ。」
「別にいいじゃないの。好きだし。それに、何で同じベットで寝ているの?」
「俺が寝ているとお前が勝手にもぐりこんで来ただけだ。」
「そう。」
ハルスは、澄まし顔をしている。その顔に我慢ならなくなってきた治は、言った。
「エクプロション!」
何も起こらない。沈黙。ハルスは、治が握っていた杖を抜き出し、言った。
「魔法はね、魔力を持っている人でないとできないの。あたしたちの世界では、ほとんどが持っているんだけど、こっちの世界では魔力なんで無縁なの。ほぼ。エクプロション!」
爆発。治は、ベットから転げ落ちそうになる。そこを、ハルスがいい具合にゴスト(突風)の呪文をかけてくれて、治はベットからどんと落ちた。杖を握ったハルスは、杖を治の顔に向けて、言った。治は、怯えた顔をしている。冷や汗をたらたら流している。
「甘い。ああ、甘いあんたに好きって言うんじゃなかったわ。」
「お、おい、もしかし、て、ダイ(die)ってありかい?」
「鋭いわね、その勘。」
ハルスは、微笑をすると、治に対して呪文を言い放った。
「しばらく眠ってもらうわ。スゥン!」
治は、気絶した。ハルスは、フライの魔法で治をベットの上にのせると、自分は治の首ずれずれまて布団をかけ、そして、彼女も睡魔に堕ちていった。
次の日の朝。教室にて、治は、ハルスが他の子供達と話している隙を盗んで、花尾武子に話しかける。
「おはよう。」
「あ、おはようございます・・・」
「あのさ、武子・・・」
「へ、返事は分かってます・・・。」
「そんなに赤くする必要はねえよ。それに、別の話題なんだ。」
「何?」
「あのさ、ハルスは魔法使いって言ってるんだろ?なのになんでみんな敬遠しないんだよ?」
治は、言った。武子は、しばらく困った顔をしてから、言った。
「詮索しないて。」
それだけ言うと、彼女は、深い顔をしてブイと振り向くと、彼女の席のある窓辺へ行った。治は、詮索をするつもりだったが、ここまてあっさり言われるとする気もなくなった。ふと、ハルスのほうを振り向く。友達と世間話をしている声が漏れる。「治」の単語がいくつも出ている。俺に関する愚痴なんだろうなあ。友達は、なにけなく、ハルスを普通の人として明るく話している。なんだよ。クラスメート達。俺に何かを隠している。そうだ、武子と仲良くなって、吐かせよう。治は、そう決心するのだった。
一方、ハルスとその友達は、話していた。
「この紙に、何が書いているの?あたし、読めなくて。」
その紙は、昨日爆発した本に挟んでいた。友達は、それを見つめ、言った。
「おさむくん ちゅうがくせいになったら ぜったいにあいにいくから れもんより だってさ。」
「れもん!?」
聞いた事もない女の子らしい響きに、ハルスは激怒する。
ついに話数も2桁になりました!・・・元気ありません。濁点を色々言われてます。わかりきっているのに、注意されるんです。そんな僕は小説を書く資格なんであるんでしょうか!?
もうすくこの小説の文字数は、第1目標である3万字に達します。字の問題ではありませんが、話の中身ももっと面白くして、濁点があるないが考えられないくらいに面白くなって、みんなに僕の世界を表現したいんです。
濁点馬鹿の僕の小説に、ホワイトライの賞賛の手をください。