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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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3rd day Ⅰ

登校中、風に舞う落ち葉を見ていると、秋だなーと思う……って、そんな現実逃避してる場合じゃない。

「いないか……」

竜華を探して、いつもより早めに寮を出た今朝、だが結果はご覧の通り全く見つからない。

回りには普段登校していても見かけない生徒ばかり、

「ん?」

その中に、見知った後ろ姿を見つけた。

へぇ、あいつこんな早くに学校行ってるのか。

俺はかけよって声をかけた。

「よっす、紀虎」

「ん? おぉ、彰、はよっす」

紀虎は鞄を肩にかけ、片手で文庫サイズの本を持っていた。カバーがかかっていて、何かは分からない。

「彰もこの時間だったのか」

「いや、今日は用事でな、いつもはもう少し遅い」

「用事って何だ?」

「それはな…」

俺は紀虎の隣に並んで歩き、昨日あった事を話した。

「ふーん、卒業した後のことか」

「紀虎はどうするんだ?」

「アタシは大学行く、スポーツ推薦で陸上が有名な所にな」

そうか……紀虎もちゃんと先の事考えてるんだな。

「彰も大学行くなら早く決めた方が良いぜ、推薦もらえなくなる前にな」

「そうだな」

とは言っても、そう簡単に決められるものじゃない。その選択が、そのまま将来の自分に直結するかもしれないんだからな。

せめて何か、目指す理由でもあれば……

「……?」

ふと、紀虎が持っていた本が気になった。

妙な空気(俺だけだが)になってしまったので、話題を変えよう。

「何の本読んでたんだ?」

「ん? コレだよ」

紀虎はページをめくって目次を俺に見せた。

そこには、こう書かれている。


『常敗ピンチヒッター』


「……なんだソレ」

聞いたことない題名だった。感じを見るに、ライトノベルっぽいが。

「え!? 彰コレ知らねぇの!?」

何故かスッゴい驚かれた。

「あ、あぁ……」

引き気味に答える。

「はー、まさかジョウハイ知らねぇ奴がいるとはな」

ジョウハイ? あ、略称か。

けどオーバーだな、その辺歩いてるのに聞けば一人二人は知らないのもいるだろ。

「そんなに面白いのか?」

「マジヤベェよ! アタシあんま小説って読まねぇけど、ジョウハイはハマってな」

紀虎は『常敗ピンチヒッター』の面白さを語った。

なんでも、主人公は野球部の監督。その野球部には一人、万年雑用をさせられる部員がおり、主人公はその部員には隠された力があると信じてピンチヒッターで出して……負ける。

その繰り返しなのだとか。……聞いただけだと全然面白さが分からねぇんだが。

「今度貸してやっから、絶対読めよ!」

「あ、あぁ……」

気押されて返事してしまう。

しかし、ここまでイキイキした紀虎初めて見た気がしたな。



結局竜華は見つからず、紀虎と共に登校したのだった。







よくよく考えれば、竜華は同じクラスなのだから教室で待っていればいずれ来るに決まっていた。

もう少し考えてから行動するべきだったな……

という訳で、俺は教室に到着。すでに来ていたクラスメイトと挨拶した後に自分の席へ、後は竜華が来るのを待つだ―――

「おーい、緑葉ー」

―――誰かに呼ばれた。

声がした入り口を見ると、先生が俺を見て手を振っていた。

俺は席を立ち、先生の所へ。

「なんですか? 大和先生」

「あぁ、ちょっとな」

大和先生。確か3Cの担任で、男性にしては珍しく見える家庭科の教師で、先生にしては珍しい名前呼びを強要する……というか、名字知らない。

最初の自己紹介の時も、黒板に大和って名前しか書かなかったし言わなかった。他の先生に聞いても答えてくれないし、ある意味、この学校で一番謎が多い先生だ。

「一限で使う資料、運んどいてくれないか?」

そういえば今日の一限家庭科だったな。でも、

「なんで俺なんすか?」

「だって緑葉、配当係だろ?」

「あー」

そうだった。俺配当係だったな。

配当係とは、今のように授業で使う資料とかを教室に運んで配ったりする、先生のパシリみたいな係だ。

「そこはせめて手伝いって言おうぜ?」

「最近無かったんで忘れてました」

配当とは言っても、普通の授業でそんな大きな資料そうそう使わないから楽出来るだろうと思ってなった係だからな。案の定、夏休み明けてから今まで係は無かった。

「とりあえず頼むわ、一人だと多いだろうからもう一人と一緒に来てくれ」

「もう一人?」

係は2人一組、男女でなるので、配当係の女子がいるわけで……

……配当係の女子って誰だっけ?

「それも忘れたか」

「はい、誰でしたっけ?」

「俺も忘れた。だから緑葉を呼んだんだ」

じゃあ探しようが無いじゃないですか……

と、その時、

『私です』

後ろから竜華の声が聞こえた。

そうか、もう一人の配当係って竜華だったのか……って。

竜華!?

マズイ、確かに待ってはいたが、まだ心の準備が出来てな……

「じゃあ頼むぜ緑葉、玄平」

……え?

俺は隣に並んだ生徒を見た。

『どうした? 行くぞ』

竜華の声、に変わっている玄平だった。

そうか、もう一人の配当係って玄平だったのか、忘れてたぜ……

「……って、なんつうタイミングでその声なんだよ……」

『ん? どうかしたか彰』

「いや、別に……」

まさか玄平にアレを言うわけにはいくまい。

俺達は無言のまま大和先生の後に続いて家庭科室へ到着。

「それじゃあ頼むぜ」

資料を受け取り、半分ずつ持った俺達は来た道をUターンして教室へ向かった。

「……」

『……』

その間、無言。

周りの騒がしさがよく耳に届くが……つまりかなり気まずい。

玄平が自分から話す奴じゃないのは知ってるし、かといってこのまま無言は耐えられない。係の度にこんな感じだったけか?

『ん? どうしたのだ、彰』

見ていたのを気疲れ、玄平は首を傾げた。

「あ、いや……」

さっきも訂正したばかり、さすがに二回目はまずいな。何か話題を……

「く、玄平は、卒業したらどうするんだ?」

『卒業したら?』

しまった、つい竜華の声からそんな事訊いてしまった。

まさか玄平が答えてくれる訳がないのに。

『そうだな、一応は進学だ』

……あれ?

『詳しく話すと難しいが、生物学方面の大学だ』

最初は言葉も竜華の真似かと思ったが、内容が違う。これは本当の玄平の卒業後の話だ。

というか、生物学とか勉強難しいんじゃ……ひょっとして玄平、頭良い?

『一つ、やりたい事があってな、それにはその道を進むのが良いだろうと思ってな』

へぇ、やりたい事か……俺にも、そういうのが一つでもあれば、今みたいな感じにはならなかったんだろうな。

『そういう彰はどうなんだ?』

うわ、凄いデジャヴ感。声も竜華だから本当に二度目みたいだ。

「俺は……まだ、決めてないんだ」

『そうか……』

昨日ならこの後、竜華に言われた言葉でつい怒ってしまったが、今の相手は玄平。怒ってはいけない。

『……まぁ、そういう者も少なからず居るだろう。卒業と共に就職をとかな』

予想外の答えが返ってきた。

それはやはり、 相手が竜華でなく玄平だから。玄平本人の考えなんだ。

『ある意味ではそれも道の一つだ。必ず大学に行かなくてはいけないものでもない、ならばそこを進んでみるのもいい……!』

途中で言葉が止まった。声水が切れたのか。

両手は資料でふさがり、というか持ち歩いてる訳ないか。

どちらにせよ、これ以上の言葉は期待出来ない。

「えっと……ど、どうもな」

何故か、お礼を言っておくべきだと思った。

「……」

言葉は無く、玄平はただ頷いた。







「あれ? りゅーちゃんおはよ〜」

「あ、あぁ、おはよう奈津保」

「どしたの? 珍しく遅いけど」

「あぁ、実はな…」


三日目に入りました。

幼なじみと妙な空気になってしまった主人公、はたして、仲直りすることはできるのだろうか……


それでは、

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