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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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2nd day Ⅱ

昼休みになった。昨日に続き雀耶さんの周りではクラスメイト達によるランチタイムが開かれている。

俺もまた昨日と同じで、陽斗の席がある方へと来ていた。メンバーは陽斗、竜華、山吹と、俺の四人。席が近くにある黒石は不在だ。

紀虎は……まぁ多分来ないだろうな。体育で竜華に負けて悔しがってたし。

というわけで、いつもの四人なわけだが……ふむ、もう一人増やしてみるか。

席の方を見ると、案の定そこに座っていたのを発見。

「おーい、玄平、一緒に食わねぇか?」

手を振って玄平に声をかけてみた。

「……?」

予想外だったのだろう、玄平は無言のまま首を傾げた。

「お、おい彰、お前何考えてんだよ」

それを聞いた陽斗が俺に追及してくる。

「別にいいだろ? 仲が悪いわけじゃねんだし」

「ま、まぁそりゃそうだけどよ……」

ただ、あまり関わりたくは無いんだろう。

「……」

竜華は気づいたようで、俺を一瞬見るとすぐに視線を戻した。

そう、これは玄平の声を聞こうという作戦の一つ。声を聞くにあたって、一番の近道はやはりちゃんとした友達になることだろう。別に誰かと話せないというわけではないが、それはクラスメイトであるからで、友達とは異なる。まさか本当の友達に対しては、玄平も声水を使わずに話してくれるだろう。

というわけで、まずはこうして気軽に昼食を共にしようという訳だ。

「のんちゃ~ん、おいでよ~」

それを知らない山吹は純粋に玄平を呼んでいる。のんちゃんとは、玄平のあだ名だろう。

「……」

少し思案顔になった玄平はやがて、こくりと頷くと昼食の入った袋と水筒を持ってきた。

近くにあった机をくっ付けて俺と竜華の間に席を作ってそこに入った。

席についた玄平はまず、水筒の中身をフタに注いで一飲みした。

そして、

『お誘いありがとうございます』

雀耶さんの声で、お礼を言った。

あの水筒の中身、声水だったのか。

「お〜、久々に聞いたよ」

山吹が声水に驚いている。まぁ滅多に話さない玄平だからな。

「ねぇねぇ、わたしにも少しちょうだい」

『はい、良いですよ』

玄平はフタに声水を注ぎ、山吹へ手渡す。

結構重要な物だと思うが、案外簡単に別けてくれるんだよな。

受け取った声水を、山吹は一気に飲み干す。

『ぷはぁ、ありがとう、のんちゃん』

すると山吹の声が変わり、竜華の声になった。ただし、口調は山吹なのでスッゴい違和感満載だ。

『おぉ! りゅーちゃんの声だ! すごいよりゅーちゃん! りゅーちゃんの声だよ!』

驚く山吹だが、声水を知らないで竜華のあだ名を知ってる人が聞けば、自らのあだ名を自分で呼んでいるようにしか聞こえない。

「な、奈津保、分かったから大声で言わないでくれ」

現に竜華は恥ずかしそうだ。ただこの中でならその条件に当てはまる人はいないから大丈夫だろう。

『じゃあみんなも変えればいいんだよ〜、そうすれば誰がダレか分からなくなるから問題なし!』

いやそういう問題じゃないだろう山吹。

『皆さんもいかがですか?』

玄平は席を立って自分の席に戻り、鞄の中から紙コップの重なった物を持ってきた。用意周到だな。

「いいのか? 限りがある物だろ?」

『ご心配な…」

玄平は途中で口を押さえて言葉を止めた。声水をフタに注ぎ、一気に飲み干す。

『ぷはっ……ご心配なく、まだ沢山ありますから』

玄平は水筒を振って中身がまだある事を示した。

『ほらりゅーちゃん、りゅーちゃんも飲もうよ〜』

「わ、分かったから奈津保、その声であだ名を連呼しないでくれ」

こうして、俺達四人は声水を口にし、声が変わった。

『みんなで変わるとおもしろいね〜』

山吹は竜華の声、普段の竜華からは想像出来ない言葉使いが多く飛び出してくる。

『オレはあんまり変わってねぇけどな』

陽斗は俺の声、元々あまり変わらないから対した変化は見られない。

『う……やはり、妙な気分だな……』

竜華は陽斗の声、元々アルトよりの竜華だが、さすがに男子の声になると変化が分かるな、雰囲気はあまり変わらないが。

そして、俺はと言えば……

『そういや彰、次の授業何だったけ?』

『……』

『なぁ、彰?』

『……』

自分の声に呼ばれるのは妙な気分だな……

『聞こえてんだろ? 彰』

そっちこそ、次の授業実は知ってるだろうが。

けど答えないとそれまで訊ねられ続けられるだろうしな……

『……がく』

『あ? 何だって?』

絶対聞き取れてた筈な陽斗は手を耳に当てて再度訊ねて来やがった。

チクショウめ、昨日の仕返しか?

『数学だよ! 数学!』

『あっはっはっ! やべ、面白過ぎる!』

俺は山吹の声に変わっていた。まぁ今までの流れを見るに残ったのはそれだけだったけど、まるでヘリウムガスを吸った後みたいだ。

『あっはっはっ!』

陽斗はそれを聞いて大笑い。声は俺のなので俺が笑ってるようだが、笑われてるのが俺だから余計ムカつく。

だからって何か言おうものなら、更に笑われるだけだ。

くそ、早く効果切れてくれ。

『ふふふ、皆さんお楽しみのようで何よりです』

玄平まで笑ってる……え?

……玄平が、笑った?

『ですが藍田さん、緑葉くんを困らせてはいけませんよ』

しかも、俺を気使った?

今は雀耶さんの声と口調だが、あの基本無表情な玄平が口に手を当てて笑い、俺をかばった。

今まで他人にそういうことをした所を見たことは一切無かった玄平が……

『でもよ、こんなに面しろ……あ」

陽斗の声が元に戻った。次いで山吹、竜華、俺の順番で効果が切れた。

「ちぇ、もう少し楽しめると思ったんだけどな」

『効き目の切れる時間は人それぞれですからね』

昼食の水として声水を飲んでいた玄平だけが今だ声が変わっている。

「私としては、早く戻れて良かったが」

「俺もだ、つくづく高い声が自分に合わないと実感したぜ」

その時、昼休み終了のチャイムが鳴った。雀耶さんの所に集まっていたクラスメイト達も各々席に戻り始める。

『昼休み終わってしまいましたね、すみませんがわたし、少々やらなくてはいけないことがありますので先に失礼します。お誘い、ありがとうございました』

本当に雀耶さんが言いそうな台詞を残して、玄平は席を立って荷物を持ち自分の席へ戻って行った。

『……』

それを確認後、俺達は肩を寄せ合い、玄平に聞こえないよう小声で話した。

「今玄平の奴、笑ったよな?」

「うん、しかも普通にだよ。しぐさだけとかじゃなくて」

普段の玄平なら、声と口調は変えるが笑いのしぐさは一切なく無表情。だがさっきのは、どう見ても笑った顔をしていた。

「なんだ? 今日はこれから雪でも降るのか?」

「それはまだ季節的に早いと思うよハルくん」

「いや、奈津保、今のはそういう意味で言ったわけではないと思うんだが……」

それぐらい、珍しいということだ。

いったい何がそうさせたんだ? 昼飯に誘ったことか?

もしその程度で良いなら、これからも誘ってるか。

ひょっとしたら、もっと俺達と仲良くなれば、本当の玄平の声が聞けるかもしれないからな。







特に何のへんてつも無く、午後の授業が終わり放課後となった。

用事も無いし、誰か誘って帰るか。と思って教室内を見回していると、陽斗を見つけた。

「陽斗、帰ろうぜ」

「あ、ワリぃ彰、オレ先生に呼ばれてんだ」

「? 何かしたのか?」

「行きたい大学がな、今のままじゃヤベぇって言われてな」

「……」

大学か……

「ん? どうした彰?」

「……いや、別に、じゃあ他当たるわ」

「おぅ、じゃあな」

陽斗は鞄を持って教室を出て行った。

「……」

そうか、陽斗も先の事決めてるんだな。

それに比べて、俺は……

……やめよう。今考えるのは、誰かと帰る事だけだ。

「緑葉くん」

後ろから声をかけられた。声で誰か分かったけど、振り返り答える。

「どうしたの? 雀耶さん」

「良ろしかったら一緒に帰りませんか、わたし達と」

見れば雀耶さんの隣には竜華が立っていた。

「て、いつの間に2人はそんな仲良しに?」

覚えている限り2人が話しているのは昨日の放課後の時だけだ。

「今日の体育の時、少しな」

「竜華は凄いんですよ、チームをまとめる統率力に的確な指示、加えて自身も運動神経抜群なんですから」

「いや、私一人が凄いわけではない。雀耶達皆が頑張ってくれたからの勝利だ」

「……」

2人共、既にお互い名前呼びするほどの新密度ですか、竜華はともかく雀耶さんの名前呼び捨て呼びとか珍しすぎる。

今日の体育になにがあったんだ……

まぁ、答えは出ないのは分かってる。今はせっかくのお誘いを無駄にしない事だ。

「帰ろうか、二人とも」

鞄を肩にかけて先陣を斬った。

その時、

「朱井さん、ちょっと良いかな?」

雀耶さんと呼びとめる声、三人でそちらを見れば、そこには黒石がいた。

「わたし、ですか?」

「うん、ちょっとコッチヘ」

黒石の後に続いて雀耶さんは教室の端へ行ってしまう。

「何をしているんだ?」

「さぁ、サプライズの説明とかじゃねぇか?」

黒石が何か書いていたのは知っている。多分それに関わる何かだとは思う。

2人は小声で何かした会話している。こちらにその声は聞こえない。

「――――――!?」

少しした時、雀耶さんの顔に驚きの表情が見えた。

「――――――?」

「――――――」

それから一言ずつ話すと雀耶さんは俺達の所へ、黒石は教室を出て行った。

「すみません2人とも、わたし用事が出来てしまいまして、一緒に帰れなくなってしまいました」

申し訳なさそうに頭を下げる雀耶さん。

「そうか、だが用事ならば仕方が無いな」

「すみません、竜華、緑葉くん、また明日です」

再び頭を下げ、雀耶さんは教室を出て行った。

「彰、仕方が無いから、私達だけで帰るぞ」

「あぁ、そうだな」

用事とは、明らかに今の黒石との会話が関係しているだろう。今だって雀耶さん、黒石が行った方向に向かってった。

雀耶さんのさっきの表情も気になるし、黒石の奴、何を吹き込んだんだ?


ここを書き終わってから冷静に考えましたが……

小説だと声が変わったとか分かりにくい! と思いました。

しかし、これはこれで必要な伏線ですし、分かりやすいようにしておいたので、どうかご勘弁のほどを。


それでは、

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