last~epilogue~〇☓△☐
気が付いたら俺は、元の場所に戻っていた。
「戻って来たか」
俺の前には黒石と、いつも最後に現れる少女が立っていた。
全身白色の服に身を包み、明るい茶色の長い髪を頭の後ろで一本結びにしている。
「今更かもだが、この子は誰なんだ?」
「……」
少女は手話で答えてくれだが、所々しか解読できず、あまり伝わらなかった。代わりに黒石が答えてくれた。
「友情出演、ってやつか。これから先の未来、あるいは過去の時間帯で、彼女の物語が伝えられることがあるかもしれない。その前にここで少しだけ出てもらったって感じだ」
「……」
少女の手話が黒石に向いた。もちろん解読は出来ないが、なんか、怒っているように思えた。表情には出てないけど、そう見える。
黒石はそれをスルーして、俺に問いかけた。
「それで、最後の鍵は手に入れたか?」
「……あぁ」
最期の鍵、それを持っているのは―――俺だ。
「芸術の秋。スポーツの秋。読書の秋。そして食欲の秋、多くのことがやりやすい秋という季節故にできた言葉だが、彰は、これからの自分の道を選択しなくちゃいけなかった……言うなれば、選択の秋」
その時、俺の目の前に光が生まれ、両手で掴むと何かを形作った。
雀耶さんから貰った、銀杏の葉
紀虎から貰った、松ぼっくり
玄平から貰った、楓の葉
龍華から貰った、どんぐり
そして、これが俺の鍵なんだろう、緑色の葉。
まだ選択していない、秋になって紅葉していない緑色の葉っぱ。なるほど、それらしい。
「これで、普通のエンディングが迎えれそうだな。いいか彰、これから始まる秋は、もう繰り返さない。その時になってもその先に進む。彰の選択に従って多くの秋の中からたった一つに決まるから、後悔の無いようにな」
「あぁ、分かってる」
黒石は手に持っていたノートの表紙をこちらに見せた。そこには鍵穴が一つ書かれていて、それを見た瞬間、俺の手の中にあったものが再び光になって固まり、緑色の鍵に変わった。
「サプライズはこれにて終了だ。お帰りはこちらだぜ」
「……」
少女が手を振っていた。これは手話じゃないとすぐに分かり、俺も手を振りかえしておいた。
鍵穴の前に立ち、鍵を構える。
でも、その前に、
「ありがとうな、黒石」
「お礼を言われるようなことはしてないぞ」
そうか、これはサプライズ、驚かせることが主目的で、俺が驚いてくれればそれで良かったんだよな。
でも、おかげで俺は、これからの選択が出来るようになった。だから、
「それでも、礼を言わせてくれ」
「そういうことなら、どういたしましてと言っておくさ。それじゃあな彰、また学校で」
「あぁ、学校で」
鍵穴に鍵を差し込み、捻った。
すると、鍵穴を中心に光が溢れて、意識が遠くなり―――
―――ナントカの秋…………○○の秋、と言った方が良いだろうか?
とりあえず、そういうものがあるのはご存知だろう。
食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、読者の秋、等様々。
それが何故あるか、何故そう呼ばれているか、ご存知だろうか?
春は桜舞う中、入学、あるいは卒業、出会いの嬉しさや別れの悲しさが交差する。
夏は日が伸びて暑く、太陽きらめく夏休みに楽しみや忙しさの混じる。
冬は雪降る寒い日々に、年末と年始、新しさへの慌ただしさ溢れる。
夏のように暑くも、冬のように寒くもない。
虫や動物が冬ごもりの為、春よりも行動が分かりやすくなる。
つまり、何かをするにはうってつけで、気候が良くて、暇が多い。
この先に冬に寒くて動きたくなくなる、ならその前に色んな事をしよう。
そう思った人々が、様々なことをして、その秋の名を作った。
人それぞれ、自分の秋がある……
……俺には、どの秋が一番合うのだろうか?
それはこれから、選択していく先にある、同じものは二つとしてない。
自分の選んだ、秋である―――
これにて、この物語は終わりとなります。
どうせなら、この後最期の秋の話を書こうかとも思ったのですが、それは野暮というものでした。
彼は自らの選択で、自らの秋を歩み始めます。今まで経験した四つの秋……あるいは、それ以外の。あくまであれは選択肢の一つに過ぎません、ただ、可能性として高いことと、彼女たちは彼に大きな影響力があります。おのずと、その選択をしていることでしょう、恐らくは。
紆余曲折あり、この物語も終わりを迎えました。
しかし、この話のある人物の台詞に少々言葉を隠しておきました。それがいずれ、意味を成すこともあり得ますので、その時はまた、彼らと出会えるかと思います。その選択を行えることを願いつつ……
それでは、