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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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2nd day Ⅰ

一夜明け、日直ではない今日はいつも通りの時間に置き、数分で準備して寮を出た。

昨日より遅いといっても十分そこらで、心無しか向かう生徒が多い気がするが、まぁそれだけだ。

季節は秋、落ち葉が散っていて、同じ方向で、学校という同じ場所に向かうだけで、普段と変わりは……

「緑葉くん!」

「ん?」

名前を呼ばれた。立ち止まって振り返ると、

「おはようございます、緑葉くん」

雀耶さんが後ろからやって来て、俺の隣に並んだ。

「雀耶さん、おはよう」

「はい」

並んで歩き出す。

「学校には慣れた?」

「さすがに一日では無理ですよ」

「そりゃそうだ」

「ふふっ、ですが皆さんお優しいので時間の問題だと思います」

確かにクラスメイト達は雀耶さんに優しいし、雀耶さんも誰とでも別け隔てなく話してるから、そうだろうな。

「じゃあさ、次の休みにでも街案内するよ。複数人で遊びながら」

「それはありがとうございます」

俺の提案に雀耶さんは微笑んだ。

これで決定だな、と思っていたら、

「ですが、わたし、この街には少し詳しいんですよ?」

「え? そうなの?」

まさか転校生の雀耶さんが転校先の街に詳しいとは。

「事前に調べたとか?」

「いいえ、確かにわたし転校して来ましたけど、この街が地元なんです」

「へぇー」

親の都合とかで遠くに行ってたんだろうか。

「小学校卒業まではこちらで過ごして、中学へ行くと同時に両親の都合で引っ越したんです」

あっさりと教えてくれた。「ということはさ、雀耶さんと小学校が同じだったのが今同学年にいるかもしれないってことだよね」

通学が楽な為に地元の高校を受けようと思う人、一人くらいいそうだな。

「そうかもしれませんね……ですが」

急に、雀耶さんの声のトーンが落ちた。

「どうしたの?」

「……実はですね、子供の頃、ちょうど小学生の間の記憶が思い出せないんですよ」

「え……?」

記憶が、思い出せない?

「わたし、中学生の時交通事故に合いまして……その時に頭を強く打ったらしく、昔の記憶が思い出せないところがあるんです」

「……」

交通事故で記憶喪失。知り合いに本当にそうなった奴を知っているから、信じられる。

まさか、雀耶さんもそうだったなんて……

けど、分からない事が2つある。

一つは、

「小学生の時だけなの?」

「はい……何故かそこだけ靄がかかったようでして、何か、とても大切な思い出もあると思うんですけど……」

雀耶さんは顔を俯かせてしまった。それはそうだ、こんな事言いたい訳が無い。でも俺が思い出させてしまった。

何か、フォローしないと……

「だ、大丈夫だよ、きっと」

「え?」

少し顔が上がり俺を見た。

「記憶喪失っても、完璧に忘れた訳じゃないんでしょ? だったら何かをきっかけに思い出せるさ、きっと」

「緑葉くん……」

雀耶さんの顔が真っ直ぐ上がり、

「はい、ありがとうございます」

にっこりと微笑んだ。

その顔に、思わずドキッとした俺は、

「い、いや、別に、普通のことだよ」

冷静を保ちつつ、

「と、ところでさ」

もう一つの疑問について訊いてみた。

「はい?」

「何でその話、俺にしてくれたの?」

今分かったように、そんな軽い話じゃない。一日そこら会話しただけの転校先のクラスメイトに話せるようなものじゃない筈だ。

「それはですね―――」

雀耶さんは一拍置いてから、答えてくれた。

「転校先の学校で、初めて仲良くなったお友達ですから」






二時間目は体育だった。

この学校では体育や家庭科等の授業は二組合同で行っていて、A組はC組と、俺達D組はB組と行っている。

夏休みが終わってから内容は男女別の球技、場所は体育館でB、D男子組はバレーボールのネットを張っている。

その中、ボールが飛ばない為に仕切りのように張られたネットの向こうでは、既に勝負が始まろうとしていた。

「勝負だ! 竜華!」

B組の紀虎の声が響いた。少し肌寒くなってきたこの季節に体操着の半袖とハーフパンツという格好で指さした先には、同じく半袖に長ズボンの竜華が立ってる。

「受けて立とう」

手に持ったバスケットボールを弾ませながら答えた。

毎回思うのだが、竜華は紀虎との勝負を楽しんでいる気がする。けど、一度そうだと訊ねてみたら、

「ち、違うぞ! 私は別に楽しんでなどいないからな!?」

と声大きく否定していたから、違うらしい。

けれど今日や昨日のも含め、竜華は紀虎からの勝負は断らないんだよな、楽しんでないなら、たまには断ればいいと思うんだが。

……ふと、紀虎が竜華に勝負を挑み始めたきっかけを思い出してみた。

あれはそう、高校一年生になって初めての体育の授業の日、内容は男女混合のバスケ。

クラスの中で2チームを作り、計4チームでの総当たり戦が開始され、俺達のクラス同士での試合になった時、相手チームの中に一人で突っ走って点を取るワンマンプレイヤーがいた。

言わずもがな、それが紀虎だった。

「オラオラぁー!」

一人でドリブルをしながらこちらのディフェンスをかわしてゴール前、後一人となった。

「このまま決める……ぜ?」

だが紀虎はシュートを決められなかった。ゴール前最後のディフェンスに、ボールを奪われたからだ。

「なにっ!?」

紀虎が振り向くころにはボールはパスの連続を受けてからゴールへシュート。こちらに点が入った。

「おぉ、アンタ、なかなかやるな!」

紀虎が自身からボールを奪ったディフェンスに声をかけた。もう分かると思うが、そのディフェンスが、竜華だった。

「バスケットボールとは個人競技ではない。一人で走るからこうなるのだ」

竜華は腕を組み、紀虎に指摘をする。

「でもよ、個人技は必要だろ?」

2人はそのまま会話を始めてしまった。

「確かにそれも必要だ。だが授業として行っている限り、重要なのはチームプレーの向上なんだ」

「ふ〜ん、面白い奴だなアンタ、同じクラスだったよな」

「青山竜華だ」

「アタシは白本紀虎。よろしくな、竜華」

「あぁ、よろしく頼む、紀虎」

この時すでに2人は互いを名前で呼んでいた。

そして固い握手を交わした後、

「つうわけで、竜華は今日からアタシのライバルだ!」

紀虎は竜華にライバル宣言をしたのだった。

「……は?」

いきなりの理解不能宣言に竜華は首傾げる。

「だから、ライバルだって、強敵と書いて読むアレだよ」

実際は、好敵手と書いてライバルだ。それは漫画とかの中のルビだな。

「いやそれは分かるのだが、何故ライバルなんだ?」

「そりゃあ、竜華が強い敵だからさ」

「漢字の意味ではない! 何故ライバルにならねばならないのかと訊いているんだ!」

ちなみに、2人がこうしている間もバスケの試合は続いている。両チームのエースが抜けたので、わりと変わらないバランスの勝負になっている。

しかし、竜華が怒鳴ったのを聞いて竜華側の一人……まぁ俺だ、が抜けて2人に近寄った。

つか、全部聞いてたんだよな。

「どうどう、落ち着けよ竜華」

「彰! しかしな……」

「お? アンタは?」

「緑葉彰だ、竜華とは幼なじみってやつでな」

「おーじゃあちょうど良いや、ちょっと説得してくれよ」

「なんでそうなる、怒らせたのお前だろ」

「いいからいいから、な?」

調子のいい奴だな、まぁ元々そのつもりで来たんだ。

「竜華、とりあえず落ち着けって」

「そうは言ってもだな、いきなりライバルと言われて落ち着けるか?」

とりあえずそこまでヒートアップはしないと思うが……まぁいいか、クールダウン対策はある。

「竜華、知ってるか?」

「何をだ?」

「強敵と書いてライバルって読むのにはな、もう一つの読み方があるんだ」

「もう一つの読み方? 何だそれは」

よし、かかった。

「トモ、って読むんだ。ライバルにして、友達って意味になるんだぜ」

「!? そ、それは本当か?」

「あぁ、強敵と書いてライバル。そして強敵と書いて、トモだ。」

「そ、そうか……トモ、友達か……それなら、悪い気はしないな」

「だろ? 白本と竜華はライバルになった瞬間、友達になったんだよ」

「おぉ……」

竜華の顔がニヤけた。別に友達が少ない訳ではないが、相手側から友達になってくれと言われると竜華は毎回こうなるのを、俺は知っている。

その時、会話してるだけの俺達を見た先生が笛を鳴らして注意してきた。

「む、不味いな、戻るぞ」

クールダウンした竜華が一足先に元のポジションへ戻っていく、俺も戻ろうとすると、

「ナイスだぜ、緑葉」

紀虎に呼び止められた。

「昔から竜華を知ってるからな、予想通りの反応だったさ」

「へぇー、でもよ、あれをあっさり信じるのはスゴいな」

「まぁ竜華だからな」

アイツは漫画読まないから知らないんだろう。

「ま、説得してくれてサンキューな。同じクラスだし、仲良くしようぜ」

「あぁ、よろしくな。白本」

「紀虎でいいぜ、アタシも彰って呼ぶから」

これが俺と紀虎の出会い、そして、2人が戦い始めた理由だ。


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