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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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Fall Vacation epilogue

秋休みの最終日。俺と竜華は寮に帰るための準備を終え、揃って『青龍』の前にいた。

「それじゃ父さん。今度は年末になると思うけど」

「あぁ、待っている。彰君も、手伝ってくれて感謝しているよ」

「はい、年末には俺も帰るんで、またその時に」

龍也さんに挨拶して、俺達は駅へ向かって歩き出した。

その途中、

「なぁ、竜華」

「ん? 何だ?」

「あの時言ってたこと……本当なのか?」

俺が竜華に隠して皆を呼んだ日に、竜華もまた、自らの秘密を皆に明かした。

「あぁ、もちろん本当だ」

高校を卒業した後、竜華は…

「本格的に料理を学ぶため、ここからかなり離れた大学へ行く。距離があるから一人暮らしをする……これに嘘偽りはない」

「……」

やっぱり、本当の事か。

「何だ、心配してくれるのか?」

「そりゃあ、な」

「心配など不要だ。もちろん一人暮らしで寂しくないと言えば嘘になるが、これも家を継ぐための避けては通れない道。私の将来に必要なことだからな」

「よく龍也さんが許したよな」

「最初は反対されたが、説得の末なんとかな」

「ふーん……」

「そんなことよりも彰、お前こそ卒業してからのことをどうするつもりだ?」

「あー……」

そりゃそうだよな。俺が卒業後どうするか、まだ話して無かった。

「まぁ……そのうちな」

そして今も、話すつもりはない。

「そのうちって、彰。卒業までもう数えるほどしかないんだぞ? その間に考え、受験もしないといけないというのに、その調子で大丈夫と思っているのか?」

「大丈夫だよ。受けるところは決まってるからな」

「む、そうならそうと早く言え。どこの大学だ? あるいは短大、専門学校か?」

「まぁ……そのうちな」

重ねて言うけど、今話すつもりはない。

「む……実は決まってない、とかではないよな?」

「それはないから安心しとけ。ただまぁ、今言うタイミングじゃないってだけだよ。竜華みたいに皆の前でとか、そういうタイミングで話したいんだ」

「……そういうことなら、今は聞かないでおこう」

なんとかごまかすことが出来たな。

「……」

本当のことを言うと……俺が受けようとしている、第一志望にしている大学は、ここからとても遠い所にある。

もっと言ってしまえば、竜華が受ける大学のとても近い所にある。

だからこのまま秘密を続けて、俺が受かった後に竜華に言うつもりだ。

つまり、一人暮らしをする竜華の家に転がり込めればと考えていた。

これを考えたのは竜華が皆に大学の話をした日の夜。龍也さんから電話があり相談を受けたからだ。

許してくれたとは言っても、やはり片親。竜華を心配しているとよく分かり、俺は直後に大学探しを始めた。元々どこを受けようか探していたところなのでその範囲を広げるだけで済み。第一志望を決めたのだ。


……せっかく秘密を明かしたばかりなのに、また秘密を作ってしまったな。


でも、これも竜華の為だ。


後はこの秘密をちゃんとした形で明かせるように、俺が頑張って大学に受からないといけないな。







寮に帰ってきて、部屋に荷物を置いて一休みしていると。竜華からメールで呼び出しがあった。

学校の正門で待っているというので、俺はすぐに向かった。


そこで、今までの出来事を思い出した。


「そうか……竜華も、鍵を持つ一人」

今までの出来事を思い返しながら歩いて学校の正門に到着。竜華はすでに待っていた。

「来たぜ、竜華」

「待っていたぞ、彰」

さっき分かれたばかりなのに、竜華はおそらく、ずっと待っていたのかもしれない。それがその言葉から感じられた。

「その感じは、全て思い出したようだな」

「あぁ、竜華で4人目だ」

「ふふ、私は4人目だったか。ならまだ良かったな」

「良かった?」

そういえば、玄平に言われていた。

「竜華、鍵を持つ人は後何人いるんだ?」

「後何人か……言ってしまえば、後一人だ」

後一人……今まではなんとなく想像が出来たが、後一人って、いったい誰だ?

「その一人ってのは、俺達の近くにいるんだよな?」

「そうだな、私達の近くにいるな」

近くにいるってことは……

「先に言っておくが、藍田と奈津保は違うぞ」

「え? 俺達の近くにいるのってその二人じゃないのか?」

てっきりそのどちらかかと。

「彰、よく考えてみろ。私はこう言ったぞ。私達の近くにいる、と」

だから陽斗と山吹が出て来たんだが。それ以外に俺達の近くにいる人?

そんな人、どこに……

その時、一人の少女が現れた。

全身白い服。茶色の髪を一本結び。毎回こうして現れる手話の喋らない少女。

少女はいつもの調子で手話を始めた。その動きはいつもの通りで、もう分かっている。だから竜華にもう少しヒントを聞いておかないと。

「俺達の近くに、もう一人鍵を持つ人がいるんだな」

「あぁ、私達の近くに、最後の鍵を持つ人がいる。その鍵を手に入れれば、この秋から出られるだろう」

「……」

ダメだ、さっぱり分からない。

俺達の近くにいて、陽斗でも山吹でもない。近くということで言えば、隣の席の雀耶さんがそうなように、逆隣の席の生徒とか……

「悩んでいるようだな」

竜華に悟られてしまった。

「彰、もう一度だけ言う。最後の鍵を持つ人は、私達の近くにいるんだ」

「だからそれは分かって…」

「分かっていないから言ったんだ。私の言葉をそのままヒントにしろ」

竜華の言葉をそのままヒントにって……

私達の近くに最後の鍵を持つ人がいる

つまり、竜華の近く? いや達ってことは複数人か。おそらく今まで鍵を持っていた人を指すんだろう。

雀耶さんの近くで、紀虎の近くで、玄平の近くで、そして、竜華の近く。

……もしかして、だが。

「時間だな」

見れば少女の手話は終わっていた。後は指を鳴らせばすぐにでも時間が戻ってしまう。

「彰」

竜華は握った右手を前に出した。その下に手を伸ばすと、開かれた手の中から何かが落ちた。

見てみると、それはどんぐりだった。これが竜華の持っていた鍵か。そういえば今までも秋に関する物だった気がする。

「確かに、受け取ったぜ」

「彰、すでに選択肢は豊富に出てきたと思う。後の一つの鍵を手にした後、その中から選択をする際に決してい後悔だけはするな……まぁ、その心配は無用だと思うがな」

「それって、どういう意味だ?」

「いずれ分かる。もしも私を選んだ後は、彰の秘密にしていることしっかりと聞かせてもらうからな……じゃあな、彰」

パチン、と音が鳴った。

瞬間、視界が真っ白になり、時間が戻っていき―――







……最後の鍵を持つ人物、それは―――


いよいよ後一人、この物語も終わりが近づいてきました。

その後一人というのが、やっかいなんですが……


それでは、

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