Fall Vacation Ⅳ
「おはようございまーす」
朝、中華料理屋『青龍』の開店数十分前。俺は今日も手伝いのために青龍を訪れた。
「あぁ、おはよう」
迎えてくれたのは龍也さんのみ。何かの料理に使うのか、寸胴の中身をかき混ぜている。
「竜華は?」
「奥だ。今は……母さんのところだろう」
「……」
母さん、竜華の母さんか……
「彰君も、たまには母さんに声をかけてやってくれ」
「はい……では、お邪魔します」
龍也さんに挨拶して、俺は店の奥、青川家の住居スペースに進んだ。昔っから通いなれたこの場所を迷わず進み、目的地である奥の和室に辿り着いた。
中はシンプルで、置かれている物は少ない。そこの壁際にあるものが、この部屋に訪れた理由。
「……」
部屋の中には竜華がいて、前にある位牌と写真に目を閉じて手を合わせていた。
写真には、竜華に似た女性が一人だけ写っている。
位牌には、竜華と同じ苗字と名前が書かれている。
言わずもがな、竜華の母さんのものだ。
「……彰か」
こちらは見えていないはずなのに、竜華は後ろにいる俺に声をかけた。
「龍也さんにさ、声かけてやってくれって」
「そうか、ならここを譲ろう」
「いや良いよ、竜華の隣で」
正面で座布団が敷いてある所から動こうとした竜華を止めて、その隣に正座する。線香に火をつけて供えると、目を閉じて手を合わせた。
「……」
「……」
静かな時間が部屋の中に流れる。静かすぎて、遠くの龍也さんが何かしている音っぽいものが聞こえる。
「……」
……竜華の母さんが亡くなったのは、俺達が中学生の頃。その一時期竜華は塞ぎ込んでいたこともある。それを今は全く感じられないのは、やはり、店を継ぐと決めたことが理由だろうな。
それまではそこまで考えていなかったらしいが、亡くなったことをきっかけに決意を固めたらしい。
今では『青龍』のメニューの約半分を龍也さんに認めてもらえ、着実に跡継ぎとして力をつけている。
きっと、空から見守ってくれているだろうな……
「……時に、彰」
「何だ?」
目を開けると、竜華は横に座る俺を真っ直ぐに見て、訊ねた。
「彰……お前、何か私に隠し事をしてないか?」
「!?」
しまった、感づかれたか。
「ここ最近、家に頻繁にかかってくる電話は彰だろう?」
「な、何を言って…」
「必ず私が片づけをしている時、そして必ず彰が帰った後にかかってくる。これは彰が電話し、高確率で父さんが出るようにしているとしか思えない」
「父さんと、電話で何を話している?」
「べ、別に何も……」
「何を隠している?」
「な、何言ってんだよ。別に隠し事なんてないぜ」
「……本当か?」
「……」
かなりマズイ状況だが……ここまで来てバレるわけにはいかない。今までの隠し事を無駄には出来ない。
何でも良い、適当な言葉で納得させられれば、この危機さえ脱出出来れば……
「竜華、彰君」
そこへ、龍也さんが姿を現した。
「そろそろ店を開くぞ」
「は、はい!」
ナイスタイミング! 龍也さん!
俺は早々に立ち上がり店の方へと逃げるように歩き出した。
「竜華もだ」
「……分かった」
後ろに龍也さんと竜華の声を聞いて、危機脱出を喜んだ。
これで、後は時間を待つだけだ。




