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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
43/65

Fall Holiday 武乃

今回は、普段とは別の人視点の物語となっています。

―――知り合いを、助けたかった。




理由としてはそれだけで、それ以上の理由はなかった。

詳しく話すと長いので割愛する。けれど、知り合いは、喋ることが、声を出すことが出来なかった。

だからワタシは、とにかく医学を学んだ。人の声を出す理由、原理、条件、ともかく知り合いと声で話がしたい為に。


そんな時、アイツに出会った。


まるで心を読んだかのようにワタシの問題を当て、それに良いかも、というモノをくれた。

それが……"他人の声へと変わる液体"というモノ。の、作り方。

実物は無いのかと訊けば、別にいらないし、とヒマだから作ったという完成品を少しもらっただけ。それも、一年生の間に無くなってしまった。

試行錯誤を繰り返して、なんとか形にすることは出来た。




―――その頃にはもう、一年生の学園祭が迫っていた。




役に立つかもしれない。そんな理由で入っていた科学部の展示。そのただ居るだけで何もしない受付で、案内もしないから本を読んでいた。

一つの実験を兼ねて。

『どうぞ、ご覧に』なって下さい」

試作品の効果は、数秒で切れてしまった。

とりあえず、今の自分から離れた声を想像して使っているが、ものの五、六文字程度。

まだまだ試行錯誤が必要だな……

「なぁ、玄平」

他に何を加えればいいか。或いは減らすか?

「玄平?」

火の入れ方を変えてみるのもいいかもしれない。思いきって沸騰するまでとか……

「コレ、少し分けてくれないか?」

……え?

色々考えていたら、いつの間にか目の前にはクラスメイトがいて、学園祭の何処かで持ってきた紙コップに、ワタシの水筒……試作品の入ったその中身を注いで、飲んで―――


『え? うわ! 何だコレ!?』


その声はワタシのモノだった。

クラスメイトの男子にすれば、急に女子の声になったとすればパニックにもなる。

『コ、コレも科学部の出し物なのか? ヘリウムガスみたいな』

……あれ? 声の変化が続いてる。

その理由となりそうなことを頭の中で考えてみると。ワタシの声だから?

今までは知らない声、自分と離れた想像の声だから。だとしたら……

『お、おい、玄平?』

ワタシの声でワタシの名前を呼ぶクラスメイトをスルーして水筒に手を伸ばして中身を飲む。

前にいるクラスメイトの声を思い出して……


『そうです。驚きました?』


クラスメイト、緑葉の声で返事をしたのだった。




―――どうやら、忘れていた何かがあるらしい。




作り方を再度読み返してみると、どうやら途中途中に穴があることが分かった。

穴というのは、読めない部分と、手に入らない材料。

ワタシは二年生になっていて、作り方をくれたアイツにソレを伝えると、だって別にいらないし、とまた同じ台詞を返されてしまった。

けど、それが幸い。ほぼ手離された"他人の声へと変わる液体"を、ワタシが自分の使いたいように作り替えても良い、と言われたから。

そう、ワタシの最初の目的の為に。

知り合いの、為に。

その思い一つ。ただそれだけを糧に、ワタシは作り方に改良を加えた。

そして生まれたのが、"声変えの水"だ。




―――そんなある日。部活の時間に―――







「あの、玄平さん」

「……」

明日が秋休み最終日となる日。

よくよく見てみれば、生徒指導室には2人しか居なかった。

緑葉も、いったい何を選んだのか黒石も居ず。ワタシと、今声をかけてきた紫だけだった。

「……」

返事をする為に、用心して(あの時は本当に不注意だったらしいけど)鞄の中にいれた水筒へ手を伸ばす、

「あ、別に返事をしてくれなくて良いんだ。ちょっとその説明書を見せてくれれば」

「……」

伸ばした手でノートを掴み、紫へと渡す。

「ありがとう……」

ページを開いて、目で追っている。

―――分かる訳が無い。ワタシ独特の暗号風に書いてあるから。

―――理解出来る訳が無い。大学で学ぶような医術、元素式、数式、その他色々のオンパレードだから。

そんなものが暗号で書かれていたら。例え、学校の誇る天才だとしても……

「……どうして」

ノートを持つ手が震えている。

「あらゆる学問を学んだ筈なのに……全然読めない。理解出来ない」

「……」

誰かの声で、何か言ってやろうと、声水に手を伸ばして…

「……」

手を戻して、まだ震えて読み解こうとしている紫に。

「無理もないよ」

ワタシの声で、そう伝えた。

「え……玄平さん、今の声……?」

「別に、ワタシが声を出せなかった訳じゃない」

毎回の会話で、声水の実験台になっていただけ。

「ノート、返して」

「あ、あぁ、うん」

ノートを返してもらう。

あと少しで、応用が出来るようになり、声を変える意外の使い方が出来る筈。

それに足りないのは……

「玄平、さん」

「……なに?」

今良いところだったのに。

「さっきの台詞は、どういう意味? 無理もないよ。って」

「そのままの意味」

ただ、言えること、それは、

「天才では、理解出来ない」

「そ……そんな……」

紫は、元から天才だった訳じゃない。

紫は、同じ部活で、偶然、興味で、ワタシに声水の事を訊いてきたから。

紫は、理解しようとして勉学に励んだから。

紫は、天才になれた。

でも、それは、

「言い換えれば、優れた学才を持つのは、秀才」

紫は、それだ。

「だから、秀才では、理解出来ない」

「……」

紫はがっくりと項垂れてしまった。

さて……ワタシは荷物をまとめて席を立った。

ここは静かで書けるからという理由で居たけど、もうそれもいい。ちゃんと、道も決められたし。

「それじゃ、頑張れ秀才。進みたい道を進んで……彼女と、お幸せに」

「え……? 何故、それを?」

「一、二年と、ルームメイトだった。隠してたつもりだろうけど、バレバレ」

隠してたのは、こちらも同じ。でも本当に隠せてたのは、こちらだけだったという訳。

「それじゃ、お互いの道を進もう」

天才と呼ばれた秀才と、目的の為に進む、別ベクトルの秀才の。







「……」

誰も通らない静かな廊下を歩く。

先生に言って、進路も決めた。これで後は、そこへ挑むだけ。

「……そういえば」

あぁは言ったけど、考えてみれば…

「お前は秀才じゃなくて、天才かもな」

「……」

いつの間にか、前に黒石がいた。

「何か用?」

「いや、別に」

「進路指導どうした?」

「決めたさ、だからいなかっただろ?」

「……さっきの、どういう意味」

「あの作り方を、まず理解出来た時から、秀才とは違う。生まれつき備わっていた、天性の理解力。要は天才だ」

なるほど、そうかも。

「そうか、ワタシは天才だったのか」

「自分で認めるって凄いな」

「それじゃ、アンタは?」

「俺は、そうだな…」


「『奇才』」


世にも珍しい優れた才能を持った人。

黒石の声で言ってやった。

「完成、させてくれな」

『悪ぃけど、あの作り方を元に改良を加えたやつだから。俺が望むモノには必ずなるとは限らないぜ』

恐らく、あの時から。

ワタシは黒石の横を抜けて、昇降口へ向かった。

「……」

そういえば……アイツは、どうしたんだろう?

「電話、してみよう」




―――結局ワタシは、他と違って一人で解決しちゃったけど。

必要なことあるし、アイツには会っておかないと……


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