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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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1st day Ⅲ

雀耶さんに教科書を見せる。それ以外特に変わった事もなく、一時限目が終了した。

先生が挨拶すると同時、あるいはそれより早く、待ってましたと言わんばかりにクラスメイト達が席を立ち、雀耶さんの席の回りに集まった。

転校生に対しての、質問攻めだ。

「うへぇ、なんとか逃げれたな」

席が隣な為に一時限会場前に話をしていた俺や、南野といった隣人5人は自分の席を空けて場を提供していた。

さてと、立ちっぱなしもなんだし、「朱井さんって出席番号一番以外になった事ある?」とかどうでもいい質問してる陽斗の席にでも座ってるか、と思いそっちを見ると、

「ん?」

陽斗の隣の席の生徒が座っていた。

珍しいな、アイツが転校生に興味示さないとは。

確かにクラスの中にもあの集合―――ざっとクラスの3分の2くらいか―――に入っていないのも何人かいる。俺達5人とか、話しかけられないだろうと思った数人や寝てる人、日誌を書いている竜華とか。

だがその人達も視線は(寝てる人を除いて)向けているのに、コイツは唯一人前を向いていた。

俺は声をかけつつ、隣の席へ向かった。

「よっす黒石、お前は行かないのか?」

黒石は顔を上げて俺を見る。

青がかった黒髪のショートカット、その髪と似た青がかった目の男子。

黒石(くろいし)(よう)、それがコイツの名前だ。

「そんな事言ったってよ、あの中に入るのは無理だって」

器用にペンを指で回しながら答えた。

「てことは、興味はあるんだな」

「当たり前さ。ただ、あの数と……コレ書いてたからだ」

黒石は机の上のノートを俺に渡した。陽斗の席に座ってノートに目を落とすと、

「うわっ、何だよコレ」

そこには文字や記号がびっしりと書かれていた。文字は英語っぽく、記号は妙に五角形が多く見える。

子供の落書き、或いは精密機械の設計図のようにも見える。

「んー、企画書、ってのが一番近い呼び方か」

企画書……ということは。

「また、何かやる気なのか?」

黒石とは高校で出会った。一年生から同じクラスになり会話もしたが、黒石は基本的今は別クラスの生徒と共に行動して、人助けなるものを行っていた。

俺は助けてもらったことは無いが、本当に困っている生徒や先生を助けていたのだから凄い。

ただ、二年生のある日、メンバーの一人が交通事故にあってからというもの、ぱったりと辞めてしまった。そして3年生になった黒石は、事あるごとに様々な仕掛けでサプライズをするようになった。人助けしていた方から、逆に困らせる、或いは楽しませる方にだ。その主催者側に、俺や陽斗といったD組男子が入っていたことも多少なりある。そしてこの企画書はまた何か、多分雀耶さんへの何かだろう、だとしたらぜひ俺も手伝いたいところだ。

「どうだろうな、分からん」

黒石はペンを止め、背もたれに体を預けた。

「え? こんだけ書いといて何もしないのか?」

ノートをペラペラと捲る。64ページある小さなノートの半分以上を黒石にしか分からない暗号で書いてある。読めはしないが、きっと練られた何かがびっしり書かれているんだろう。

「やりたくはあるんだがな、どうも人物の数とか、細かい所が決まらないんだ」

「数合わせなら、俺や陽斗がなるぞ?」

「そりゃありがたいが、それでも後1人……いや、2人くらい欲しいか」

「じゃあ、誰か声かけるか?」

「ふむ……」

黒石は少し考え、

「……いや、いいや、昼休みに心当たりに会ってくるから」

「そうか、もし何かするなら言ってくれよ。力になるから」

「サンキューな、緑葉」

その時、チャイムが鳴った。集まっていたクラスメイト達が戻っていったので、俺も自分の席へ戻った。







「遅いね〜、二人共」

「そうだな」

時刻は既に昼休み、俺と山吹は転校生性別当ての賭けによって、外れた竜華と陽斗を待っていた。

「購買が混んでるのは分かるけど、にしても時間かかってるな」

「そうだね〜、やっぱり注文しない方が良かったかな」

注文すれば、それを買う為に普通より時間はかかるものだ。

ちなみに、雀耶さんは数人のクラスメイトと一緒に昼食を取っている。俺達も別にそこへ入れば良いだろうが、まさか賭けをしていたとは言えない為、少し離れた陽斗の席の方へ集まっていた。黒石は休み時間に言っていた心当たりに会いに言ったのか、不在だ。

しかし……遅いな。

かれこれ何分待ってるか、確認の為に携帯を開いた。

瞬間、着メロが流れた。

「おぉ?」

絶妙なタイミングに驚きながらも発信者を確認。陽斗だった。

「何してんだ、アイツ」

着信ボタンを押して出る。

「どうした?」

『あ、彰か?』

「当たり前だろ、俺の携帯だぞ」

『だよな』

「で、どうした?」

『今さ、昼飯がそっちに走ってったから、ジャッジよろしくな』

ジャッジ? 走ってった?「……あぁ、そういうことか」

『という訳で、頼んだぞ』通話が切れた。

「ハルくん、なんだって?」

携帯を終いながら伝える。

「竜と虎が全力疾走してくるって、昼飯持って」

「え? ……あ〜」

納得した山吹はうんうんと頷いた。

普通は分からないが、つまりそういうことなんだ。

その時、



ガラガラパーン!



「いょっしゃぁぁ! アタシの勝ちだぁ!」

扉を力いっぱい開けて大声と共に、1人の生徒が教室に入ってきた。

「え、え、何ですか?」

朱井さんがそれを見て驚いていたが、

「大丈夫、たまにあることだから」

隣に座っていた生徒に心配無いと言われてとりあえず落ち着いたようだ。

アッシュグレー―――ほのかに黄色みを帯びた灰色―――のボサッとしたショートカットの女子生徒は教室内を見回し、俺達を見つけて近寄ってきた。

アイツの名前は、白本(しらもと)紀虎(ことら)

本人はB組だが、あるり理由があってよくD組に来ている。

「よっ、待たせたな二人とも」

右手をひらひらと振り、左手に購買のビニール袋を持って俺達の所へ。

「お前を待ってたつもりはないんだがな」

「つれないなぁ、んなこと言うなって」

気にせず顔で俺の前の席に座った。

「というか、竜華はどうした?」

と言った瞬間、

「紀虎!」

入り口から竜華が早足にかけて来た。

「へへ、今回はアタシの勝ちだな」

紀虎がD組に来る理由は、竜華だ。

一年生、まだ紀虎と同じクラスだった時、二人は何かにつけて勝負をしていた。全部を見ているわけではないので詳しい勝敗数は知らないが、二人は両極端に得手不得手が分かれている。

紀虎は体力型で、100M走や幅跳びのような陸上系が得意。

一方竜華は技能型、バスケやテニスといった道具を扱ったりチームプレイを必要とする競技が得意だ。

今回は多分、購買からここまでのレース。単純な走りなら紀虎に分があったのだろう。

だが、それにしても差があり過ぎるような。

「当たり前だ! 途中で大菊先生に注意されていたのだからな!」

そういことか。

「運も実力の内ってやつだな」

「それだけじゃない、これを見ろ!」

竜華が突き出したのはビニール袋、購買で買ったものが入っていて、

「あ」

「あー!」

俺と山吹の声が被った。

袋の中身は山吹がリクエストしたパンと、瓶牛乳が入っている。あれを持ったまま走れば、衝撃で瓶が割れてしまうかもしれない。しかし竜華は慎重に持ってきて遅れてしまったのだろう。

だが、それでも走って来た為に瓶がパンを潰していた。

「わたしのパン~!」と嘆く山吹の隣で、紀虎はけらけらと笑った。

「それも運だって、アタシは袋の中身を知らなかったんだから、竜華がそっちを渡せばよかったのにさ」

いや、竜華は分かってても渡さなかったな。

紀虎があの袋を持って走れば、瓶は必ず割れて、袋のパンは全滅していた。それを避けるために竜華はあの袋を渡さなかっただろう。

おそらく、勝負自体もする気はなかったんだろうが、紀虎が袋を奪って走りだしたから仕方なく後を追い。大菊先生に見つかってしまった。という所だろう。

だが、紀虎がそんなこと知る筈もなく。

「まーいいじゃんじゃん、そんなことより昼飯食おーぜ、時間無くなる」

自分の持ってきた袋をひっくり返して机の上にパンをぶちまけた。

走ってきた為、所々形がいびつだ。

「すまない奈津保……注意はしていたのだが……」

「だいじょうだよりゅーちゃん、わたし形は気にしないから」

先ほど嘆いていた山吹も竜華からパンを受け取った。

「んじゃ、いただきまーす」

紀虎は机に広がったパンを一つとって封を開け食べ始めた。

そういえば、俺の昼飯もこの中にあるんだよな。

「彰も早く食えよ、無くなるぞ?」

「あ、ちょ、待てよ」

紀虎とパンの取り合いをしながら、騒がしい昼食をとったのだった。



結果、紀虎と取り合ってパンを全て平らげた為、遅れてきた陽斗はUターンすることになった。

この物語には、さらりと自分の別作品の人物が出てきます。しかも、かなりのキーマンで。

誰か、までは言いませんがここまで読んだ方ならお分かりでしょう。

この人物がどんな奴なのかは、その別作品を読んでいただければ分かります。


それでは、

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