5th day patternⅥ
~購買戦争~
昼休みの購買は……戦争だ。
昼飯を求める生徒たちが学年問わずに訪れ、集い、そして求める。
少し遅れれば波は去るが、そこに残るのは小物のみ。
波にのまれたくない者たちは、昼休みの前に買いに行くのだが、昼休みにならなければ手に入らない物もあるので、生徒たちはそれを求めて、今日もここに集うのだった……
「……って感じなら、少しは見方が変わるよな」
「変えてもあまり意味はないだろう。どちらにせよ、ここへ行く必要があるのだから」
「だよなー……」
という訳で、ジャンケンに負けた俺と竜華は、昼の購買へとやって来ていた。
「ま、それだったら少しは楽しめそうだけどな」
途中で紀虎と出会い、共に購買の前へ。すでに人だかりが出来ていた。
「とにかくだ、2人の分も含めて昼食を手に入れるぞ、私は奈津保の物、彰は藍田の分を頼むぞ」
「へーい」
とりあえず何かは買わないと昼食抜き。それは避けないといけない。
どっからどう攻めてみるか……
〇横から回り込む ☐正面突破で △少し状況を見る
△……正面はムズカシイだろうし、横から回り込むのも、失敗したらマズイ。
少し、状況を見てみるか……
Select → △
「マズったかな……」
状況を見て見てみようと、2人が進んだ後も立ち止まっていたらさらに人が増えてきた。
正面はもうムリだし、横に回ろうにも人が多すぎて不可能に近い。
このままじゃ、昼飯が……
「……ん?」
ふと気付くと、俺の横を誰かが通り過ぎて行った。
「……」
あれは……玄平? へぇ、アイツも購買来るのか。
だが目の前には人だかり。入る間などほとんど無い中に、玄平は進んでいく。
「……」
そのほんの僅かな隙間に、玄平は身を滑らせていった。
「おぉ……」
その光景に驚きつつ、後をつけてみる。
するすると、人と人の間に出来た隙間を伝って前へ前へと進んでいく。それを追う俺も少しずつ前へ、けど玄平みたいには行かず。生徒とぶつかる。
でもなんとか、購買会計前に辿り着いた。
まさかあんな回避移動術があったなんてな……けどこれで、昼飯が手に入るぞ。
よし、さっそく…………あ、待てよ。
購買ってことは、買う際に声を出す。こんな場所で声水を飲めるわけはない。
つまり、玄平の声が……
「……」
「はい、ちょっと待っててね」
玄平が購買の人に何かを渡すと、交換に白い袋に入ったパンのセットを渡されていた。
あれは、予約チケット。買ったけど持ってられないので購買に預けておく際の引きかけ券……
うわぁ、そう来たか。
と、そんな結果を見ている場合じゃないな。
「サンキューな、玄平」
一応お礼を言ってから、俺は昼飯を求めて動き出した。
「……?」
~放課後の教室から~
今、5限の授業が終わり、放課後となった。
それと同時、雀耶さんが声をかけてきた。
「竜華達と寄り道して行こうということになったのですが、緑葉くんも一緒に行きませんか?」
「おぉ、それはぜひ」
このまま帰っても暇なだけだったし。断る理由が無い。
他のメンバーを訊いてみると、竜華、陽斗、山吹と、なんやかんやいつものメンバーに、雀耶さんが入ったものだった。
もちろん行く。と答えてから先に集まっていた竜華達と合流する。
その時、
「……」
1人、教室を出て行こうとした生徒を見つけて、
「おーい、玄平」
気付いたら、呼び止めていた。
あれ……? 俺、何で玄平を呼び止めて。
しかも、誘おうとしてるんだ?
「お、おい、彰?」
案の定、陽斗が行動の意味を訊いてくる。
「あ……すまん、つい、あん時のノリで」
何日か前の昼休みも、玄平を誘って一緒に昼飯を食べた。
わりと簡単に乗ってくる玄平だ。予定がなければ絶対付いてくるぞ。
「いやまぁ、今更仕方ねぇよ。ここでキョヒんのも悪いし、行けたら6人で行こうぜ」
などと話してる間に、山吹が玄平に話をつけ、
「おっけーだって~」
6人が行くことになった。
あの玄平だから、付いて来ても基本喋らずにいる。
と、思っていたのは間違いだと知った。
ゲームセンターに行くと、
『いよっし! オレの勝ち!』
「うおっ! オレの声に負けたからなんか複雑だ!?」
陽斗の声で陽斗に華格ゲーに勝利。
本屋へ行くと、
「やっぱジョウハイ読者としては発売日に手に入れないとな」
『だな。つうか朱井さんも読者だったんだな』
「はい、面白いですよね『常敗ピンチヒッター』新刊が出ると聞いてわくわくしていました」
来ていた紀虎と、紀虎の声で雀耶さんと3人で『常敗ピンチヒッター』の話で盛り上がった。
駅前の雑貨屋に入れば、
「見て見てりゅーちゃん! コレ可愛いよ!」
「ふむ、確かに…」
『ねぇねぇりゅーちゃん! コッチはどうかな?』
「む……うん、そっちもカワイイ…」
「コレも良くない?」
『コッチも可愛いよね!?』
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 一人ずつで頼む!」
山吹の声で山吹と共に竜華を焦らせていた。
とまぁこんな感じで、普通に遊んで楽しめる玄平。
そんな奴がなんで、友達がいなくていつも1人で、
そして、声水で声なんで変えてるんだろうか……?