5th day patternⅤ
〜席替え〜
朝、HRで教室に入ってきた谷門先生。
挨拶が終わり、教卓に荷物を置いた途端、
「席替えするぞ」
と言った。
その言葉に、もちろん皆はざわざわと騒がしくなる。
なんでそんな急に席替え? ではない。
やっぱり今週もあるんだ。の方でだ。
実のところ、このD組では毎週席替えが行われている。というのも、もう半年も経たないで卒業するこのクラスメイト達に、どうせなら色んな人と隣の席になればいい、という先生の気持ちで、週の終わりに席替えが行われるんだ。
「移動の準備が出来たのからくじを引け、一限に被らないよう早めにな」
教卓の下から毎週使われるくじの入った箱が取り出して置き、谷門先生は黒板に席と番号を適当に振っていった。
皆移動の準備を終え、先に引こうと思う山吹のような人は教卓の前に集まり 、後でのんびり引こうと思う陽斗のような人は集まって喋ったりと、大きく2つに分かれていた。
俺はどうするかな……
〇早く引く ☓中盤辺りで引く △最後の方で引く
△……最後の方の余ったのでいいか、特になりたい席もないし。
陽斗達と話でもするかな。
Select → △
陽斗達ひとしきり喋ってから、一緒に教卓の前へ。
順番が来て、箱の中に手を入れた。
さて、どこの席になるのやら……って、
「後二つしかないな」
箱の中をいくら探ってみても、くじは残り二つだけだった。
一つはもちろん俺の分。ならもう一つは、まだ引いてないのは俺の後ろに並ぶ1人だけ……
「……」
後ろには玄平が並んでいた。こいつが最後か。
「……?」
いつまでも引かずに自分を見ている俺を見て、玄平は首をかしげた。
「あ、わるい」
俺はさっさと引き、玄平の邪魔にならない所へ移動してからくじを開いた。
番号は……
「1番か」
黒板を見てどこの席か確認。番号は適当に振られているので、1番だからって一番前とは限らない。一番後ろの可能性もあるが……
「あ」
まさかの、窓際一番後ろの席だった。
こんな当たりが最後まで残ってるとは、後に引いて正解だったな。
自分の席に戻って荷物を整え、一番端の席に向かうと、元々そこの席だった玄平が荷物を整えて移動を開始していた。
そういや玄平の席はどこなんだろう……と、目で追っていると、
「……」
まさかの一つ隣、俺の唯一の横隣に荷物を置いた。
「玄平隣なのか、よろしくな」
軽い気持ちで隣に挨拶したつもりだった。玄平だから、頭を軽く下げて返すと思っていたら、
「お~、あき君とのんちゃん、近くでよろしく~」
俺の前の席だった山吹が先に挨拶してきた。
「あぁ、よろしく」
『よろしく~』
気付いたら、声水を飲んだ玄平が水筒片手に山吹の声で返事をしていた。
「よろしく~、のんちゃん」
『あき君もよろしくね~』
「お、おぅ……」
わざわざこの程度に声水は飲む必要は無いと思ったんだが、どういう風の吹き回しだ?
~授業(美術)~
授業の中には、2時間続けて2クラス合同で行うものがいくつかある。
今日もそのうちの一つ、美術があった。
「今日の内容はデッサンだ」
美術の教師にしてB組の担任でもある石榴先生が今日の内容を伝えた。
「2人一組になって互いを書きあえ、提出は今日の終了までだ。始めろ」
先生の合図で2クラス、B組とD組の生徒達はがやがやとペアを探し始めた。
「りゅーちゃん、一緒に組もうよ~」
「あぁ、いいぞ」
竜華は山吹と組んだか。
俺も誰かと……
……と、ふと数人の姿が目に入った。
何故か分からないが、その中から選べと言われているような気がした。
誰に? というか、何の目的で?
まぁ別にいいけど……必ずOKしてくれるとも限らないわけだし、声をかけるだけかけてみるか……
☓雀耶さん ☐紀虎 △玄平
△……「……でも」
なんで玄平なんだ?
人数偶数だし、余ることは無いだろうけど……だから俺が玄平と組んでも問題ないってことか。
というか、玄平は普段こういう時、誰と組んでるんだ?
他のクラス、つまりB組にいる友達だろうか、と少し遠巻きに玄平を見ていると、
「……」
誰とも組まずに立ち尽くしていた。
あ……あれ、きっとそうだ。
最後に余った1人と組む。相手も1人で組む人が必要だから断れない。
それをただただ待つというパターンだな。
玄平の奴、毎回そうやってたのか、気づかなかったぞ。
「あー……」
ああするタイプは、誰でもいいように誰と組んでも首を縦にふるからな。
なら、別にいいか……
「なぁ、玄平―――」
Select → △
美術室の中、生徒の話し声とデッサンを描く音だけが響いている。
柘榴先生、描き上げれば話しててもよほどのことがなければ何も言ってこないから。割と騒がしい。
ここ、一部を除いて。
「……」
「……」
ここ、とは俺と玄平のところだ。
まぁ玄平は元々寡黙というのがある。声水を使わなければ喋りもしない。
そう、もう予想できたと思うが、先ほど、玄平は自らのスケッチブックにこう書いた。
『声水が無いので、話すことは出来ない』
いわゆる筆談だ。
「いや、別に喋りたくて誘ったわけじゃないんだけど……」
「……」
消しゴムで消し、再び鉛筆を走らせた。
『じゃあ、なぜワタシに?』
「どうせ最後に余った誰かと組むつもりだったんだろう? だったら、俺と組もうぜ」
「……」
少し思案した後、消しゴムと鉛筆を動かす。
『分かった、組もう。ただし、声は出せないから静かになるよ?』
「別にいいさ、やろうぜ」
―――という感じで、お互い無言のままデッサンをしていた。
……あれ?
そういえば、筆談の時の玄平は、誰の真似だったんだ?
柘榴先生に似ていたような気がしたけど、やっぱり筆談も誰かの口調を真似するんだろうな。
5日目の始まり。
これから先、選ぶのはいったいどういう道なのでしょうか……
それでは、