表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
30/65

Autumn Holiday Ⅲ

『前門の虎、後門の狼』という言葉がある。

一つの災いを逃れて更に他の災いにあうことの例え、つまり一難去ってまた一難、という感じの意味だが。この学校の三年生の間には、意味は全く違うが似た語感を持つ言葉があった。

それは、『前は虎か狼、後ろは残ったどっちか』というもの。

どういう意味かと言えば、紀虎と灰中のことだ。

あの2人のライバル関係は紀虎と竜華よりも知名度は低いが、三年生の間でだけ何故か高かった。

それは多分、同じ学年であることと、勝負の内容が部活に乗っ取ったものだからだろう。







秋休み初日。今日から陸上部の手伝いがある。

しかし、一つだけ謎があった。

何をするか、じゃない。それは今日説明されるのが分かっている。

その一つの謎は、

「集合時間、知らねぇぞ……」

昨日はなんやかんやで部活終了までいたが、その話にはならなかった。だからいつ行けば良いかが全く分からない。

まぁ最悪遅れても谷門先生だからそこまで怒られないだろうけど、

「紀虎にメールしてみるか」

部員なら知ってるだろうと携帯に手を伸ばした。

瞬間、着信メロディが流れた。

発信者は、今まさにかけようとした相手、

「もしもし」

『お、もしもし彰か? 良かった起きてたか』

「あぁ、今そっちにメールしようかと考えてたところだ」

『内容は大方分かるぜ、今日の集合時間とかだろ』

当たりだ。つか言ってないのやっぱり知ってたか。

『とりあえず降りて来いよ。寮の前に来てっから』

言われるままに携帯と財布だか持ち、部屋を出て寮の入り口へ行くと、鞄片手に立っている紀虎を見つけた。

「よっす彰、それじゃま、行くか」

「え? 今からか」

「もち、今行けばちょうど良い時間に着くからな」

2人並んで学校へ向かい歩き始める、

「ところで紀虎」

その一歩を踏み出した時、俺は訊ねることに、

「何で集合時間を教えてくれなかったんだ?」

「あー、それは……」

「それは?」

「……スマン、普通に忘れてた」

あぁ……やっぱりか。予想はしてたけど、

「やっぱりだったか」

「いや〜、集合時間は誘った部員が伝えるようにって先生にも言われてたんだけどな」

だから昨日は話にも出なかったのか。

「という訳で、責任持って一緒に行くことにしたのさ」

「じゃあ部員はもっと早いのか」

「いや、もうちょい遅い。先生の説明が終わった頃に始めんだってさ」

「へー、って、それじゃ紀虎…」

もう少し遅く出れたんじゃ。

「気にすんなよ彰、言い忘れたアタシが悪ぃんだし、遅いっても十分そこらだからよ」

「そっか、ならいいけど」

「そんじゃま、さっさと行こうぜ」

紀虎と共に学校へ歩いていく。

……ああは言ってたけど、わざわざ迎えに来て一緒に行く必要はなかったんじゃないか?

忘れてたのかもしれないが、思い出した時にメールでもしてくれればそれで良かったと思うのは、俺だけだろうか?







説明はものの数分で終了した。

「これなら昨日言っても良かったよな」

「同感ね、わざわざ早く来たってのに」

陽花達説明を聞いていた生徒達と共に、説明に使われていた教室から陸上部部室前へ移動を開始。

内容を言えば、本物のマネージャーのような事、タイムを計ったりなんなりと、紀虎の言っていた通りセットの組み立てだった。

「前半は分かるけどさ、後半、まさかそんなことやってなんて知らなかったわよね、みゃーこ」

「ん……初めて知った」

「リリも教えてくれれば良かったのに」

「秘密だったんだから仕方ないですよ」

そう、セットを組み立ててまで行うイベントは陸上部内だけの秘密で、部外の生徒には知られることはなかった。今回部員数の少なさでやむを得ずの処置らしいが、その知られなさはあの情報委員ですら知り得なかった程だ。

「あれ?」

その時、一番前を歩いていた陽花が何かを見つけた。

「あそこに居んの、陸上部の奴じゃない?」

前を見ると廊下の向こうに2人、生徒の姿があった。

一組の男女で、その女子の方は確かに陸上部の、

「灰中さんです」

灰中は共にいる男子生徒と何か会話しているようだった。

「あの前の男子誰だっけ? 同じ学年だとは思うんだけど」

「……分からない」

「僕も知らないですね」

俺も分からない。とりあえずD組ではないな。

3人共クラスメイトの顔と名前が一致してるとしたら、中紫のB組と、陽花、七ヶ橋のC組でもない……となればA組に決定だな。そういえば灰中もA組だ。

「でも以外だな、灰中が誰かと、しかも男子と話してるとか」

「あ、思った思った」

一匹狼風なあの灰中がだ。とても珍しい光景かもしれない。

「?」

その時、こちらへ歩いてくる俺達に灰中が気づいた。

「それじゃあ、部活に戻る」

男子に一言かけると階段を降りて行ってしまった。

男子は一番近くにあった扉から部屋の中へ入っていった。

「ここは……科学室だね」

「てことは、科学部の男子か」

誰だったかな、見たことはある筈なんだが……

ま、いいか。いつかパッと思い出すかもしれないし。

特に追求することなく、俺達は陸上部部室へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ