1st day Ⅱ
俺の名前は、彰。
多分『あきら』と読みたくなるだろう、もちろんそれが普通の読み方だから仕方ない。
けど、これの読みは『あき』。俺の本名は、緑葉彰。
始めて俺の名前を文字で見た人は、ほぼ100%間違える。なので最近は半場諦めていたりする。
まぁ、竜華を始めとした友達はちゃんと呼んでくれるし、先生は苗字呼ぶからあんまり悩んでないけど。でも……秋生まれというだけでこの名前をつけるのはどうなんだ両親?
などと考えてる間に学校へと到着。職員室に行って担任から日誌を貰い、俺たちの教室―――3-Dへ。
扉を開けて中に入ると、すでに何人かクラスメイトが来ていた。
別に日直だからって一番に来る必要は無い。ただ先生が来る前に黒板の掃除とかしておけば良いだけだからな。
「おーっす彰、日直ごくろうだな」
俺を見つけた晴斗が声をかけてきた。
本人曰く染めたらしいが、よく見たいと分からないこげ茶色のショートカットに、黒縁のメガネをかけている。
コイツの名前は藍田陽斗。俺の友達で、『出席番号は一番以外なったことがないぜ!』と、どうでもいい事を自慢してくる奴だ。
「ん? 今何か失礼なことかんがえなかったか?」
そして妙にするどい奴でもある。
「いや別に、おはよう陽斗」
俺の後から入ってきた竜華にも、他のクラスメイトから声がかけられた。
「りゅーちゃんおはよ~」
セミロングの髪を頭の左右でおさげにしている、明るい茶髪の女子。
彼女の名前は山吹奈津保。言わずもがな、竜華の友達だ。
「あぁ、おはよう奈津保」
竜華も挨拶を返す。
「あき君もおはよ~」
続いて山吹は俺にも挨拶。俺が返すと、鞄を席に置きに行く竜華についていき、俺も自分の席に―――一番後ろの窓から三列目、つまり真ん中。先生の目が届き難そうな届き易そうな場所へ鞄を置き、椅子に座った。
「そういや彰、知ってるか?」
陽斗が隣の席に座りながら訪ねてくる。
多分、言いたいことは分かった。
「転校生の話か? しかもこのクラスに」
「なんだ、知ってたのか」
「俺今日日直だそ? さっき日誌貰ってきた時に先生に聞いたよ」
「そういやそうだな、で、どう思う?」
「何がだ?」
「転校生だよ。男か女か、彰はどっちだと思う?」
「あー……」
そこまでは言わなかったからな先生。性別は分からないが……
「席は、そこだろうな」
陽斗の座っている席を指さした。
実はそこ、陽斗の席じゃない。だが指定された誰かの席というわけでもない。少なくとも今は。
ここは俺達が3年生になる時、転校して行ってしまった生徒の席。席替えの度ここはそのままで、現在隣は俺となっている。
それが今日、埋まるようだな。
「いやそれはわかってるからさ、男と女、どっちだと思う?」
陽斗は再度同じ質問をしてきた。
「ふむ……」
どっちにせよ隣の席で今日日直だから俺が世話役になるだろう。となれば、なるべく話しやすい人の方が良いよな……まぁ、基本的に誰とでも話せるけど。趣味らしい趣味もなく、色んな知識を広く浅く持つ俺は、大方の話題に首を突っ込めるという変わり者スキルを持っている。
「とりあえず、好きなものを聞いてその話で盛り上がるだろうな」
転校生への接し方は、これで良し。
「いやいや、あのな彰?」
陽斗が怪訝そうな顔を向けてきた。
「オレが言ってること伝わってるよな?」
「分かってるよ、ちょっとした冗談だ。転校生の性別だろ?」
しかし、確率50%とは言え、難しいよな。
「何なら、久々に賭けるか?」
「お、良いね、負けたら昼休み購買ダッシュな」
「OK、で、どうする?」
「そうだな……」
その時、
「彰」
不意に竜華に呼ばれた。見れば席に前に立っている。その隣には山吹がいる。
「まだ黒板を掃除してないぞ」
「へーい」
やれやれと席を立ち、黒板の前へ、黒板消しを持って縦に拭いていく。右側から俺、左側から竜華だ。
「ナツはどっちだと思う?」
「う~ん……」
ついてきた陽斗と山吹は教卓の前で転校生について話していた。
ちなみに、陽斗は山吹を「ナツ」と呼び。山吹は陽斗を「ハル」と呼ぶ。この二人もまた、俺と竜華のように幼なじみなんだ。
「じゃあわたしは女の子! ハルくんは男の子ね」
二人の間でも賭けが発生したらしい。
「ねぇねぇ、りゅーちゃんはどっちだと思う?」
「ん? そうだな……」
手を止めぬまま竜華は考える。そしてちょうど黒板を拭き終えたところで、
「では、私は男に賭けてみよう」
と言った。
これで、数により俺は必然的に女を選ぶことになった。
チャイムが鳴り、HRの時間となった。
皆珍しく自分の席に戻り、そしてさらに珍しく静かに、担任、というより転校生の登場を待った。
3分後、教室の扉が開いて、担任の谷門先生が入ってきた。今年教職6年目の男性教師、科目は体育だ。
「何だ? 妙に静かだな」
教室内を見て、雰囲気に気づいたらしい。
「やはりあの噂はもう聞いてるらしいな、日直が話したか?」
その前から知ってましたよー。という生徒の声を聴いて、先生は教卓に荷物を置くと、チョークを一本持った。
「じゃあ要望を叶えてやるか、入ってくれ」
先生が呼ぶと、教室の扉が開いて、一人の生徒が入ってきた。
瞬間、ざわざわと教室内が騒がしくなった。声は全部、転校生について。
腰まで届くほどに長い、軽いウェーブのかかった茶髪。前の学校の物だろう、この学校のとは違う制服。
深緑色のブレザーに、チェックのスカート。転校生は女子だった。
「じゃあ朱井、自己紹介しろ」
「はい」
黒板に名前を書いた先生に言われた転校生は、深く息を吸い、
「本日、こちら3年D組転校してきました、朱井雀耶です。皆さん、どうぞよろしくおねがいします」
言い切って深く一礼した。
クラスメイトは各々に「よろしくー」とか、「かわいい~」等感想を言っている。
「朱井の席はそこの、緑葉と南野の間な」
「はい」
クラスメイトの視線を集めながら席がある最後尾へ。
「よろしくお願いします」
右隣になる南野から順に律儀に反時計回りに隣接する4人に挨拶していく。
そして俺の番になった。
「よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
そこでようやく自分の席に座った。
「今日日直の青川と緑葉は朱井の世話を頼むぞ。特に緑葉、席が隣だから教科書とか見せてやれ」
「へーい」
やはり予想通りになり、返事をする。
「というわけでさ、教科書が揃うまでは俺か、そっちの南野のから見せてもらってくれ」
「はい、ありがとうございます。緑葉さん」
「呼び捨てで良いよ、その方が話しやすいだろうし」
ぱっと見、敬語とか慣れてそうだけど、同い年にさん付けはどうもむずがゆい。
「そ、そんな、呼び捨てなんて出来ませんよ」
やっぱり、敬語に慣らされ過ぎてるのか。
「別に良いって、むしろ俺的にはそっちの方が助かるんだけど」
「え、えっと……」
しばらく考えて、
「で、では……緑葉……くん」
そうきたか。でも十分な進歩だよな。
「よろしく、朱井さん」
「雀耶、で構いませんよ」
「じゃあ、よろしく。雀耶さん」
「はい」
雀耶さんは嬉しそうににっこりと笑った。
この物語は、自分の作品『僕と記憶とメガネと精霊と』の終わりから一年後の同じ学校の話となっています。なのであっさりとその時の人物が出てきたりします。今回も名前が出てきました。ご存じの方は、おぉ、と思ってください。
それでは、




