Autumn Holiday Ⅱ
それが日常的、あるいは当たり前、というかそれはそうだったので、忘れていたことなのだが、
「緑葉も手伝いに来たのか、意外だな」
「意外て、俺のことどういう風に見てたんですか先生」
D組の担任、谷門先生がここ陸上部の顧問だった。
「まぁいい。手伝いの生徒はこれで全員か」
「多すぎたんで減らしましたけどね」
「明後日から竜華と雀耶さんも手伝いに来ますよ」
1クラス強いた生徒達は、西金達により12人にまで減らされた。
ここへ来た生徒達の多数が部員に誘われた、という訳ではなく、掲示板に貼られた張り紙を見てやってきたらしい。だが、本来そういう呼び込み方をしてないので(張り紙は一年生が作ったらしい)訳を話したらあっさり去っていき、この人数になった。
「女子が多い気がするが、この人数なら平気か」
一〜三年生で12人。割合は一年3人、二年5人、三年4人で、男女比は5:7。
知ってる顔は……三年生の中紫、陽花、七ヶ橋くらいだな。帰宅部だったから下級生の知り合いっていないんだ。
「さて、集まってもらったのは何だが、実際に手伝ってもらうのは秋休みの始まった明日からだ。それに伴い説明も明日集まった時にする」
「じゃ今日は解散ですか?」
「そうなる。陸上部を見ていっても構わないが、基本は自由解散だ。明日からよろしくな」
こうして12人は解散となり一、二年生達は去っていき、部室前には陸上部部員達と顧問の谷門先生、そして俺達三年生4人が残った。
「お前達は帰らないのか?」
「まぁ、帰ってもやることないんで」
「折角なので、見学していこうかなと」
「リリ達が走ってのを見てこうかと」
「ん……かと」
かとて、省略し過ぎだろ七ヶ橋。
「そうか、なら始める……ん? 灰中はどうした?」
部員達を見回した直後、そこに居ない部員の名前を谷門先生は呼んだ。
「押川、灰中は休みか?」
「いいえ。来るの遅かったから私たちと一緒に出てこれなかっただけですよ」
その時、
「すみません。遅れました」
先ほど押川達が来た方向から、体操着姿の女子がやって来た。
本人曰く親の遺伝らしい濃い灰色の髪をウルフカットと呼ばれる髪型にした長躯の女子生徒。
彼女が先生が名を呼んだ生徒、灰中狼。
三年のA組で、俺達と同級生だ。
「何かあったのか」
「ちょっとした私事です。お気になさらず」
灰中は先生の横を通り過ぎて押川達のところへ、
「? 彼等はなんですか」
振り返って先生を見た時、隣にいる俺達に気づいて首を傾げた。
「イベントを手伝ってくれる生徒達だ」
「そうですか、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うが、その内心は興味の欠片もなさそうだ。
無表情に加え前々から関わりがたいオーラがあったが、まるで一匹狼を気取ってるみたいだな。
そんな灰中について、一番よく知っているのは…
「よし、まずはウォーミングアップだ。外周3周」
「狼! いざ尋常に勝負だ!」
紀虎がビシッと灰中を指差し、
「分かりました。受けて立ちましょう」
首を軽く縦に傾けて受けて立った灰中、
「よーい……」
「ドン」
2人が合図すると同時、横並びのままは2人は走り去り、角を曲がって見えなくなってしまった。
『……』
初めて見たんだろう手伝い三年生3人は言葉を無くし、
「それじゃ行くぞー」
「ハリキリ過ぎないようにねー」
『はーい』
最早慣れたものな陸上部部員達はのんびりとスタートして、
「全くあいつ等は……ウォーミングアップで本気の走りしてどうするんだ」
谷門先生は肩を落としていた。
「大変ですね、毎回」
灰色について一番よく知っているのは……紀虎と灰色がライバル同士だということだ。