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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
22/65

Autumn Vacation epilogue

数日が過ぎ、秋休み最終日。

俺はある人に呼ばれて、とある場所を訪れていた。

「ここって、前に来た時は何もなかったよね?」

「それはですね、雨が降っていたからなんです。けれど今は、晴れています」

雀耶さんと並んでベンチに座り、公園の中を見ていた。

確かにあの時は雨が降っていて、人は誰もいなかった。けど今は晴れ、子ども達が遊んでいる。

「あの時は雨だから見える景色を探していましたけど、ここは、晴れた時に見る景色でしたね」

「じゃあ、何か思い出せたの?」

「……いえ、ここで思い出すべき記憶は、あの日、思い出してしまいましたので」

「それで、約束を果たせたんだね」

「はい」

雀耶さんが見せたかった景色とは、雀耶さんが友達と遊んでいるところだったらしい。

朱井さんは病院に居るため、友達を連れて行って遊ぶということは出来ず、雀耶さんはそれを絵で描いて見せようとしていたが、それも叶わないでいた。

しかし、その約束を果たすことが出来た。山登り山頂で撮ったあの写真を見せることで。

「ようやく、約束を果たすことが出来ました。緑葉くんのおかげです、ありがとうございました」

雀耶さんは隣で頭を深く下げてお礼を言った。

「俺だけじゃないよ。竜華や、陽斗と山吹も…」

「いいえ」

頭を上げ、俺を真っ直ぐに見た。

「あの時、緑葉くんが助けに来てくれたから、緑葉くんが手を取ってくれたから思い出すことが出来たんです、もちろん竜華達にも感謝しています。ですが、これは緑葉くん個人へのお礼なんです」

「……そっか、なら、どういたしまして」







「ところで、緑葉くんは卒業した後はどうするんですか?」

公園からの帰り道、不意に雀耶さんが訊ねてきた。

「あー……雀耶さんはどうするの?」

「わたしは、もっと絵を勉強しようと思います。なので美術か芸術の大学ですかね」

「まだどこかって決めてる訳じゃないんだね」

「そう、ですけど?」

「なら、俺も雀耶さんと同じ大学を目指そうかな」

「え……?」

雀耶さんは目を丸くして立ち止まった。

「ど、どうしてですか?」

「まぁ……絵を描くのも嫌いじゃないし、まだ決めてなかったてのもあるけど……」

「けど?」

「……雀耶さん、まだ記憶が全部戻った訳じゃないんだよね?」

思い出したのは、朱井さんとの約束、そしてあの公園での出来事。他にもまだあると思うけど。

「はい……まだ、ですけど」

「だからその……記憶探しの手伝いを、出来るかなと思ってね」

「!! ……緑葉……くん」

何かこれがしたい。というものの無かった俺が、本当にしたいと思えたものが、コレだった。

「まぁ必ず大学に入れるかは分からないけど、今から頑張ってみるよ」

「……大丈夫ですよ。きっと、緑葉くんなら入れます。わたしもお手伝いしますから、一緒に、大学へ行きましょう!」

雀耶さんは、満面の笑みで答えてくれた。







落ち葉散る並木道を歩く。ここまでくれば、学生寮はもうすぐだ。

そこでふと、思い出した。

「ねぇ雀耶さん、覚えてる? この道」

「もちろんです。あの時ですよね?」

もう何日も前、雀耶さんと一緒に帰った日に、『今がいつまでも続けばいい』と言われた道だ。

「あの時は本当にそう思っていましたけど……今となってはそれではダメですよね。時が進むことで、こうして出来る事があるんですから」

「そうだね」

俺も、雀耶さんが行ってしまった後、そう考えた。

けど今となっては、それが間違いだと気付けた。

雀耶さんは記憶を思い出せたし、俺も卒業後の目標を決めることが出来た。

同じ道、同じ方向、同じ人の構成だけど、あの時と違うところが幾つもある。

俺と雀耶さんの気持ちや心。

毎日のように散ったことで道に落ちる落ち葉と枝だけの木の数。

その並木道に立つ、一人の女の子……

「……え?」

あんなところに、女の子なんていたか?

この辺りは真っ直ぐな道だから、向こうから来たのしか考えられないけど。それにしても、変わった子だ。年は小学生の高学年くらいか、全身白色の服に身を包み、明るい茶色の長い髪を頭の後ろで一本結びにしている。

そんな女の子は、並木道の真ん中で立ち止まり、明らかに俺達を見ている。

「……」

見ている……と思う。正確にはその目から何も表情を伺えず、見ていないのかもとも思える。

「雀耶さん……あの子、知り合い?」

隣に並ぶ雀耶さんに訊ねてみた。しかし、答えは返ってこない。

「雀耶さん?」

その時、

「…………」

女の子が、手を動かした。

「…………」

左右に動かしたり、両手を合わせたり、指をつけて動かしたり。程々のスピードで毎回異なる動作をしていく。

なんだろう……これ、どこかで見覚えがある。

確か……そう、手話だ。この子がやってるのは多分、手話だ。

しかし、俺に手話を読むことは出来ない。

「緑葉くん」

雀耶さんに名前を呼ばれ、雀耶さんは手話が分かるのかもと思いながら振り向いくと、

「コレ、持っていってください」

何かを手渡された。

それは、イチョウの葉。紅葉し、全て黄色に染まったもので、道いっぱいにも落ちているが、何故かそれには、違う何か、特殊な何かを感じた。

「持っていってくださいって……どういうこと?」

「その様子ですと、やはりわたしが最初のようですね」

様子? 最初? 雀耶さんは何を言っているんだ?

「緑葉くん。あなたにはまだ選択の猶予があります。全ての秋を、全ての選択肢を見た上で、本当の自分の秋を選んでください。緑葉くんがどんな選択をしても、わたしは何も言いません……ですが、少しだけ、期待して待っています。もしよかったら、選んでくださいね」

そう言って、雀耶さんはにっこりと笑った。

「ちょ、ちょっと待ってよ。さっきからいったい何を言って…」

「わたしが言えるのはここまでです。ですが、おのずと分かりますよ。それでは、緑葉くん。またお会いしましょう」

その瞬間、パチン、という音が響いた。

何かと思えば、手話をしていた女の子が指を鳴らした音だった。




その音が止んだ時、俺の視界はまっしろになり



だんだんと―――







―――目覚ましとして使っている携帯のアラームが鳴り響いた。

「ん……朝か」

携帯を取ってアラームを切る。

ふと時間を見ると、

「……あれ?」

何故か、いつもより早かった。

? 今日何か用事でもあったっけ? 思い返してみると、

「……あぁ、そうだ」

思い出した。昨日、竜華に合わせるために早く設定して、そのままだったんだ。

「昨日……」

昨日の帰り道を思い出す。雀耶さんのあの言葉を聞いて、走り去った雀耶さんを見送った後―――特に何も無く寮に帰って来たんだよな。

まぁ仕方ない、今から二度寝したら絶対遅刻するから起きよう。

しかし、いつもより全然早いな、どうするか……

でもまぁ……特に早く出る理由もないし、準備だけしといていつも通りの時間に出るか。




いつも通りの時間に寮を出て、学校へ向かう。

回りには登校中わりとよく見る生徒がちらほらいるが、ほとんどが下級生で名前を知らない。

その中には友達どうしなのだろう、仲良くお喋りしながら歩く生徒達もいる。その声がこの通りの中で一番騒がしく、俺が一人で歩いているというのを強く認識させた。

まぁいつものことだし、別に朝から誰かと話ながら行きたいという訳でもないが……

「緑葉くん!」

後ろから聞いたことのある声が聞こえた。

俺が立ち止まって待っていると、声の主は俺の隣に並んできた。

「おはようございます、緑葉くん」

「おはよう、雀耶さん」

並んで歩き出す。

そうだ、この時間帯に雀耶さんも登校するんだったな。

「今日も良い天気ですね」

「うん、そうだね」

秋晴れ、というのか。見上げれば雲こそあるが晴れた空が視界の上に広がっている。

そんな空の下、俺と雀耶さんは話ながら歩き続ける。学校の事、授業の事、そして竜華の事が主な内容だ。

「それでさ、竜華の料理は…」

「ふふふ、それは逆に一度食べてみたいですね」

「いややめといた方がいいって、俺みたいに放課後まで眠り続けることに……」

そこで不意に思い出した。昨日の放課後、雀耶さんと一緒に帰り、そして、聞いた言葉……

「……あのさ、雀耶さん」

「昨日のこと、ですか?」

気づいていたらしく、先に言われた。

「うん……あれさ、どういう意味なの?」

「あれは……」

雀耶さんは視線を下に向ける。

少しして、顔を上げ、

「……すみません。何となく、言ってみただけなんです」

「え? 何となく?」

「はい、今が続く……そんなことあり得るわけがありませんよね。今だって、こうして前に進んで学校へ向かってるのですから。……だから、深い意味は無いので、忘れて下さい」

「そ、そっか……」

「はい」

雀耶さんはにっこりと微笑んだ。

「……やはり、覚えていませんね」

「え? 何か言った?」

「いいえ、何でもありません」

「? ……うん」

けど、笑ってるのに。その中に別の感情があるように見えて、二の句を継げられなかった。

「さぁ、早く行きましょう緑葉くん!」


最後の方の文章は、4th day1と同じものをほとんど使っています。

よかったら見比べて、何が違うか、どこが増えているか確かめてみてください。


これで、Autumun Vacationはエピローグを迎え、また、新たな始まりを迎えます。

まだまだ続きますので、よろしかったらご拝読を、もしくはここまでの感想を頂けたらと思います。


それでは、次はいつもより早く送れればと願いながら、

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