Autumn Vacation 雀耶
今回は、普段とは別の人視点の物語となっています。
『……これは』
気がついたら、わたしは、どこかの公園にいました
ブランコ、すべり台、鉄棒と、一通りの遊具が揃い、その全てで子ども達が賑やかに遊んでいます
『あ、ここって……』
思い出しました。ここは、昨日緑葉くんと一緒に行った、あの公園です
ですが、こんなに晴れても、子ども達もいなかった筈ですが
『あれ?』
改めて公園の中を見ると、わたしを見つけました
しかしそのわたしは、高校生の姿ではなく、小学生、それも低学年の時の姿
その頃のわたしは、今みたいに髪が長くなく、よく男の子に間違われるくらい短かったでした
その姿のわたしは、ベンチに座り、横にスケッチブックを置いた状態で遊び回る子ども達をしばらく見ていると、スケッチブックを持ち、えんぴつで紙に描き始めた
描いているのは、公園の全体、そこで遊ぶ子ども達、強いては……お母さんに見せたい景色
『……思い、出しました』
わたしがお母さんと約束した。見せたかった景色
でも、今描いているのでは……足りない
ただ一つだけ、それが足りないだけで、その景色にはならない
その足りないものとは……
「ねぇ」
その時、わたしの前に一人の男の子が立ち、声をかけてきた
思い出したおかげで、この後のことも分かります
「一人で何してるの?」
そう訊かれて、わたしは
「絵を描いてます」
そう答え、すると男の子は
「良かったら、一緒に遊ばない?」
そう言って、手を伸ばす
「でも、絵を描かなくちゃいけないので……」
断わろうとしたわたしの
「そんなの後でいいじゃん」
手を握り、引っ張った
「え、あ、あの!」
引かれるがまま、ベンチにスケッチブックとえんぴつを置いて男の子の友達のところへ行って
わたしは、遊びました
最初の方は気が乗りませんでしたが、そこはやはり小学生の低学年、だんだんと楽しくなり、最後には大はしゃぎしていました
遊んでいた一人が門限の為に帰ると言ったので、お開きとなり、わたしはベンチに置いてあったスケッチブックを取りに行って
「あ……」
わたしが、何をしに来たのかを思い出した
それは、お母さんに見せたい景色……
わたしが、友達と遊んでいる景色を
……そう、分かっていた。きっと、その時のわたしも、もう分かっていたと思う
どうやっても、自分が友達と遊んでいるところを自分が絵で描くことなんてできないと
でも、それが分かっていたとしても、わたしはその絵を描いて、病院にいる、お母さんに見せようと思っていた
お見舞いに毎日行くわたしに
友達と遊んでいないんじゃないか、と思わせてしまったお母さんに
その証拠を、見せるためにそのために、わたしは絵の勉強をした。凄い画家の人は、自画像というものも描く、そんな原理で、そんなことを、ずっと続けていた――――――あの時まで
キキィィィィィィ!!
……交通事故にあって、記憶を無くして、でも忘れていなかったお母さんに、病院を出たらすぐに会いに行った
お母さんは、おそらくわざと景色について教えてくれなかった。もしわたしが聞いて思い出したら、またあの時に戻ってしまうから
記憶はいずれ元に戻る。それだけを思って、わたしはお母さんと話し、少し遠い高校に入学した
ここでまた、新しく始めればいい、そう思って、今まで伸ばしていなかった髪を伸ばしたり、新しいわたしとして高校生になった
けれど……わたしは、思い出した。思い出してしまった。ちょうど、その部分を
その時はまだ、曖昧なものだった、しかし、あの人に言われて、それは形になった
そうして、今に、至って―――
「―――さん! 雀耶さん!」
「ん……?」
目を開けた先は、山の中。少し横を見ると、
「緑葉……くん?」
「良かった、気がついたんだね」
「あの……わたしは、いったい……?」
「雀耶! 彰!」
竜華が急な坂を降りてきた。
あ……そうだ、わたし、足を滑らせて……緑葉くんが手を……
「2人共無事……彰! ボロボロじゃないか!?」
緑葉くんはボロボロの状態だった。大きな怪我こそないけれど、すり傷だらけで、服も土で汚れている。
一方のわたしも、無傷ではないけれど、緑葉くんとは比べれないほどきれいだ。
「別に痛くないから大丈夫だよ。転がり落ちた時、雀耶さんをかばっただけだから」
「!?」
わたしを、かばって……だから、わたしはこの程度で、緑葉くんは……
「……」
ひょっとしたら、思い出せた理由……あの時の男の子って……
「雀耶さん?」
「雀耶? やはりどこか痛むのか?」
「……いいえ、少し、思い出すことができたんです」
「思い出すって……記憶を?」
「はい、全部ではないですけど、少しだけ」
「良かったら、教えてくれる?」
「もちろんです。それはですね―――」
「さぁ、着いたぞ」
山吹さん達と合流し、わたし達はついに、頂上へとたどり着いた。
「うわぁ〜!」
「すげぇ……展望台とは大違いだな」
見下ろすように街が広がっている。展望台からはお母さんのいる病院のビルまでしか見えなかったけれど、ここからは更に向こう、海まで見ることができた。
「さくちゃん! 何か思い出した?」
「……」
とても凄い景色、ここまで登った人だけが見ることのできる、特別な景色……だけど、
「……すみません」
何も、思い出すことは出来なかった。
「そっか〜……ざんねん」
「奈津保、カメラを貸してくれないか」
「カメラ? いいけど、どうするの?」
「記念写真を撮るんだ、ここまで登った記念をな」
「なるほど〜、はい、カメラ」
山吹さんが竜華にカメラを渡すと、緑葉くんが横から手を伸ばした。
「俺が撮るから、竜華は入りなよ」
「いや、私はいいから彰が入るんだ」
「あ、じゃあオレが撮ろうか?」
「いや、俺が」
「いいや、私が」
「やっぱりオレが」
緑葉くんと竜華と藍田くんが誰がシャッターを押すかで言いあっていると、
「タイマー使えばいいじゃん」
山吹さんがそう言った。
適当な木の枝にカメラを乗せ、タイマーをセットした緑葉くんが戻ってきて並んだ
わたしの左隣に山吹さん、その隣に藍田くん
右隣に竜華、その隣に緑葉くんが並んで……わたしは真ん中
その並びの、写真が撮られた
後方には街の景色
前にはわたし達、仲良く友達と山登りしてきた。わたし達の景色が
忘れていた過去、思い出してみれば、必ず良い事だとは限らない。
しかし、忘れていたことを思い出すことで、良いことにつながることもある。
彼女はまさにそれを体現していましたね。
ようやく、一つの締めくくりが見えてきました。けど、あくまで一つです。
そのあたりは、また、次の投稿で、
それでは、