1st day Ⅰ
―――という所で、目が覚めた。
「ん……?」
いや、正確には起こされたようだ。机の上で、電話着信のメロディを流す携帯に。
「ったく……誰だよこんな朝早くに」
時計を見ると、セットしたアラームにはまだ20分くらい早い時間だ。電話が鳴らなけりゃまだ後20分は寝てられたのに、と思いながらまだ鳴り続ける携帯を取り、ディスプレイの発信者を見た。
「……竜華か」
名前を確認してから着信ボタンを押した。
「ふぁい?」
まだ眠気の残ったまま変な返事をする。
『なんだ、その妙な返事は?』
案の定指摘された。
「これに起こされたからだよ、普通ならまだ寝てるからな」
『普通なら、だろ? だが忘れてないか? 今日お前がなんなのか』
今日? ……あぁ。
「そうか、今日日直だったな」
しかしつくづく日直の決め方がおかしいよな。小中学校では出席番号とか席順だったが、まさか前日に引いたくじで決めるとか。4日連続してる奴とかいたし。
『日直だったな、ではない。日直だから早く行くのだろう。それなのになぜいつもの時間に行こうとしていたんだ』
あーそうだった。日直は日誌を担任からもらったりとか色々な仕事があって、先生が来る前に終わらせないといけないから早く教室に行く必要があるんだ。
竜華はそれを知ってて(普通は知ってる)俺を迎えに来てくれたのか。
『起きたなら早く支度しろ、あまり遅いと先に行ってしまうぞ』
「へーい」
ぶっちゃけ言えば、先に行かせて任せちゃいたいが……後で何言われるか分からないからな……
あの竜華の事だ。真面目にやっておいてから、俺が反論出来ないと分かって正論で怒ってくるだろう。
「さすがに、それはカンベンだな」
俺は布団から出ると、制服に着替え始めた。
学生寮の自分の部屋の扉に鍵をかけ、俺は寮の入り口に早足で向かった。
扉を開けて外に出ると、
「来たか、思っていたより早かったな」
壁に寄りかかっていた竜華を見つけた。
黒に瑠璃色を溶かしたような濃い青に見える髪を後ろでポニーテールにまとめ、学校指定の冬制服に身を包み、学生鞄を肩にかけていた竜華は、壁から背を離して俺を正面に見た。
青川竜華。俺とは小学生からの知り合い、幼なじみというやつだ。
いや、小学校の6年、中学の3年と、偶然同じになった高校の3年の今に至るまで同じクラスになり続けているから、幼なじみというより腐れ縁と言うべきかもしれない。
「さっさと行くぞ」
俺を見るなり、竜華は背を向けて学校へ歩き出した。俺は隣に行って並んで歩く。
「それにしても、ずいぶん寒くなったよな」
まだ秋と呼ばれる月だが、日に日に冬へ近づく今日、肌に当たる風は冷たく、寒かった。
「だらしないな、今そんな事を言っていたら冬を越えられないぞ」
呆れたという風に竜華は肩を落としため息をついた。なんというか、竜華の俺に対する態度の方が若干冷たい気がした。
まぁ、中学くらいから急にこうなったが、もう慣れた。
「そんな事言ったって寒いもんは寒い、これは冬休みには冬眠するしかないな」
「そんなの私が許さないぞ、冬休みは毎朝叩き起こしてやる」
「げ、マジっすか……」
冬眠とまでは言わないが、冬休みは睡眠時間を増やそうと思ってたんだが。
竜華がこう宣言したら、忘れていない限り必ず実行する。つまりこのままでは冬休みに毎朝叩き起こされるはめに……
なんとか忘れてくれないものか……
「あ」
寒いと言えば。
「どうかしたのか?」
「竜華」
「だからどうした?」
「ありがとな、わざわざ寒い中迎えに来てくれて」
その瞬間、
「な!?」
目を丸くした竜華の顔が赤くなった。この寒い中、逆に暑そうだ。
「な、なにを言っているんだ彰! 私はただ、お前が日直をサボらないように来ただけに過ぎない! か、勘違いはするな!」
いきなり叫んだ竜華は真っ赤な顔のまますたすたと歩を速めて行ってしまった。
「な、何だ?」
何で竜華の奴怒ってんだ? 俺はただ、この寒い中待たせて悪かったな、って詫びただけなんだが。
そりゃまぁ、竜華の言う通り俺がサボらないようになんだろうが、女子寮って男子寮より学校に近くて、来ると必然的に学校への遠回りになるのを竜華が知らないわけないんだけどな。それに、そもそも電話なら寮の前へ来る必要は無いはず。
じゃあ、何で竜華は俺を迎えに……?
「彰! なにをしている、早く行くぞ!」
だいぶ前を行く竜華に呼ばれた。
「……ま、いいか」
考えたところで答えは出ないだろうしな。
もう一度呼ばれる前に、俺は竜華の後を追った。
まずは主人公と、その幼なじみをご紹介。
あれ? そういえば主人公の名前出てない……?
つ、次には必ず出てきますよ……多分。
それでは、