Autumn Vacation Ⅲ
秋休み初日、俺達は駅前のハンバーガー屋に集まった。
昨日別行動していた陽斗と山吹が、情報委員から聞いてきたという、凄い景色とは、
「山の上展望台だよ!」
「なるほど、確かにあの場所から見下ろす街は他にない特別な景色だな」
ここから少し行った所に、山がある。そこには人が作った展望台へ一直線の道があり、休日となれば何人もの人が集うらしい。
特に今は、秋の紅葉シーズンで更に多いとか。
「けどな、そこだけじゃねぇんだ」
そこに陽斗は情報委員から聞いた情報を加えた。
展望台は山の中腹にあり、そこで道も終わっている。
しかし、そこから更に上……山頂へ行ける獣道があり、そこを上がった先から見る景色が、また特別なのだとか。
「つまり、山に登れということか」
「という訳だからさ、早速向かおうぜ」
「いや、待て」
陽斗の言葉に、竜華は待ったをかけた。
「中腹までならば確かに今からでもいい。だが、真の目的地はその更に上だ。人工の道ではなく獣道ならば、下手に行くと怪我をするぞ」
「じゃあ準備すればいいの?」
「あぁ、歩きやすい靴に、水分でもあればいい。後はその日の天候を調べた上で挑むべきだな」
竜華が着々と山登りの計画を立て、陽斗と山吹が質問をしながら形にしていく。
その中、妙に静かだった、
「あの……皆さん」
雀耶さんが口を開いた。
「えっと……ありがとうございます。わたしの為に、ここまで時間を使わせてしまって……」
申し訳なさそうに、雀耶さんは頭を下げた。
それを見て、最初に口を開いたのは俺だった。
「気にしないでよ、俺達は、自分で決めてやってるんだから」
その言葉に、3人も頷いた。
「皆さん……」
「それに、そういうのは記憶を思い出してからさ、ね?」
「緑葉くん……はい、わたし、頑張りますね!」
その後は計画に雀耶さんも加わって、今日は各々準備に時間を費やした。
秋休み二日目。
今日は情報委員から聞いた特別な景色を求め、山登りが結構される……筈だった。
「一応、訊いておこうと思ってな」
『一応も何も、この雨では無理に決まっているだろう』
空は生憎の雨模様だった。どうやら深夜から降っていたらしい。
「どうする? 山の道は多分ぬかるんでるぞ」
『予報では午前中には止み、午後から明日にかけては晴れるそうだ。それ次第だな』
「そうか、じゃあ今日は中止だな」
『あぁ、私は雀耶と奈津保に連絡する。彰は藍田に頼む』
俺と竜華で今日の計画延期を3人に伝え、今日は自由行動となった。
「とは言っても、雨だからって部屋に籠ってるのもな」
山登りには向いてないが、外を歩けないほどではない。
なので俺は、傘をさして寮の外へ出た。
さて、外に出はしたが、どこに行くかな……
「あれ? 緑葉くん?」
「え?」
声がした方向を見ると、雀耶さんが傘をさして立っていた。
「どこかへお出掛けですか?」
「そういう雀耶さんも?」
「はい、先ほど自由行動の連絡がありまして、今日は雨ですので……雨での景色、を見に行こうかと思いまして」
そうか、晴れてる時と雨が降ってる時で、違うふうに見える景色も幾つもあるよな。
「よし、俺も行くよ」
「え? い、いえ、これはわたしの自由行動ですし、緑葉くんも用事があったんですよね?」
「別に、ただ外へ出てきてみただけで予定はなかったからさ」
「で、ですが……」
「大丈夫だからさ、ね?」
「そ、それでは…」
雀耶さんと共に雨の景色を求めて街を歩き回った。
今まで見てきた場所も、雨が降っていることで違って見えていた。
しかし、どこにもアタリはなかった。
「他に見るところは?」
「今日考えていた場所は、ここで全て回りましたけど」
「じゃあさ、一ヶ所行ってみたいところがあるんだけど、いいかな?」
「はい。それは何処ですか?」
「少し遠いんだけど―――」
という感じで、たどり着いた場所は、公園だった。
寮や学校からは離れていて、来るのは今日が初めての場所。今は雨が降っていることもあり、誰もいない。
「公園、ですか……」
「雀耶さんってこの辺りの産まれでしょ? だから子供の頃にここで遊んだことあるんじゃないかなと思ってさ」
「……」
雀耶さんは公園を見回した。
一通りの遊具が揃う、この辺りでは一番子供が集まる公園だ。
おそらく、子供の頃の雀耶さんも来たことがあるて思っていた。
「……ここは」
雀耶さんが呟いた。
「思い出した?」
「いえ……ですが、何か引っ掛かるものがあるんです。ここは、この数年で何か変わったんですか?」
「それは、ちょっと分からないな。俺も久しぶりに来たし」
最後に来たのは、中学生の頃。それから雀耶さんの記憶探しで思い出した今日来るまでの二、三年間は全く来ていないので何か変わっていても分からない。
けど最後に見た時と変化はないと思うけど。
「そうですか……ですが、なんでしょう。何かが、違う気がするんですけど……あれ?」
雀耶さんは何かに気付き、傘を下ろした。
いつの間にか、雨が止んでいた。
「雨、止みましたね」
「明日に、山に登れるといいね」
「はい。頑張りましょう、緑葉くん」
結局、何も思い出すことは出来ず、俺達は公園を後にした。
昼頃に雨は止み、その後は雲がなくなり良い天気となった。
その夜、竜華から一通のメールが届いた。
明日、景色を求めて山登りを結構する。集合時間――-