Autumn Vacation Ⅱ
朱井。雀耶さんと同じ名字だ。
ということは、やっぱり雀耶さんの会わせたい人って。
「お母さん」
中にいる人に声をかけながら雀耶さんは扉を開いて中に入った。
その後に続いた竜華の後に続いて中に入り、扉を閉める。
「あら雀耶……お友達?」
40歳くらいだろうか。雀耶さんのお母さんらしく、雀耶さんととてもよく似ていた。
朱井さんは俺達を見て首を傾げる。
「うん、そうだよ」
俺と竜華は順に挨拶した。
「これはご丁寧に、朱井凰花。雀耶の母です」
朱井さんはゆっくりと頭を下げた。
「お母さん、2人はね…」
「雀耶、悪いんだけど花の水を変えてきてくれない?」
「え? う、うん」
言われた雀耶さんは、花瓶を持って部屋を出ていった。
それを確認した後、朱井さんは口を開いた。
「お二人は、雀耶の秘密を知っているのですか?」
「記憶喪失、ということならば」
竜華が答え、俺も頷く。
「ご存じでしたか……まさか、あの子がそれを話すとは、雀耶はお二人を信頼してるのですね」
「私も、雀耶を信頼していますから」
竜華は素直に返したが、俺はさすがに恥ずかしく思い、頷けなかった。
「時に、よろしいですか?」
「何ですか?」
「雀耶は過去、貴女にある景色を見せると約束したそうなのですが、雀耶はその景色を忘れてしまった。しかし、貴女はその約束、その景色を覚えているのではないんですか?」
そうか、雀耶さんは忘れていても、約束した相手の朱井さんなら覚えてる筈。
だが、
「……ごめんなさい。実は、私もなんです」
朱井さんは何故か謝った。私も? ということは……
「朱井さんも、記憶喪失だと?」
俺が訊ねると、朱井さんはゆっくりと頷いた。
「先にお答えしておきますが、この入院とは関係有りません。これは、また別の理由です」
「では、雀耶と同じく、交通事故に?」
「いいえ。記憶喪失は、大きなショックによるものです」
大きなショック?
「まさか、雀耶の記憶喪失で……?」
「信じられないかもしれませんが、ちょうど雀耶と同じ時代、雀耶が小学生の頃を忘れているんです」
そ、そんなことがあるのか?
確かに自分の子供が交通事故にあって記憶喪失になったりするような大きなショックならとは思う。けどまさかちょうど同じ部分の記憶を忘れるなんて。
「それを話したということ、そして私に会わせに来たということは、もしかしてお二人は…」
「はい、記憶を探す手伝いをしようと思っています。私達の他にも後2人、今は別行動をしていますが」
「そうですか……雀耶を、よろしくお願いします。あの子は―」
朱井さんが何か言いかけた瞬間、俺の携帯が鳴り響いた。
「あ、す、すみません」
なんてタイミングだよ。さっき竜華に言ったのが台無しだ。
「ふふふ、お気になさらず」
朱井さんはやんわりと微笑んだが、竜華は、それ見たことか、という目で俺を見ていた。
俺は部屋の外に出て、着信ボタンを押した。発信者は陽斗だ。
「お前な、もう少しタイミング考えろよ」
『は? 何今どこにいんの?』
まぁ、そりゃそうか、電話先の相手が何処居るのかなんて分かんねぇよな。
「病院。隣駅のな」
『あー、そりゃすまん……て、何で病院にいるんだ? 誰かケガでもしたのか?』
「それは会った時に話すから、そっちの用事は?」
『そうだった。見つけたぜ、スゴい景色の情報をな』